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メイヨークリニック:
Visiting Clinician Program に参加して その2

桑江紀子

同仁病院 桑江 紀子

Visiting Clinician Program とメイヨーの医師たち

このプログラムは1 週間から最長3 ヶ月まで で、各国の医師がメイヨーの臨床に参加するも のである。米国のライセンスを有しない場合、 患者の直接の担当医にはなれないが、ベッドサ イドでの診察、治療に対する討論等、参加で き、プログラムの内容に関しては、希望を聞 き、アレンジしてくれる。私は透析室、病棟、 移植部門を希望した。

外国人医師はメイヨー玄関の真向かいの に月6 万程度で滞在で きる。メイヨーの建物とは地下道でつながって おり、自由に行き来できる。食費は自己負担で あるが、ホテルの3 階に なる ものがあり、各国の医師、留学生、米国のイン ターンシップの学生等がそこで調理、食事を し、語らうことができる場所がある。100 万く らい教育費をとられるかもしれない、と多少の 出費は覚悟して渡米したが、航空券代、ホテル の滞在費、食費、多少の小遣い等あれば十分で あった。参加している医師はそれぞれ時期は若 干ずれるが、1 ヶ月ないし3 ヶ月で、オランダ、 スペイン、中国、韓国等多彩である。1899 年、 the American Journal of the Medical Sciences のDr. Beck をメイヨー兄弟が招い て、自分の手術をオープンにして以来、世界中 からVisiting Surgeon がやってきた。Visiting Clinician Program もこの伝統に基づいてお り、治療の場で、外部の者の意見でも取り入れ る柔軟な姿勢が見られる。

病棟、外来で医師たちは、回診での話の長い 患者に40 分近くも耳を傾け、必要とあらば、患 者の掛け布団の乱れを直してやり、患者の同意 が得られないときも高飛車に発言することもな く、大変丁寧で礼儀正しかった。<あの患者の はなし長いね>というと、ディレクターのDr. Norby は< Yeah, always >と苦笑いし、<アメ リカ人はindependent で自己主張が強いからね> と答える。メイヨーの医師として採用されるには 大変競争率が高く、(放射線科教授の日本人Dr. K もcompetitive と表現した)実力は言うまでも なく、患者へのサービス精神が不可欠で、ここで 研修を開始するときから、その態度を評価され る。たとえ、どんなに優秀でも、患者サービスに おいてメイヨーの基本理念と一致しなければ、採 用されない。また、このサービスを好まない医師 は他の病院を選ぶ、とのことであった。

コンサルト形式は徹底しており、1 人の患者 について、多数の各科の医師たちが関わる。対 応は迅速である。研修に関しては、救急部門以 外、初期研修の3 年を修了し、フェローになる と、コールはあるが、当直の義務はない。病院 滞在時間は30 時間を越えてはならず、反すれ ば、フェロー、研修医はViolation を研修委員 会へ提出できる権利を有する。卒後16 年目の Director Dr. Norby は<今は甘い、私たちの ときは大変だったのよ>と語った。患者、看護 師同様、研修医、フェロー、スタッフもアメリ カ国内のみならず、パレスチナ、イラン、ウク ライナ、中国、エチオピア、香港、パキスタ ン、ヨーロッパ等国際色豊かである。

お昼のカンファレンスは、各科及び全科院内 のあちこちで開かれており、トピックはインフ ルエンザからICU でいつ延命をやめるか、等、 幅広い。講師は世界各国の教授クラスの人たち で、議論は白熱して、時間延長もしばしば見ら れた。

業務はすべて、コンピュータ化されており、 機能は当県で使用してされているレベルと変わ らない、とみた。

医師の待遇に関して尋ねた。卒後15 年目の アミロイドーシスの専門家Dr. L によると、勤 務時間は通常8 時から6 時くらいまで。また週 末は原則的に休み(コールがあればその限りで はない)、年休は12 日、給料は2,000 万から 3,000 万円、腎臓医は若干高め、外科になると、 この2 倍くらい、メイヨー以外で就職すればも っと高い。訴訟に関してはメイヨーに勤務している医師は生涯に1 回あるか、なきか、という。 給与は安いが、(メイヨーの医師は腕はいいの に給与は安いらしいよと患者もはなしていた) 働きやすく、患者との信頼関係が良好というの がメイヨーにとどまる理由であるらしい。

さらに看護師、受付等のコメディカルも25 年、30 年等長年勤続する人が多く、ときおり、 メイヨーの院内雑誌に写真と名前入りで紹介さ れる。

ロチェスター

6 月フェローシップ終了後、フェロー6 人の うち、2 人だけ残り、あとはニューヨーク、ボ ストン、中西部へ散っていく。ミネソタは田舎 で寒くて、ニューヨークが恋しくてね、とポー ランド出身のフェローの妻が言う。滞在した2 か月間、気温は8 度から15 度程度、さらに天 気は一日のうちでも激変した。昨年の冬はマイ ナス30 度まで下がったと聞いた。毎日、<今 日こそはいい天気になりますかね>と挨拶代わ りに尋ねるほど、初夏だというのに日本の2月、 3 月に相当する気温であった。気候のきびしい ミネソタであるが、<ミネソタナイス>といわ れるように、人々は親切で、古きよきアメリカ 人のそれである。スカンジナビア、ドイツ系の 祖先が80 %を占め、<ヤンキー>なアメリカ 人とは違っている。英語もなまりがほとんどな く、標準的、美しい英語であり、聞き取りやす い。犯罪はほとんどなく、93 年から97 年の Best Place to live in America で住みたいとこ ろ、全米1 位であった。2009 年のNBC の quality of life の面から依然として2 位を維持 している(平均年収$51,316, 平均住宅価格 $114,700)。

メイヨーメディカルスクール卒業式

5 月の16 日、土曜日、朝、Farmer’s Market にむかう途中、Civic Center のガウンをきた集 団をみかける。メイヨーメディカルスクールの 卒業式らしい。急遽、生徒の父兄とともに卒業 式に参加した。ガウンを着た晴れ晴れした面持 ちの若者たちに、許可をえて、写真を撮った。 誰もみな、喜びに溢れる顔、顔。

卒業生代表は腎臓内科希望で、挨拶の最後は ラップで締めくくった。会場は笑いで包まれ、 司会の教授は<メイヨーの卒業生はなんとcreative なのでしょう>と発言、父兄からの盛大 な拍手を得ていた。

The Mayo Way

2009 年6 月29 日号の週刊Times はメイヨー について以下のように論じた。メイヨーの成功 の秘訣は1)普通のケアに価値を置いているこ と。2)コンピューター化の徹底。無駄をはぶ いている。3)予防と健康に重点を置いている。 4)他の医療機関との統合、調整を行い、無駄 な検査を省いている。5)チームによる医療を おこなっている。6 ) E v i d e n c e - B a s e d Medicine を重視する:電子記録を用いて、効 果的な研究を行い、outcome を把握している。 そうすることで、集中治療や、不必要な輸血を 避けることができる。7)市場価値に応じて、 医師の給与を固定化し、患者のニーズに集中さ せる:賠償、訴訟の心配する必要がない。一 人、一人の患者に時間を掛けることができる。 以上の項目を挙げている。

これまでの実績に関して言及すると、メイヨ ーは2007 年に医療費を払えない患者に対し、 5,560 万ドルに相当する医療を提供、さらに Medicade などの低所得者医療扶助プログラム の未支払い分が合計で1 億2,710 万ドル。1 億 8,200 万ドル以上分以上の医療を、治療を必要 とする患者に無償で直接提供している。2004 年の収益は56 億ドル。

依然として、ミネソタ州における非営利団体 で第2 位を占め、<世界のメイヨー>に君臨し ている。(あるヨルダン人はこのシステムを学 んで、自国の医療に取り入れたいとシリア、イ タリアの循環器の医師らと食事した際、熱く語 っていた)。

メイヨーの医師達。中央がDirector Dr.Norby.

メイヨーの医師達。中央がDirector Dr.Norby.