常任理事 大山 朝賢
去る2 月27 日(日)、日本医師会館において 今村聡常任理事の司会のもと、標記総会が開催 されたので報告する。
挨 拶
日本医師会の唐澤人会長より、概ね以下の とおり挨拶があった。
各地域においては平素から糖尿病対策にご尽 力いただいていることに対して心から敬意を表 する。
日本糖尿病対策推進会議は、平成17 年2 月 に、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会、日本医 師会の三者で設立された。その後、平成19 年8 月に日本歯科医師会、平成20 年2 月に健康保険 組合連合会と国民健康保険中央会にご参加いた だき、様々な活動を展開しているところである。
厚生労働省の国民健康栄養調査によると、糖 尿病予備軍を含め糖尿病患者は2,210 万人と推 計され、その増加のペースは加速している状況 である。
我が国においては、国立国際医療センターを 中核機関として、糖尿病の本体解明や治療法の 開発、普及等について取り組むこととなってい る。また、医療計画の4 疾病の一つとして糖尿 病が位置付けられる等、医療体制の構築が求め られている。生活習慣病対策は、国民の健康保 持増進のための重要な課題であり、特に糖尿病 についての対策は最重要課題と認識している。
本会議では、糖尿病対策として、かかりつけ 医が行う治療の標準化、患者、医療従事者への 啓発、関連データ収集のための調査等の活動を 行っている。多面的な活動だと言える。
都道府県や、郡市区レベルで立ち上げられた 糖尿病対策推進会議は、その地域の実情に応じ た構成団体で組織され、行政主導ではなく自発 的な取り組みとして活動されている。地域住民 の方々のために果たす役割は極めて顕著であ る。日頃から感謝している。
日本糖尿病学会の門脇孝理事長より、概ね以 下のとおり挨拶があった。
日本糖尿病対策推進会議は、平成17 年に、 我が国の糖尿病対策を進めていく上で、糖尿病 の一次予防また早期発見・早期治療そして病診 連携をミッションとして結成され、我が国の糖 尿病対策の中で中核的な役割を果たしていると 考えている。
日本糖尿病学会では、昨年11 月29 日に開か れた理事会で、以前の糖尿病対策の5 カ年計画 を改定し、新しい糖尿病対策の5 カ年計画を確 定し、現在ホームページ上等でその内容につい てお知らせしているところである。
糖尿病学会の糖尿病対策には二つの柱があ る。一つ目は糖尿病の研究を推進するというこ とであり、糖尿病の本体解明として、日本人糖 尿病の遺伝子等もいくつか発表され非常に進ん でいるところである。また厚生労働省戦略研究 として、糖尿病予防の研究、通院中断を減少さ せる研究、また糖尿病合併症を減少させる研究 にご協力させていただいている。二つ目は糖尿 病研究の推進であり、これは糖尿病の新しい治 療予防戦力ということに繋がる。現在まで解明 されている様々な事実に基づき、治療予防の環 境を向上させるということがもう一つの柱であ る。この予防治療環境の充実向上の上で中核的 な役割を果たしていただいているのが、この日本糖尿病対策推進会議ではないかと考えている。
我が国の糖尿病患者あるいは予備軍の方が、 より良い生活あるいは人生を送るためには、開 業医の役割は非常に大きいものだと考えている。
日本糖尿病学会で、現在、重点を置いて取り 組んでいる項目が二つある。
一つは診断基準を改定するという問題であ る。これについては、昨年11 月1 日に糖尿病 学会主催のシンポジウムを開催し、糖尿病であ りながらその診断が遅れており、その間に合併 症が進んでしまうという懸念を出来るだけ少な くするために、現在特定健診等でも用いられて いるHbA1c を診断基準に加え、全体として診 断の間口を広げることにより早期診断に役立て たいということで現在進めている。来る3 月の 理事会で案を確定した後、ホームページ等で案 を発表し、忌憚のないご意見を寄せていただ き、5 月下旬の糖尿病学会で最終的に確定し、 我が国の糖尿病の早期診断に役立てたいと考え ている。
もう一つは、HbA1c の国際標準化の問題で ある。我が国のHbA1c は、その測定の精度等 は世界に誇るものになっている。しかし、アメ リカを中心にして国際的に用いられている基準 と最近の国際臨床科学会の調査によると0.4 % 程度日本の値が低いということで、この精度を 維持しながら実際の国際的な値に0.4 %を加え て読みかえるということを、早ければこの7 月 から行っていきたいと考えている。HbA1c を 国際的に統一するということは、我が国の糖尿 病の診療あるいは研究がグローバリゼーション を進めていく上でどうしても必須なことであ る。これを進めていく上で、従来のHbA1c と 併記するということを1 〜 2 年は行い、混乱が 起こらないよう最大限の注意を払って進めてい きたいと考えている。それを進める上で、日本 医師会をはじめとして今日お集まりの先生方が その主旨を十分にご理解いただき、この HbA1c の国際標準化がスムーズに行えるよう、 私共も最大限の情報提供、先生方のご意見聴取 ということをしながら進めていきたいと考えて いるのでご協力お願いしたい。
日本糖尿病協会の清野裕理事長より、概ね以 下のとおり挨拶があった。
日本糖尿病協会は、日本糖尿病学会、日本医 師会、日本歯科医師会と密に連携し、特に各都 道府県において糖尿病対策を推進している。と りわけ、糖尿病知識の啓発あるいは療養指導に 重点を置いて運動を進めている。
特に推進が望まれているのが、糖尿病に関わ る人に対する知識の向上等、草の根運動的な取 り組みとなる。
その一つとして、世界糖尿病デーを学会、医 師会と共に行っているところである。ブルーラ イトアップ作戦は、日本が東京タワーをブルー ライトにするということから世界中に広がって いき、現在1,000 を超え、我が国でも昨年は非 常にたくさんの地域でこのブルーライトアップ が行われ、それなりに世間の方々の認知も得た のではないかと考えている。糖尿病週間とし て、街頭等での市民の健診等にも広げていきた いと考えている。
もう一つは教育ということであり、医師の教 育等については糖尿病学会が大変な尽力をされ ているが、コメディカル教育や患者教育も大変 重要である。日本糖尿病協会では、糖尿病啓発 用の資料を作成し、早速この春から各都道府県 の推進会議等でご説明し、是非とも市民あるい は糖尿病患者に啓発していきたいと考えてい る。この糖尿病対策はいくら頭で考えていても 体が動かないと推進出来ないので、本日お集ま りいただいた各都道府県の代表の方が核とな り、その地域のいろいろな人材を育成し、これ が有効に機能するようにお願いしたい。
日本歯科医師会の大久保満男会長より、概ね 以下のとおり挨拶があった。
歯科医師会が本会議に参加させていただいて いる大きな理由として、歯科医師会が扱ってい る歯周病が糖尿病と深い関係があるということ は、先生方はご承知のとおりでる。
歯周病の治療をする際に、その患者さんが糖 尿病に罹っていると歯周病の治療がやりにく い、そういう経験を得ていた。同時に、近年、 歯周病が存在すること自体が糖尿病の治療予防 管理に極めて大きな関係があるという新たな知 見も出てきた。つまり私ども歯科医師会が受け 身の姿勢ではなく、歯周病の治療を通して糖尿 病と向き合うという新しい領域に入ったという ことを意味しており、これは医療連携を含め、 新たな領域に足を踏み入れたと思っている。
私どもは、「歯科医療は生きる力を支える生 活の医療」だと定義している。先生方も糖尿病 の患者さんの生きる力を支えるというミッショ ンは根本のところで同じだろうと思う。歯科医 師会に対するご理解を賜り、これからも医療連 携のために様々なご指導をいただきたい。
東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌 内科講師の西村理明先生より、日本糖尿病対策 推進会議活動に関する調査結果について報告が あった。
本調査は、「我が国における糖尿病診療の実 態」、「日本糖尿病対策推進会議の認知度」、「糖 尿病に関する医療連携の実態」等を明らかにす ることを目的に、2008 年3 月、各都道府県の 日医会員から無作為に100 名ずつ抽出した 4,700 名を対象に実施されたものである。
調査の結果として、回答率は44.5 %となり、 回答者が所属する医療機関は、無床診療所 56.0 %、病院32.5 %、有床診療所11.6 %とな っている。標榜科別では、内科53.1 %、消化 器科18.8 %、外科17.3 %、小児科17.2 %、循 環器科11.2 %等となり、そのうち糖尿病診療 をしている回答者は67.3 %で、うちOGTT を 施行していると答えた回答者は40.5 %、イン スリン治療を施行していると答えた回答者は 53.9 %、栄養指導ができるとした回答者は 54.2 %となっていると説明された。
日本糖尿病対策推進会議及び糖尿病治療のエ ッセンスの認知度については、約4 割であった と報告があり、西村先生より、「両者の認知度 を更に上昇させる有効な対策が必要である」と 意見された。
医療連携については、糖尿病に関する医療連 携を行っている、更には逆紹介を受けるとした のは回答者の約6 〜 7 割となり、その割合は、 内科を標榜しており、かつ糖尿病を診療してい る者に限定すると約7 〜 9 割と高率となってい ると説明があった。
日本医師会の今村聡常任理事より、都道府県 医師会糖尿病対策推進会議活動に関する調査結 果について報告があった。
本調査は、2009 年11 月、日本医師会が各都 道府県医師会における糖尿病対策推進会議の活 動状況を把握することを目的に実施されたもの である。
調査の結果として、糖尿病の医療体制の構築 に医師会が関わっているとした都道府県は35、 関わっていない6、不明3、未定3 となってい ると説明された。
各都道府県における糖尿病対策の取り組み内 容については、糖尿病の正しい知識や予防啓発 を目的とした市民向け講演会の企画開催が行わ れるとともに、世界糖尿病デーにブルーライト アップを行う等の活動が行われていると報告が あった。
(1)千葉県における活動
千葉県医師会理事の篠宮正樹先生より、千葉 県における事例について報告があった。
千葉県では、2007 年7 月に千葉県糖尿病対 策推進会議が設立され、これまでに3 回の学術 講演会が開催されるとともに、糖尿病腎症患者 の調査等が行われていると報告があった。
また、千葉県では、千葉県に100 万人以上と される糖尿病・糖尿病予備軍を、「全県共用型地域医療連携パス」を用い地域で診るという方 針を掲げ、診療記録等の患者情報を全県で共用 し、一貫した医療を提供する試みを行っている と説明があり、これからの方向性として、連携 マップの作成や連携コーディネーターの養成、 市民への啓発活動、特に子供たちへの講話等を 行っていく予定であるとの考えが述べられた。
(2)高槻市・島本町地域における糖尿病対策 推進の現状
高槻赤十字病院糖尿病・内分泌・生活習慣 病科部長の金子至寿佳先生より、高槻市・島本 地域における事例について報告があった。
高槻市島本地区では、平成19 年より、医療機 能の分化と連携を重視し、従来の一病院完結型 の医療から地域一体型の医療を目指すことを理 念に、地域連携クリティカルパスを発足し、そ の運用を行っていると説明があり、パスの連携 システムやパス導入時の患者への案内方法、情 報提供書の項目等の内容について報告があった。
パス導入の利点として、「治療方針や診療情 報が把握しやすい」、「治療内容の均一化と水準 の維持」、「病診連携の円滑化による治療継続」 が挙げられ、問題点として、「診療所からの組 み入れ症例が少ない」、「病院によってパスに取 り組む姿勢の違い」が挙げられると説明があ り、今後の課題として、「眼科受診実績の把 握」、「合併症予防に対する共通の認識を更に高 める」、「データベースの電子化」、「定期的な勉 強会」を検討しているとの考えが述べられた。
埼玉医科大学病院小児科教授の雨宮伸先生 より、小児2 型糖尿病の実態と今後の課題につ いて報告があった。
学校保健統計調査の1977 年度と2005 年度 を比較すると、小児のどの年代においても糖尿 病が増えていると説明があり、そのうち、1 型 糖尿病と2 型糖尿病の割合や発症年齢の分布等 について報告があった。
報告では、2 型糖尿病と肥満との関連とし て、5 〜 17 歳の患者について平成17 年登録例 でみると2 型継続例は肥満度2 0 % 以上が 68.5 %を占め、平成18 年は65.2 %、平成13 年〜 16 年登録継続事例は61 〜 67 %と、肥満 の改善傾向はみられていないと説明があった。
また、成人病胎児期発症説として、「現代の 日本人妊婦は、過度な食事制限から正常な妊娠 期間の体重増加を制限しすぎで、子宮内発育不 全児が多くなっている」と述べ、インスリン抵 抗性に関連する肥満、糖尿病、高血圧、多嚢胞 性卵巣、思春期早発等の危険が高まり「小さく 産んで大きく育てるは誤り?!」との考察が述 べられた。
おわりに、小児・思春期生活習慣病検診の課 題として、予防・治療に関する啓発活動に取り 組むとともに、家庭・学校・社会及び医療現場 での支援体制の整備が更に重要になるとの意見 が述べられた。
日本臨床内科医会常任理事・菅原医院院長 の菅原正弘先生より、糖尿病神経障害の実態に 関する調査結果について報告があった。
本調査は、平成18 年10 月から平成19 年12 月、全国の医療機関にて受診中の糖尿病患者を 対象に「足チェックシート」を用いて実施され た調査となっている。
全国で実施された足チェックシートを集計し た結果、全国の糖尿病受診患者の約5 %に相当 する198,353 例が得られたと報告があった。
結果から平均値を算出すると、糖尿病罹患期 間1 0 . 5 (± 8 . 4 )年、性別男5 7 . 0 %、女 43.0 %、年齢64.4(± 11.9)歳、病型2 型 94.8 %、1 型5.2 %、身長159.3(± 9.5)cm、 体重61.9(± 12.6)kg、BMI24.3(± 3.9)、 空腹時血糖値140.1(± 47.2)、HbA1c7.1(± 1.4)%となり、糖尿病治療の内容については、 経口血糖降下薬5 8 . 7 % 、インスリン治療 19.7 %、経口血糖降下薬+インスリン治療 4.6 %、食事療法のみ17.0 %となっている等の 報告があった。
また、足の症状及び足の外観異常の頻度、神 経機能検査の異常頻度、糖尿病神経障害の診断 と神経機能検査等の関連についても詳しく報告 があった。
本調査により、糖尿病患者の日常生活に多大 な影響を与える糖尿病合併症への対策の一つと して、足チェックシート等のツールを活用し、 足の症状や外観異常を定期的に診察すること、 及びアキレス腱反射や振動覚検査等の機能検査 を定期的に実施することの重要性が再認識され たと説明があり、これらのことを定期的に実施 していくにあたっては、医師のみならずコメデ ィカルと連携し、チームによる医療として取り 組んでいくことが重要であると意見された。
質疑応答
各都道府県医師会より活発な質疑応答が行わ れた。
閉会挨拶
日本医師会の岩佐和雄副会長より、閉会の辞 が述べられた。
印象記
常任理事 大山 朝賢
去った2 月7 日(日)、日本医師会館で第3 回日本糖尿病対策推進会議(以後対策推進会議)が 開催された。第1 回総会は平成17 年2 月、第2 回は平成18 年11 月で、開会の挨拶では対策推進 会議を立ち上げた日本糖尿病学会、日本糖尿病協会及び日本医師会3 者の代表が挨拶された。今 回の第3 回総会では平成19 年8 月にこの会議に参加された日本歯科医師会長の挨拶が加わった。
この対策推進会議は第1 回総会のあと都道府県に支部が結成された。当沖縄県では平成18 年6 月22 日、設立役員会が旧医師会館で開催されている。当時琉大第2 内科須信行教授が会長、宮 城信雄沖縄県医師会長が名誉会長として日本医師会に報告されている。
対策推進会議の主旨は、糖尿病に関する一定の研修又は講習を受けた医師会員はその所属する 医療機関共々対策推進会議推薦登録名簿に登録し、市長村等で糖尿病の疑いのある人に精密検査 及び一次医療機関としてその登録名簿を配布することであった。これら文言に対し日本医師会か らはなんら苦言はなかったものの、日本糖尿病学会から「それはまかりならぬ」という強いクレ ームが出て、その後の対策推進会議は、他府県同様、活動が停滞していった。
今回第3 回推進会議総会での報告では、糖尿病やメタボリックシンドロームに対し、活発に活 動しているのは沖縄県と同様、郡・市あるいは地区医師会が殆どであった。しかし事例報告で千 葉県医師会篠宮正樹理事の報告は秀逸であった。篠宮先生は平成17 年、生活習慣病防止にとりく む市民と医療者の会「小象の会」をNPO として立ち上げられ、これを中心に千葉県全体の糖尿 病対策まで発展させたことである。平成21 年4 月から糖尿病のみならず、がん・心筋梗塞・脳卒 中のいわゆる4 疾病に対し「全県共用型地域連携パス」を用い、地域で診るという方針で活動中 との報告であった。篠宮先生の報告を拝聴しながら沖縄でも糖尿病だけでなく4 疾病が全県共用 型連携パスで出来るよう努力せねばならないと思ったことである。