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平成21 年度学校保健講習会及び母子保健講習会

冨名腰義裕

海邦病院小児科 冨名腰 義裕

平成22 年2 月20 日(土)、21 日(日)、日本 医師会館にて開催された講習会に初めて参加し ました。

学校保健講習会は昨年までの学校医講習会か ら名称を改め学校保健に関わる全ての医師を対 象にしたものになりました。

1 日目は学校保健講習会でした。今回参加し た目的はシンポジウム「犯罪被害から子どもを 守る」を聴くことでした。内容は、児童・生徒 の犯罪被害、性犯罪について警察庁の方から、 薬物乱用について文科省の方からの報告があり ました。そして、「セ−フスクールへの道」と 題して大阪教育大学附属池田小学校校長藤田先 生の発表がありした。

犯罪総数は平成14 年以降減少傾向にあるにも かかわらず被害者に占める子どもの割合は増加 傾向にあることが示されました。性犯罪につい ては子どもが弱者であるがゆえに被害にあって いることが改めて示され、子どもたちをなんとし ても守ってあげなければならないという思いを強 くしました。池田小学校についてはハード・ソ フト両面からの安全対策がこれでもかというほ どに尽くされ、これが学校かと思わされるところ も多々ありましたが、一つ一つの考え方はどれ も大切であり我々も取り入れるべきものである と感じました。また、校長先生の「子どもたちの 安全を維持推進するのは防犯機器ではなく教職 員・地域のまなざし(関心)と実際の活動(確 認)である」とのお言葉にはほっとしました。

シンポジウムに先立って4 つの講演がありま した。

学校保健教育行政の課題としては、新型イン フルエンザの他に麻しん対策、アレルギー疾患 対策、眼科検診の課題についてお話がありまし た。インフルエンザや麻しん、性の健康教育の お話も興味深いものでした。もうひとつ眼科検 診については、全国の半分の幼稚園で視力検査 が行なわれておらず、就学時検診で視力測定を していない自治体もあるとのことでした。弱視 や斜視は早期治療が必要なため眼科検診の重要 性を再認識しました。

2 日目は母子保健講習会でした。午前は2 つ の講演がありました。

1 題目は「現代における子どもの貧困」という 重いテーマでした。子どもの貧困率は14.2 %、 約300 万人にのぼるとのことです。これはバブ ル崩壊後に始まったものではなく80 年代から 進行して今日に至っており、他の国々では政府 がさまざまな取り組みをしているが日本ではな んら手付かずの状態にあるということです。ヨ ーロッパ諸国では政府からの手当や給付で子育 てができるが、日本はそれらが極端に少ないた め、特に一人親世帯ではワーキングプアが増加 して満足に子育てができないのです。

2 題目はガラッと変わって遺伝進化と文化進 化からみてヒトはどこへ向かうのかという大き なテーマでした。類人猿はジリ貧なのにヒトは 大繁栄しているのはすごく不思議なこと、から 始まりいろいろな視点からヒトをというものを 考える時間が持てました。

午後はこの日のメインである「妊娠から育児 までの継続的支援」というシンポジウムでした が時間の都合で聴くことができず残念でした。

両日とも通常の学会や研修会とは異なった内 容で多くのことをいただいた気分でした。

印象記

宮里善次

理事 宮里 善次

平成21 年度学校保健講習会

平成22 年2 月20 日(土)、『平成21 年度学校保健講習会』が日本医師会館で行われた。

唐澤会長の挨拶に続いて、午前中に三題、午後一題の講演、最後に「犯罪被害からこどもを守 る」と題して、シンポジウムが行われた。

その中で特に印象に残ったものは、日本眼科医会常任理事の宇津見義一先生が講演された「小 児の視力の発達」である。小児の両眼視機能は5 〜 6 歳で完成し、視力のそれは8 歳まで続く。現 在視力検査は3 歳と小学校就学前と定められているが、その根拠は母子保健法と学校保健安全法 である。日本眼科医会のデータでは幼稚園で視力検査を施行しているところが48.3 %と半数にみ たない。年齢別では年少児では12.4 %、年中児で26.9 %、年長児で46.8 %と小さい子ほど検査 されていない。

演者は問題点として斜視と弱視をあげていた。本来幼児では裸眼視力検査のみでよいが、斜視、 弱視などが疑われる場合は、矯正視力検査のみならず、屈折検査が必要で、その検査は必ず調節 麻痺薬を点眼して他覚的な検査を必要とする。弱視や斜視は治療開始が早いほど効果が高く、で きれば3 歳までに治療を開始するのが望ましい。

しかしながら、年少児の裸眼視力検査が12.4 %と極めて低い現状なので、斜視や弱視の検査に 至るケースが見逃されることが少なくない。両眼視機能が形成される5 〜 6 歳時点で、無治療で あった外斜視は3D 感覚が形成されないと強調されていた。

母子保健法で定められた年少児での検査施行、早期発見と早期治療が重要と実感させられた講 演であった。

紙面が限られているので、他の講演内容とシンポジウムは報告をご参照いただきたい。

平成21 年度母子保健講習会

平成22 年2 月21 日(日)、平成21 年度学校保健講習会に引き続き、平成21 年度母子保健講習 会が開催された。

午前中に三題の講演と午後は「妊娠から育児までの継続的支援」と題してシンポジウムが行わ れた。

児童福祉司の山野良一氏による「現代における子どもの貧困」と人類学者の長谷川眞理子氏の 「ヒトはどこへ向かうのか」を興味深く拝聴した。

子どもの貧困率の国際比較によれば、OECD30 国の中で、日本は12 位と高く、20 歳代の一人 親家族の比率が極めて高い。中でも母子家庭がそのほとんどを占めているため、演者は母子家庭 に対する支援を強く述べられていた。会場からの質問に対して、新政権による子ども手当も現金 給付ではなく、現物支給の形が望ましいと、かなり具体的に答えられていた。

続いて登壇した長谷川氏は、500 万年前にヒトが類人猿と分かれてどこへ向かおうとしている かを述べられた。

類人猿は赤道辺りの森林地帯に残り、今や生存さえ危ぶまれるようなじり貧な状態である。一 方サバンナを出た人類は地球上あらゆる所に分布し、大繁盛である。両者の違いは何なのか?

長谷川氏によれば、ヒトは前頭葉前野が発達したことで、他者の心を読み、思いを同じくして、 概念を共有し、共同作業ができるようになり、その結果を次世代に伝達できるようになった。ま た、「私」と「あなた」と「外界」の三項関係を理解することで言葉が生まれ、文化が生まれ、教 育が始まったと云う。

さらに、類人猿とヒトの大きな違いは『繁殖に貢献しないおばあさんの存在』らしい。「ヒトの おばあさん」は経験を伝えることで一族の子育てを手伝い、母親の負担を減らす役割を担ってい る。言い換えれば、古代の人間社会では母子家庭はありえない存在であり、そのことが人類を繁 盛させてきた一因である。

さて、先に講演された母子家庭の貧困に対し、長谷川氏は、現代人は間違った方向に行こうと しているのではないか、と警告されたことが強烈な印象として残った。

紙面上、他の講演やシンポジウムは報告を参考にしていただきたい。




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