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アレルギー週間(2/17 〜 2/23)に寄せて
〜アレルギー性鼻炎で手術が必要なとき〜

嘉数光雄

那覇市立病院耳鼻咽喉科
嘉数 光雄

アレルギー性鼻炎は、鼻粘膜のT型アレルギ ー性疾患で原則的には発作性反復性のくしゃ み、水性鼻漏、鼻閉を3 主徴とする体質的な疾 患であり、薬や手術によって体質そのものを変 えることはできません。よって「手術でアレル ギー性鼻炎が治る」という表現は適切ではあり ませんが、様々な手術方法によって鼻粘膜をア レルギー反応が起こりにくい粘膜に変える、あ るいはアレルギー反応が起こっても鼻づまりや 鼻水、くしゃみが起こりにくい粘膜に変えるこ とは可能になってきています。内服薬、あるい は点鼻薬などの治療で症状の改善が思わしくな い場合に、どのような手術(表1)があるのか について述べたいと思います。

表1 アレルギー性鼻炎に対する手術法

表1

【外科的治療法】

1)レーザー治療法

一般的には、鼻閉型の難治性通年性アレルギ ー性鼻炎がよい適応とされています。季節性で 保存的治療が有効な症例は原則的に適応外です が、外科的治療を熱望する症例には行うことも あります。局所麻酔下手術で多少の疼痛を伴う ため、鼻処置に耐えられることが条件となり、 年齢としては、一般的に小学校高学年くらいか ら可能となります。

レーザーの種類としては、1980 年代より使 用されているCO2(炭酸ガス)、Nd : YAG や 1 9 9 0 年以降普及したK T P 、H o : Y A G 、 GaAIAs 半導体などがあります1)

CO2レーザー光の特徴は非接触型の照射を行 っても照射エネルギーの大部分が表面から0.1 〜 0.2 oの部位で吸収され、深部組織に障害を 与えないことです。この特徴によりCO2レーザ ーメスは他のレーザーメスより良好な切開能を 持つが創部に形成される凝固層が薄いため、止 血能は弱くなります2)

KTP レーザーはK(カリウム)とT(チタ ン)とP(リン)よりなる合剤の結晶にNd- YAG 光を通して得られる波長532nm の緑色可 視光です。赤色色素、すなわちヘモグロビンに よく吸収され、このため切開・蒸散と凝固のバ ランスに優れたレーザーであり、周囲組織への 散乱や障害の程度はCO2レーザーとNd-YAG レーザーの中間的なレベルにあり、熱変性は照 射部位に比較的限定されます3)

Ho : YAG(ホロニウム・ヤグ)レーザーは YAG 母材の中にHo の3 価のイオンを注入した 個体レーザーで発振波長は2.1 μ m です。特徴 的な生体作用は硬組織の破砕や切開が可能な点 であり、眼球への副作用がないことです4)

GaAIAs 半導体は、レーザーの発振源として 出力はGa,Al,As(ガリウム、アルミニウム、 ヒ素)の半導体素子が用いられています。波長 は780 〜 865nm(中心波長805nm)の範囲の 近赤外領域で、軟部組織への切開、凝固、蒸散 能を兼ね備えていて、接触、非接触使用が可能ですが、防護メガネ装着によりやや視野が悪く なります5)

その他、高周波電気メスやアルゴンプラズマ 凝固装置を用いる場合などもあります。

いずれにしても術者が使い慣れているレーザ ー、機種を使用し、その特性を生かした手術を 行うことが肝要です。手術方法は、下鼻甲介粘 膜蒸散(凝固)術と下鼻甲介粘膜切除術に大別 されます。

A. 下鼻甲介粘膜蒸散(凝固)術

麻酔は4 %塩酸リドカインと1,000 〜 5,000 倍希釈エプネフリンを浸したガーゼによる鼻腔 内表面麻酔(15 〜 30 分)で座位あるいは半座 位で行います。レーザーの導光にはハンドピー スを用い、下鼻甲介粘膜に照射し広範囲を蒸散 あるいは凝固させます。手術時間は一側につい て約10 分程度です。

B.下鼻甲介粘膜切除術

麻酔は、前述の鼻腔内表面麻酔に加えて、 10 万倍エピネフリン含有0.5 〜 1.0 %塩酸リド カイン(片側2 〜 3ml)の下鼻甲介粘膜下への 局所侵潤麻酔も行います。鼻科手術用のハンド ピースの中に通した導光用ファイバーの先端を 下鼻甲介粘膜に接触させて照斜し、前端から後 端にかえて切除することで、下鼻甲介容積の減 量をはかります。手術時間は一側について約 10 〜 15 分程度です。下鼻甲介粘膜蒸散術に比 べて、上皮化が多少遷延することがあります。 上記で期待される効果は施設ごとに多少の違い がありますが、有効率は鼻閉90%、鼻汁85%、 くしゃみ70 %、2 年以上の効果持続は75 %程 度といわれています1)

2)鼻腔整復術

固有鼻腔形態異常がある場合は、当然、粘膜 のみを対象にする術式では、効果の持続時間が 短く不十分で再発が生じるので、鼻中隔矯正と 鼻腔側壁の整復を同時に行うのがよいです。

3)後鼻神経切除術

水様性鼻漏は薬物療法でコントロールできな い場合、鼻副鼻腔の副交感神経であるビディア ン神経の切除術、後鼻神経切除術などが適応と なります。涙腺分泌抑制や軟口蓋の味覚障害を 伴うビディアン神経切除術は、ハーモニックス カルペルなどの手術機器の進歩によって鼻内操 作で神経の末梢を切除または凝固、焼灼が可能 となった現在ではあまり行われない傾向にあり ます。粘膜固有層に対する手術操作は副交感神 経終末を傷害すれば、水様鼻漏にも有効です。 高周波で下鼻甲介後端付近の凝固または焼灼も 神経切除術類似の効果を得られます6)

以上、アレルギー性鼻炎の主な外科的治療に ついて述べましたが、単独の手術操作ですべて を解決できない場合もあり、鼻腔整復術のよう に複数の操作の組み合わせが効果的であり、必 要となることもあります。内服での加療で症状 が改善しない難治なアレルギー性鼻炎は、外科 的治療が有効な場合もあり、耳鼻科専門医へ相 談していただければと思います。

参考文献
1)田部哲也:アレルギー性鼻炎のレーザー療法、神崎仁 編集、耳鼻咽喉科・頭頸部外科診療のコツと落とし穴 2)鼻・副鼻腔疾患、中山書店; 2006 年、54 〜 55
2)福武知重: CO2 レーザー、池田勝久ら編集、耳鼻咽 喉科診療プラクティス1.鼻科手術支援機器のUp To Date、文光堂、2000 年、98 〜 101
3)中之坊学・北原哲: KTP/532 レーザー、池田勝久ら 編集、耳鼻咽喉科診療プラクティス1.鼻科手術支援 機器のUp To Date、文光堂、2000 年、102 〜 105
4)池田勝久: Ho:YAG レーザー、池田勝久ら編集、耳鼻 咽喉科診療プラクティス1.鼻科手術支援機器のUp To Date、文光堂、2000 年、110 〜 113
5)古田 茂:半導体レーザー、池田勝久ら編集、耳鼻咽 喉科診療プラクティス1.鼻科手術支援機器のUp To Date、文光堂、2000 年、106 〜 109
6)久松建一:アレルギー性鼻炎の外科的治療戦略、神崎 仁編集、耳鼻咽喉科・頭頸部外科診療のコツと落とし 穴2)鼻・副鼻腔疾患、中山書店; 2006 年、56 〜 57
7)鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレル ギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症― 2005 年版、奥田稔ら編集、ライフサイエンス、2006 年