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シドニーマラソンへ

洲鎌盛一

牧港中央病院 洲鎌 盛一

9 月17 日朝はやく、那覇空港を関西空港へ 向けて出発。関西空港を昼に出国して香港経由 で次の日の朝シドニー到着。日本との時差は一 時間。到着日と次の日は自由行動。シドニーマ ラソンは、スタート地点からハーバーブリッジ を渡り、シドニー市内から郊外に出て、折り返 し市内に戻りそこからアンザック橋を渡り、ま た折り返して市内に入りゴールはシドニー湾の オペラハウスとなる。制限時間は5 時間30 分。 なぜこんな遠い遠いシドニーまで走りに来てし まったんだろうという思いと、ついに海外での マラソンにチャレンジできたとの思いがしだい に湧いて何となく気持ちが高ぶってきた。

年に一回の42.195Km の那覇マラソンは10 年以上完走してきた。ただ年々衰えが来て、最 初は4 時間前半のタイムが除序に落ちてきて去 年は5 時間の後半のタイムになってきた。きっ かけは健康のためにと始めたジョギングが止め れなくなり、マラソンへのチャレンジとなった。 練習で5km 走るのにもかなり苦しくこれはかな りの、冒険、チャレンジだと感じた。30 代の 後半でまだ若さがあったので、練習すれば何と かなると思い少しずつ、こつこつと始めた。は じめてのマラソンは未知の世界で、20km 地点 通過のときは余裕があり楽勝と思ったがそう甘 くはなかった。呼吸は苦しくなかったが、 30km 地点から急に足が重くなり、棒のように なり、足を上げることがこんなにキツイ事なの かと思った。自分の足でないような感じもし た。ゴールは遥かかなたにおもえて、5 分間走 るのが一時間にも感じた。やっとの思いで、何 とかゴールしたときは一つの仕事をやり遂げた ような達成感と充実感があり、冷たいオリオン ビールがなんとも言えないくらい美味しかっ た。走り終えた後のこの冷えたビールの味が堪 らなくて続けているかもしれない。痛む足の筋 肉の硬さももほぐれてくるようだ。

シドニーマラソン前日に世界遺産ブルーマウ ンテンズへ観光にいった。シドニーからバスで 1 時間半の広大な森林地帯。1,000m 級のなだ らかな山並みで、沖縄からきた私には、表現す る言葉が見つからないくらい広大すぎた。何種 類ものユーカリの木々に覆われた渓谷、奇岩、 滝などがあり、ロープウェイに乗ったり、ブッ シュウォーキングなどかなり楽しむことができ た。ユーカリの葉から蒸発する油分が太陽の光 に反射して遠くから見ると山が青く染まって見 えるところからブルーマウンテンズと呼ばれて いるそうだ。剥き出しの渓谷には、砂土に石炭 がサンドイッチ状になった地層があり遥か昔、 昔のオーストラリア大陸の成り立ちの証拠がみ られた。木々が生い茂り、いつの日か海の底と なり砂が堆積し、また地殻変動で大地となりそ の繰り返しだったという。目の前の石炭が遥か 昔々の植物のなごりだとの説明を聞くと、気の 遠くなるような時のながれを思ったりした。木 の祖先である、世界的に希少なウオレマイ松が 発見されたことなどから2000 年に世界遺産に 登録されたと聞いた。とにかくユーカリの樹木 に覆われた広大な山々には言葉を失った。今ま で仕事の都合とか、まとまった休みを取ること に罪悪感を感じるような雰囲気だった気がす る。あるいは自分自身の弱い性格の問題だった のかもしれない。まとめて7 日間の休みを取る ことが難しい雰囲気だった。これまで自分がつ まらない生活をおくってきたのかなあ?と思っ たりした。この広大な大陸にきて、頭の中の風 通しが良くなり、広く感じ軽くなったような気 がした。

シドニー市には日本のように自動販売機があ ちこちに置いてない。のどが渇いてお茶を飲み たかったり、冷たいビールを飲みたいときは近 くのバーに入るか、売っている店に入るしかな い。市内は、捨てられた空き缶などなく、かなりきれいだった。繁華街を歩く女性たちの格好 も日本とは大分違っていた。ラフな短パンジー ンズにビーチサンダルに近い履物で、こっちは 肌寒いのに、彼女らは肩剥き出しの上着で、な んともおおらかでたくましさを感じた。シドニ ー市は岩でできた大地だという。約200 年前イ ギリスから移住してきた人々の開拓時代の面影 を残すロックスという町がある。砂岩を削った 当時の道や、岩壁での建造物が見られる。保存 されて現在の建物とよく共存されている。土は 少なく貴重で、土を保護する法律まであると聞 いた。土剥き出しの庭はなく必ず芝生などを植 え、大きな木の根元は木屑が敷かれ、雨などで 土が流されないように保護されているという。 シドニー湾は海に向かって左側に突き出たとこ ろにハーバーブリッジ、右側が世界遺産のオペ ラハウス、港はサーキュラーキーと呼ばれ6 か 所のキャプテンクッククルーズ乗下船場があ る。かなり賑やかで、大道芸人、また湾を取り 囲むように沢山のレストランがあり、湾の風景 を眺めながら食事やビール、ワインを楽しむこ とができる。沖縄の泡盛が一番いいと思ってい たが、カキ料理、オージービーフ、地元ビール とワインの味は格別で、なんとも言えなかっ た。お酒は嫌いなほうでないので、もっと飲み たかったが、あすのマラソンのことを思うと早 めにきりあげることにした。初めてのシドニー 一人旅で、ホテルからは何となく緊張して外出 したが、帰りはほろ酔いかげんで、ホテルへ帰 るとぐっすり寝る事ができた。あす朝は早起き してマラソンの日である。忘れないように、目 覚ましのアラームはちゃんとam5 時にセットし た。が、気持ちの高ぶりか、翌日は、やはりア ラームなしで目が覚めてしまった。

さてシドニーマラソンの結果である。4 時間 40 分台で完走できた。シドニーオリンピック のマラソン一位の高橋尚子さんがスターターと して招待されていて、伴走もしてくれた。 10km 地点で後ろから“ガンバッテ、ガンバッ テ”と走ってくる女性の声に振り向いたら彼女 だった。オーラのあるスマイルでハイファイブ のタッチもしてくれて、思わず元気いっぱいに なってしまった。遠い、遠いシドニーまで、マ ラソンを走りにきて良かったとおもった。

シドニーから香港行きの飛行機のなかで、さ て次の新しいチャレンジは何にしようかな?と 考えたりした。