同仁病院 桑江 紀子
Visiting Clinician Program とメイヨーの医師たち
このプログラムは1 週間から最長3 ヶ月まで で、各国の医師がメイヨーの臨床に参加するも のである。米国のライセンスを有しない場合、 患者の直接の担当医にはなれないが、ベッドサ イドでの診察、治療に対する討論等、参加で き、プログラムの内容に関しては、希望を聞 き、アレンジしてくれる。私は透析室、病棟、 移植部門を希望した。
外国人医師はメイヨー玄関の真向かいの
病棟、外来で医師たちは、回診での話の長い 患者に40 分近くも耳を傾け、必要とあらば、患 者の掛け布団の乱れを直してやり、患者の同意 が得られないときも高飛車に発言することもな く、大変丁寧で礼儀正しかった。<あの患者の はなし長いね>というと、ディレクターのDr. Norby は< Yeah, always >と苦笑いし、<アメ リカ人はindependent で自己主張が強いからね> と答える。メイヨーの医師として採用されるには 大変競争率が高く、(放射線科教授の日本人Dr. K もcompetitive と表現した)実力は言うまでも なく、患者へのサービス精神が不可欠で、ここで 研修を開始するときから、その態度を評価され る。たとえ、どんなに優秀でも、患者サービスに おいてメイヨーの基本理念と一致しなければ、採 用されない。また、このサービスを好まない医師 は他の病院を選ぶ、とのことであった。
コンサルト形式は徹底しており、1 人の患者 について、多数の各科の医師たちが関わる。対 応は迅速である。研修に関しては、救急部門以 外、初期研修の3 年を修了し、フェローになる と、コールはあるが、当直の義務はない。病院 滞在時間は30 時間を越えてはならず、反すれ ば、フェロー、研修医はViolation を研修委員 会へ提出できる権利を有する。卒後16 年目の Director Dr. Norby は<今は甘い、私たちの ときは大変だったのよ>と語った。患者、看護 師同様、研修医、フェロー、スタッフもアメリ カ国内のみならず、パレスチナ、イラン、ウク ライナ、中国、エチオピア、香港、パキスタ ン、ヨーロッパ等国際色豊かである。
お昼のカンファレンスは、各科及び全科院内 のあちこちで開かれており、トピックはインフ ルエンザからICU でいつ延命をやめるか、等、 幅広い。講師は世界各国の教授クラスの人たち で、議論は白熱して、時間延長もしばしば見ら れた。
業務はすべて、コンピュータ化されており、 機能は当県で使用してされているレベルと変わ らない、とみた。
医師の待遇に関して尋ねた。卒後15 年目の アミロイドーシスの専門家Dr. L によると、勤 務時間は通常8 時から6 時くらいまで。また週 末は原則的に休み(コールがあればその限りで はない)、年休は12 日、給料は2,000 万から 3,000 万円、腎臓医は若干高め、外科になると、 この2 倍くらい、メイヨー以外で就職すればも っと高い。訴訟に関してはメイヨーに勤務している医師は生涯に1 回あるか、なきか、という。 給与は安いが、(メイヨーの医師は腕はいいの に給与は安いらしいよと患者もはなしていた) 働きやすく、患者との信頼関係が良好というの がメイヨーにとどまる理由であるらしい。
さらに看護師、受付等のコメディカルも25 年、30 年等長年勤続する人が多く、ときおり、 メイヨーの院内雑誌に写真と名前入りで紹介さ れる。
ロチェスター
6 月フェローシップ終了後、フェロー6 人の うち、2 人だけ残り、あとはニューヨーク、ボ ストン、中西部へ散っていく。ミネソタは田舎 で寒くて、ニューヨークが恋しくてね、とポー ランド出身のフェローの妻が言う。滞在した2 か月間、気温は8 度から15 度程度、さらに天 気は一日のうちでも激変した。昨年の冬はマイ ナス30 度まで下がったと聞いた。毎日、<今 日こそはいい天気になりますかね>と挨拶代わ りに尋ねるほど、初夏だというのに日本の2月、 3 月に相当する気温であった。気候のきびしい ミネソタであるが、<ミネソタナイス>といわ れるように、人々は親切で、古きよきアメリカ 人のそれである。スカンジナビア、ドイツ系の 祖先が80 %を占め、<ヤンキー>なアメリカ 人とは違っている。英語もなまりがほとんどな く、標準的、美しい英語であり、聞き取りやす い。犯罪はほとんどなく、93 年から97 年の Best Place to live in America で住みたいとこ ろ、全米1 位であった。2009 年のNBC の quality of life の面から依然として2 位を維持 している(平均年収$51,316, 平均住宅価格 $114,700)。
メイヨーメディカルスクール卒業式
5 月の16 日、土曜日、朝、Farmer’s Market にむかう途中、Civic Center のガウンをきた集 団をみかける。メイヨーメディカルスクールの 卒業式らしい。急遽、生徒の父兄とともに卒業 式に参加した。ガウンを着た晴れ晴れした面持 ちの若者たちに、許可をえて、写真を撮った。 誰もみな、喜びに溢れる顔、顔。
卒業生代表は腎臓内科希望で、挨拶の最後は ラップで締めくくった。会場は笑いで包まれ、 司会の教授は<メイヨーの卒業生はなんとcreative なのでしょう>と発言、父兄からの盛大 な拍手を得ていた。
The Mayo Way
2009 年6 月29 日号の週刊Times はメイヨー について以下のように論じた。メイヨーの成功 の秘訣は1)普通のケアに価値を置いているこ と。2)コンピューター化の徹底。無駄をはぶ いている。3)予防と健康に重点を置いている。 4)他の医療機関との統合、調整を行い、無駄 な検査を省いている。5)チームによる医療を おこなっている。6 ) E v i d e n c e - B a s e d Medicine を重視する:電子記録を用いて、効 果的な研究を行い、outcome を把握している。 そうすることで、集中治療や、不必要な輸血を 避けることができる。7)市場価値に応じて、 医師の給与を固定化し、患者のニーズに集中さ せる:賠償、訴訟の心配する必要がない。一 人、一人の患者に時間を掛けることができる。 以上の項目を挙げている。
これまでの実績に関して言及すると、メイヨ ーは2007 年に医療費を払えない患者に対し、 5,560 万ドルに相当する医療を提供、さらに Medicade などの低所得者医療扶助プログラム の未支払い分が合計で1 億2,710 万ドル。1 億 8,200 万ドル以上分以上の医療を、治療を必要 とする患者に無償で直接提供している。2004 年の収益は56 億ドル。
依然として、ミネソタ州における非営利団体 で第2 位を占め、<世界のメイヨー>に君臨し ている。(あるヨルダン人はこのシステムを学 んで、自国の医療に取り入れたいとシリア、イ タリアの循環器の医師らと食事した際、熱く語 っていた)。
メイヨーの医師達。中央がDirector Dr.Norby.