脳卒中医療連携パス
－患者中心の脳卒中医療を目指して－
南部保健医療圏脳卒中医療連携委員会委員長
髙良 英一
南部保健医療圏脳卒中医療連携パスが平成 22 年4 月1 日より運用されます。沖縄県医師 会、同圏域の急性期病院、回復期病床を有する 病院等が中心となり、那覇市医師会、南部地区 医師会、浦添市医師会、中部地区医師会、琉球 大学、中部地区の複数の病院、保健所などの協 力を得て、発症から急性期、回復期、維持期に 至る連携を図ることにより脳卒中患者の治療成 績を向上させ、患者中心の医療連携システムを 構築することを目指します。
沖縄県における脳卒中の年間発症率は琉球大 学第3 内科の調査において人口10 万人当たり 130 人と報告があります。南部保健医療圏にお ける人口は約70 万人であることより、同圏域 における脳卒中の発生は年間約910 人と推定さ れます。日本脳卒中協会の資料によると、脳卒 中は死亡原因の第2 位であると同時に入院の原 因としても第2 位で、平均在院日数も119 日と 長いとの報告であります。以上の経緯等もあり 第5 次医療法改正においては、高齢化に伴う生 活習慣病の増加や地域医療の確保を推進する目 的で、4 疾病（脳卒中、がん、急性心筋梗塞、 糖尿病）、5 事業の機能分化・連携体制の構築 を定め、沖縄県は平成20 年4 月に4 疾病につ いて疾病ごとの医療体制を整備しました。
脳卒中（脳梗塞、脳内出血、クモ膜下出血） はt-PA 静注療法、脳動脈瘤のコイル塞栓術な どの普及があり、その治療法の発達は日進月歩 であります。脳外科医にとってクモ膜下出血の 原因である破裂脳動脈瘤症例は早期手術が通常 の治療法であるが、私が脳外科に入局したころ は待機手術が主流でありました。髄膜刺激症状 を軽減する目的で病室をうす暗くし、約2 週間 の絶対安静後に開頭手術を行いました。術後も 抜糸までの1 週間はベット上安静が通常の治療 計画でありました。現在では普通に実施されて いる急性期リハビリテーション（以下、リハ） の概念はなく、当時は廃用性委縮に近い状況で リハが開始されていました。さらにリハで入院 が長期化する時は、私が研修を受けていた東京 の病院では伊豆方面の温泉病院に紹介しまし た。家族や患者さんの視点に立ってのアドバイ スではなく長期入院を防ぐ病院側の都合が主だ った印象があり、同時にその当時は現在のよう にリハの重要性も正しく認識されていませんで した。
脳卒中は突然の発症で患者本人はもちろん家 族も混乱状態にあり、病気の正しい理解も乏し いことが通常です。いかに急性期治療法が進歩 したとはいえ、麻痺等の機能障害が生じること もあり患者、家族にとって大きな問題です。平 成19 年の厚生労働省国民生活調査によると脳 卒中は65 歳以上の人が要介護となる原因疾患 の第1 位を占めると報告されています。連携パ スは医師、看護師、リハ、MSW など多くの職 種がかかわって作成され、患者および家族に対 し発症より急性期、回復期、維持期、在宅に至 る病態の違いとそれぞれの治療、対応が異なる ことを正しく理解させる手段の一つでもありま す。患者中心の医療を追及するとこのような連 携システムの形になると考えます。また治療経 過における脳卒中の機能予後改善には急性期を 含めた積極的なリハの関与が特に重要です。今回の連携パス作成には参加の回復期病床を有す る病院より多くの意見をいただきパスに反映さ せました。脳卒中は急性期から在宅に至るまで の地域医療連携が不可欠な疾患です。この南部 保健医療圏脳卒中医療連携パス運用は患者さん が地域のなかで安心して医療を受ける体制づく りの第一歩になると期待しています。南部地区 でこの事業を開始しますが、年3 回開催される 総会でパスの内容を見直すと同時にこのパスが 本島内に次いで全県下で運用されることを夢と して持っています。
脳卒中医療連携パスの運用と同時に脳卒中発 症登録事業も並行して行う計画です。データの 集積を得て危険因子のさらなる検討や県民への 脳卒中予防に対する啓発活動へも発展させたい 希望があります。
医師会の先生方を始めコメディカルを含めた 医療、福祉にかかわる多くの皆様のご支援をお 願い致します。
