沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 4月号

古くて新しい『漢方療法』

友利寛文

那覇市立病院 外科・漢方外来
友利 寛文

はじめまして那覇市立病院の友利寛文(とも りひろふみ)です。今回は沖縄漢方医学研究 会の会長仲原靖夫先生より推薦していただいた ので漢方の話をいたします。

昨年は漢方薬が仕分けの対象となり保険適応 からはずされるのではないかと危惧されました が、会員の皆様のご署名活動のご協力により何 とか維持できそうですので紙上を借りてお礼申 し上げます。大変ありがとうございました。東 洋医学会の寺澤先生より報告がありましたので 引用します。1)

■ご署名有難う御座いました。皆様の声が政府 に届きました(平成21 年12 月22 日)

このたびの行政刷新会議の「仕分け」による漢 方薬の保険外しの動きに対して「その様なことは しないで欲しい」という署名活動を展開いたしま したところ、皆様のご署名が約3 週間という短期 間で何と924,808 人に達しました。この声を厚生 労働大臣にお届けしましたが、本日(12 月22 日) 政府予算案の骨格が固まり、「漢方薬の保険適用 の維持」が本決まりとなりました。

皆様の絶大なご賛同に感謝致します。

漢方を提供する側の私どもは、皆様の期待に 誠実にお応えするように、一層の研鑽に励みた いと存じます。最新の情報をお伝えすると共に 重ねてお礼申しあげます。

日本東洋医学会 会長 寺澤捷年

すでに漢方を臨床に使用(利用?)している と思いますが漢方の話題を取り上げたいと思い ます。

はじめに

『漢方って効くの?』と以前はよく質問され ました。最近でも聞かれることがありますが先 生方は漢方の効果についてどうおもわれている でしょうか。ある漢方薬の効果は著効と有効を 合わせて90 %にものぼるというデータもでて います。

つい先日私の外来にこられた30 代の女性は 10 年以上も皮膚のトラブル(皮膚炎)に見舞 われていたそうですがある漢方薬を1 週間服用 しただけで8 割がた消失したと喜んで来院され ていました。確かになかなか効きづらい疾患も あると思われますが効く場合は飲んで5 分から 効果を実感できるものまであります。

今回このコーナーを利用して消化器外科分野 における漢方の重要性と最近の話題についてお 知らせできればと思います。

古典にみられる外科漢方

漢方薬を運用するのに日本漢方と中医学があ るのをご存知でしょうか。厳密ではありません が方剤や方剤中の生薬は変わらないのですが治 療にたどり着くまでの考え方の違いや言葉の違 いから分けられえいます。

異なる両医学ですが約2 千年前に編纂された 傷寒論しょうかんろん (急性熱性疾患をあつかいます)、 金匱要略きんきようりゃく (慢性疾患をあつかいます)などの古典を 参考にしています。(日本漢方の古方派は両古 典がバイブルです)

現在消化器領域ではかかせない大建中湯も金匱要略に出典をみます。

金匱要略では、『心胸中大いに寒痛し、嘔し て飲食するあたわず、腹中冷え、上衝して皮起 こり、頭足ありてあらわれいで、上下痛みて触 れ近ずくべからざるは、大建中湯これをつかさ どる』と大建中湯を使用する症状を示していま す。お腹が冷え嘔吐があり腹部に痛みがあると まさに腸閉塞そのものの記載と思われます。

代表的な漢方薬

外科領域でよく使われる方剤をあげてみます。

1, 大建中湯:イレウスや術後の便通異常に使用します

2, 十全大補湯:術後のQOL の改善、抗癌剤副作用の軽減にしようします。

3, 補中益気湯:術後のQOL の改善、抗癌剤副作用軽減にしようします。

4, 六君子湯:胃切後逆流症状の改善に使用。

5, 半夏瀉心湯:イリノテカンの下痢に使用。

6, 柴苓湯:乳がん術後リンパ浮腫、術後浮腫に使用。

7, 牛車腎気丸:パクリタキセルの痺れに使用。

8, 芍薬甘草湯:筋痙攣、こむらがえりに使用。

9, 桂枝茯苓丸:乳腺症、ホットフラッシュに使用。

10, 茵蒿湯:術後の肝障害、黄疸に使用。

11, 茯苓飲:胃切後の吻合部狭窄に使用。

外科の中での漢方の重要性

前出の漢方薬は平成17 年の日本臨床外科学 会での外科漢方研究会でのアンケート調査の結 果使用頻度の高い順に並べています。漢方薬を 使用している施設は92 %で、漢方薬が治療成 績の向上に役立ったまたは一部役立ったが 82 %と回答しています。

現在では外科漢方研究会は日本臨床外科学会 のシンポジウムの1 つに取り入れられ活発に議 論されています。

最近の話題

大建中湯についてですが、術後の腸閉塞や麻 痺性イレウスに使用するのは当たり前ですが肝 臓切除後、肝移植後の肝機能の改善のために使 用されよい結果が報告されています。大建中湯 の構成生薬は腸管血流を増加させることが知ら れておりその作用で腸管の蠕動を亢進させ腸閉 塞状態を改善させます。

それに伴い腸管血流が増加することはすなわ ち門脈血流が増加することにつながるため肝機 能の改善につながります。それが肝切除後や肝 移植後に使用される要因となりました。2)

また動物実験では肝硬変マウスに大建中湯を 投与することで肝硬変の繊維化が改善するとの 報告もあります。

次に六君子湯ですが、六君子湯を投与するこ とで食欲亢進ホルモンであるグレリンの分泌が 促進されることがわかり六君子湯の効果が認め られています。3)

最後に

古くて新しい漢方薬です。徐々に作用機序が 解明され効果が立証されてきています。これか らの研究に期待しつつ臨床に使用できればと思 います。

参考文献
1)日本東洋医学会ホームページより
2)Ogasawara et al. Infulence of Dai-kenchu-to(DKT) on human portal blood flow. Hepatogastroenterology. 2008;55:574-7.
3)Matsumura et al. The traditional Japanese medicine Rikkunshito increases the plasma level of ghrelin in humans and mice. J Gastroenterol. 2009