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古希を迎えて

玻座真博公

玻座真内科医院 玻座真 博公

12 年前、還暦を迎えて一応自分にけじめを 付けるため、還暦記念の手作りの小冊子を子供 達だけに与えた。その序文に、「平成7 年、那 覇市医師会報夏季号の原稿を依頼され、四苦八 苦して書きあげたものが『ペットと共に』であ る。ペット共々家族全員が登場しており、初め ての随筆を飾るにふさわしい記念碑的作品とな った。その後、がんばればなんとか書けるもの だとの自信と年のなせる業か素直に自分を表現 する余裕が出来てきた。自分の生きている証を 記録に残しておきたいという欲求も当然あるだ ろう。本小冊子は、その成果として医師会報に 寄稿した数編をまとめたものである。」と書い ているが、すでに12 年後の抱負があった。

還暦の年から県内2 新聞の俳壇に投句を始め ていつしか古希を迎える年となっている。新聞に採用された句がいくらか溜まっていたので1 年前から句集の上梓を考え、これまでの句稿を 整理していた。9 月になって早くも新春干支随 筆の寄稿依頼が届き、慌ててその日出版社に電 話して句集発行の相談を始めたところである。

句集の内容は、ほぼ10 年間に新聞に掲載さ れた句から成っているが、一部の自選の句や俳 句雑誌社の企画に応募したものも入れて360 句 を予定している。

句集名は「なんくるないさ」と決めてある。 文學の森社の第1 回全国方言俳句で優秀賞にな った「仮の世はなんくるないさ浮いて来い」か らとったものである。ザ・俳句歳時記によれ ば、「浮人形とは水に浮べて遊ぶ子供の玩具を いいます。人形・船・金魚・怪獣などを形どっ たもので、ゴム・セルロイド・ビニールなどの 素材でできています。水の遊びということで夏 の季語になっています。『浮いて来い』は『浮 人形』が水に引き入れても浮いてくることから 生まれた表現で、人間を浮人形に置き換えて詠 んだ作例も見られます。」

還暦から古希まで、句稿をひもとけばいろい ろの思い出が浮んでくる。「わが眼鏡」と題し た私の家族の部分を少し披露するのをお許し願 いたい。

「ペットと共に」の主人公たち、当時8 才の 雌猫は一番長生きし平成20 年、21 才で大往生 した。7 才の雄猫は16 才、6 才の雄犬は15 才 で亡くなった。

老犬と歩み共にす冬の朝

よく眠る猫ゐて燈火親しめり

老猫のゆるり足折る春の昼

平成20 年、長い間寝たきりであった母も97 才の仮のカジマヤーを済ませ大往生した。

老いし母のふと口ずさむ十三夜

夏立つや母今生の息をつく

母をみとったあと診療所開設以来の入院を閉 めた。長男は平成19 年に帰沖し近くの病院に 勤務、次男は九州の大学病院に居る。ふたりの 結婚式でのはなむけの句である。

旅立つや平和の像に春日射し

明日はイヴ今日もふたりの灯をともす

「春の海のたりと胎児寝給へり」「春の闇宇 宙遊泳する胎児」と詠んだ孫たちも元気に育っ ている。

水無月や眼鏡の奥に未来あり

やはらかき身を子は反らし五月来ぬ

最後に書くべきことがあった。私にはもう一 つの名前がある。還暦の年、新聞俳壇に投句す るようになって俳号を使っている。私が鳩山博 水である。12 年あとの第二句集の話をすると 鬼が笑うだろうが、それを支えにゆっくりがん ばって行こう。

古希といふ授かりものや年惜しむ