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寅の会

まちなと小児科クリニック 新垣 義清

過日59 回目の誕生日が過ぎた。この歳にな るとあまり嬉しくも無い。周りから「お誕生日 おめでとうございます」と言われると、ニコッ と笑顔で答えるが内心は違う。(お前に何の関 係があるんだ、この野郎)と言いたくなる。ど うも高齢期のひがみ根性が出だしてきたよう だ。医師会から来年の干支の会員としてのエッ セイ依頼文が来たときもやはり同じ感情だっ た。断ろうかと思ったが良く考えてみると次回 の干支は無いかもしれない。という訳で今パソ コンのキーボードを叩いている。題名は干支に ちなんで〔寅〕を使うことにした。

〔寅の会〕といっても別に大酒のみの集団で はない。寅年生まれの同級生(糸満高校)の模 合の名称である。ちなみに中学校の同級生の模 合もやはり同じ名前だ。どうもこの年代は創造 力が乏しいらしく、平凡な名前しか思いつかな いようだ。結成されたのは40 年近く前になる らしい。らしいというのは、私が参加したのが かなり後になってからで、当初のことは良く分 からない。話によると琉大の学生だった数人が 集まって作ったとのことだ。お互いの親睦を深 めるとか何とか理屈付けをしたらしいが何のこ とは無い。単に酒を飲む口実を作りたかっただ けだ。学生の身で親の仕送りを受けながら飲み 会をやるのは、内心後ろめたい気持ちが少しはあったのだろう。その後卒業してからも延々と 続き、そのうちに私のように本土から帰ってき た連中も加わり、現在も20 数名が毎月集まっ て飲んだくれている。ほとんどの場合糸満で開 かれるので出かけていくのが少々億劫だが、酒 の雰囲気は嫌いなほうではないのでほぼ皆出席 を続けている。

以前は団体旅行に行くという目的で毎月積み 立てをしていた。酔っ払っているうちに話はど んどん大きくなる。オーストラリアがいい、い やオリンピックを皆なで応援に行こうなどと 侃々諤々していたが、結局行ったのは一度き り。それも国内の割安団体旅行で、冬の山陰へ の2 泊3 日の温泉めぐりだった。なるべく家族 も一緒にとのことで夫婦が数組いたがほとんど は単身での参加だった。岡山空港からバスで湯 原温泉へ。バスの中はまるで修学旅行。ガイド さんの迷惑を顧みず、大声で話すやら中には酒 盛りを始めるのもいる始末。当然のことながら 夜は大騒ぎ。温泉の有難みは無視され風呂より も酒で、飲めや歌えやの大宴会になってしまっ た。翌日は二日酔いでバスの中も前日とは様変 わりし、皆おとなしく行儀良く居眠りをしてい た。だが宿に着くとまた元気復活。旅館の人に 近くの河原に無料の露天風呂があり、しかも混 浴だということを聞いてメンバーの表情が一 変。夕食もそこそこにまずは宴会。ほろ酔い加 減を少し越したところでやる気満々に、熱燗に した酒を引っさげて「いざ混浴へ」と出発し た。しかし外へ出たとたん寒いこと寒いこと。 あたりは雪が降り積もっている。それでも混浴 の誘惑には勝てず皆な震えながら目的地へと急 いだ。着いてみてびっくり。誰もいない。おま けに脱衣場は掘っ立て小屋のような作りで、風 はヒューヒュー吹き込んでくるし目茶苦茶寒 い。大慌てで服を脱ぎ露天風呂に飛び込む。少 し暖まったところで持参の酒で宴会続行。風呂 に浸かりながらの酒はまた格別だ。結局女性は 一緒に行ったメンバーの奥さんが一人だけだっ た。あとは最後まで来客ゼロ。いい加減酔っ払 ったところで宿に引き上げた。翌日宿の人いわ く「若い人は夜中の12 時ごろに行くのが多い ようですよ」〔一同ガックリ〕…情報は正確に 伝えてもらわないと困る。もっともあの酔っ払 いどもが12 時ごろまともに雪道を歩けるはず は無いが。

頭髪はサバンナの様に薄くなり腹は臨月の如 く膨れていても、気持ちだけは今でも高校時代 の青春真っ盛りだ。遠慮会釈の無い会話が乱れ 飛ぶ。話の中身も昔は子供のこと、仕事の悩み など健全な社会人としてのものが多かったが最 近は少し違う。病気や定年後の話、ダイエット の話等々。大酒を飲みながら肝機能の心配をし ているのだからどうしようもない。適当に相づ ちを打ちながら聞いている。「俺は3 種類の薬 を飲んでいる」と1人が言えば、もう1 人が 「いや俺のほうが多い」と飲んでいる薬の数を 競い合っている奴もいる。「血圧の薬を時々忘 れたりするが大丈夫か?」と聞く奴もいる。 「生きている間は大丈夫だろう」といい加減に 答えると、「それでも医者の言葉か?」と絡ん でくる。全く始末に負えない酔っ払いどもであ る。とは言っても私もその集団の一員だ。自分 ではまともなつもりでも、他人からは同じ酔っ 払いにしか見えないだろう。〔他人の振り見て 我が振り直せ〕というが、酔っ払っていてもい なくても自分のことはよく見えないものだ。

〔反省〕

何やかんや言っても今年は還暦、寂しさは有 れども嬉しさは無し。次回の干支の年にもまた 原稿が書けることを希望して拙文を結ぶ。