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麻しん排除へ向けて、沖縄はどうなのか?
〜はしか“0”キャンペーン週間(5/16 〜 5/22)に寄せて〜

町田孝

まちだ小児科 町田 孝

2009 年〜 10 年のシーズンは新型インフルエ ンザで記憶に残る年になりました。幸い、本命 と思われていた鳥インフルエンザ(H5N1)に 比べると今回流行した新型は毒性が弱かったよ うで、第一波は最悪の事態をまぬがれたという 感じかもしれません。この新型インフルエンザ への対策に大きな力が注がれた結果、MR ワク チンの接種率が低下したかも?と心配の声も聞 こえてきますが、会員の皆様はどのようにお感 じでしょうか。

《国のめざす麻しん排除》

「日本は麻しんの輸出国である」として諸外 国から非難の声を浴びていた日本ですが、 WHO の「西太平洋地域において2012 年まで に麻しんを排除する」という目標に同調して 「麻しん排除計画」が作られました。(排除とは 麻しんの診断例が一年間に人口100 万人あたり 1 例未満の状態です)

この麻しん排除計画の内容は次のようなもの です。

1)麻しんと風しんを全数把握疾患とする

2)麻しんワクチンの2 回接種を行っていない 世代に対してのキャッチアップキャンペーン を行う(具体的には平成20 年から5 年間行 われるMR ワクチンの3 期と4 期が相当)

《全数把握》

沖縄県ではすでに2003 年1 月から全数把握 制度が稼働していますが、特筆すべきは当初か ら全例の検査診断を目指して実際に大部分のケ ースで行われている事です。具体的には各保健 所が報告の取りまとめと同時に検体の輸送も担 当し、県衛生環境研究所においてウイルス検査 および遺伝子解析を行っています。

全数把握制度においては“疑いの段階での届 出”が重要です。その理由の一つは、感染拡大 を防ぐためには疑いの段階から迅速な対応が必 要であること、二つ目には、麻しんの流行が減 少するにつれて相対的に修飾麻疹など臨床診断 が難しいケースが増加するためです。このため “疑いの段階での届出”と“検査診断の実施” はセットで行うことがきわめて重要です。

2008 年から始まった国の全数把握ですが、 現時点では検査診断の裏付けという点では地域 差が大きく、沖縄県のようにほとんどの症例で 検査診断が行われている地域ばかりではないよ うです。

《低迷する接種率》

2006 年度から開始されたMR ワクチンの1 期接種と2 期接種、そして2008 年度からは二 回接種を受けていない世代のために3 期(中学 1 年相当世代)と4 期(高校3 年相当世代)が 5 年間限定で行われています。麻しんの排除の ためには接種率を95 %まで上げる必要がある と言われていますが、沖縄県の2008 年度の接 種率は1 期97.9 %、2 期88.1 %、3 期84.3 %、 4 期76.8 %と1 期以外は不十分な結果です。 2009 年度は12 月末の集計で2 期65.3 %、3 期 68.1 %、4 期53.1 %という接種率でした。

《福井県、秋田県そして沖縄県》

2008 年度の福井県、秋田県、沖縄県のMR ワクチン接種率を表に示します。 (括弧内は都道府県別の順位)

秋田県は1987 年〜 88 年に10 名が死亡する という麻しんの大流行があり、このため市町村 の予防接種担当者が高いモチベーションを持ち 続けているのが接種率が高い要因と言われてい ます。また2007 年12 月には大館市における流 行があり、市の教育委員会が、学校保健法第 12 条(現学校保健安全法第19 条)により未接 種者を「感染症にかかるおそれのある児童生 徒」とみなして、出席停止措置を要請するとい う画期的な対策をとったことで有名です。

福井県は早くから予防接種台帳の充実と有効 活用に力を入れて、台帳による未接種者の把握 と個別の勧奨で高い接種率を達成しています。 福井県で開業されている橋本剛太郎先生は「集 団接種を行えば短期間に接種率向上を期待でき るが、個別接種主体でもここまでできる」とし た上でさらに『予防接種の必要性を伝え、自ら の意志で接種を受けるという文化を創造するこ との重要性』にも言及されており、この点は今 後のわが国の予防接種のあり方を考える際に忘 れてはならないことでしょう。

沖縄県は2008 年度の1 期の接種率は目標と される95 %を超える事ができました。しかし この接種率を今後も維持するためにはさらなる 努力が必要と思われます。また2 期、3 期、4 期に関しては表のような低い接種率です。今後 もこの状態が続くのであれば感受性者数が期待 通りに減少せず、2012 年の麻しん排除達成は 困難と思われます。

《美ら島沖縄総体に向けて》

今年は沖縄県にて高校総体が開催さ れます。ここ数年間の麻しんのアウト ブレイクのほとんどは10 代後半から20 代にか けての世代が中心であり、高校生が大勢集まる 高校総体は麻しん対策を抜きには考えられませ ん。病気の重症度や感染力はインフルエンザよ りはるかに強力ですが、参加者の多くが麻しん ワクチンの二回接種を終えていれば、アウトブ レイクは起きません。そこで現在、県内の多く の市町村ではMR ワクチン接種の前倒し接種が 行われています。4 期の対象にならない高校2 年生と1 年生に相当する世代へMR ワクチンを 前倒しで接種するものです。高校総体は選手だ けでなく大会運営関係者や観客など多数の人が 集まる場となりますから、できるだけ多くの人 が麻しんの免疫を持っている事が望まれます。

《はしかゼロキャンペーン週間》

例年5 月には「はしかゼロキャンペーン週 間」が行われています。今年は5 月16 日(日) 〜 22 日(土)の1 週間で、初日の16 日にはオ ープニングセレモニーが県庁前の県民広場で 14 時から開催されます。また同日琉大医学部 の学生さんが中心となったフォーラムも計画さ れています(今年で3 年目になります!)学生 とはいえ非常に充実した内容です。学生フォー ラムは、沖縄県小児保健センターにて16 時頃 開始予定です。多くの方の御参加をお待ちして います。