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若い先生へ=開業して思うこと=

佐久本操

さくもと泌尿器科・皮フ科
佐久本 操

開業してちょうど1 年(平成20 年9 月3 日開 業)になった。開業準備は、病院勤務を兼ねな がらで大変であったが、開業してからも外来患 者数に一喜一憂し、スタッフとの関わり方な ど、小さいクリニックながらも経営者になって 経験のない新たな悩みを抱え、壁にもぶつか る。医師にとって、患者さんの数は、自分の評 価であり、大学病院や病院勤務時代と比べ、開 業してさらに気になる。病院勤務時代は、今は 身にしみて大切だと思う接遇の研修を受け(さ せられ)た。ところが開業して、注意・指導す る方。立場変われば、考え方も変わる。患者さ んの接し方も変わったかと思う。大病院のブラ ンドがないために、当院のような小さなクリニ ックでは、患者さんは苦情も意見も言い易いの であろう。困ることは多い。

以前、ある雑誌で某大学医学部教授が書いた 「医者は患者を選べない」のエッセーを読んだ。 大学教授に限らず医者(若い先生でも)は、誰 でも思い知らされ、いやな経験の一つや二つあ るいはもっと多くお持ちであろう。患者さん は、具合が悪いと、家族・知り合いの評判を聞 いてあるいは、建物の立派さ?で病院(医院) を決め受診する。もし、気に入らなければ、別 の病院(医院)に鞍替えするか、病院であれば 初めの担当医が外来日でない日に受診する。し かし、医師側は、この患者さんとは合わないと 思っても拒めないのである。常識が欠けた医師 が多いと前総理大臣は言われたが、患者さんに も常識のない、態度の悪い方はいる。医療事故 などをマスコミが大きく取り上げ、医療不信に 陥った結果かもしれない。開業してなお更、患 者さんとの接し方を考えるようになった。当院 では、初診時の問診表に当院に来られた理由の アンケートを取っている。「通りがかりに知っ た」が約半数。当院が道沿いにあることで、立 地条件が良かったと喜んでいる反面、私の評判 は?と心配にもなる。しかし、「家族・知人か ら聞いた」が、次第に増え25 %を超えた。こ れは、うれしい。話は戻るが、診療での苦労は 経営も含め、勤務医時代より増えた気がする。

困った例1):薬を処方すると、薬局では薬の 説明用紙に副作用が書かれている。情報開示の 昨今、困ることがある。メーカーの責任問題か ら、めったにない副作用まで書かれており、そ れを理由に患者さんが服用を拒否する。ある疾 患の薬には、副作用の頻度がわずかにもかかわ らず、同系統薬にはすべて書いてあるものだか ら、別の薬剤に変えづらく困る。副作用の頻度 も書いて欲しいものだ。インターネットで調べ あるいは知人から聞いて、自分で病気を診断 し、薬剤まで決めてこられる患者さんがいる。 その説明で時間がかかり、納得してもらうのに 苦労する。その患者さんのご希望の薬では効果 に問題がある。説明がいつもより長くなるとこ ちらも疲れる。次の患者さんは待たされたと不 機嫌になる。誠意を尽くしたにもかかわらず、 患者さんが不満顔になったりする。丁寧なつも りのインフォームドコンセントが、かえって医 療不信になったのではないか。私の力が足りな いのか患者さんが悪いのか考えてしまう。言う 通りにして治らなければ藪医者の烙印。藪にも なれないとのことでタケノコ医者という言葉も あるそうだ。

困った例2):腫瘍マーカーが徐々に上がり始 めた前立腺癌患者さんの話だが、このままの治 療では悪化するので、別の薬に変更しますと説 明しても、インターネットや薬の本などで副作 用を調べ尽くし、それが心配だと拒否された。 民間療法も受けていると隠さずに話してくれ る。セカンドオピニオンを勧めても、先生を信 用しているから?とそれも拒否。家族は本人に 任すと了解しているが、はたしてこれでいいの かと悩んでしまう。

若い先生でも、このような経験おありでしょ う。先の某教授は、困った患者さんには獣医の 気持ちで自分を抑えろと書かれていた。咬まれて も、感謝なくとも我慢して診療するのだとの内容 であった。まだ、私は未熟なのだろうか。咬まれ るのは御免である。しかし、患者さんに勇気づけ られたり、勉強になったことは多々ある。

開業して、病院勤務時代より、患者さんの話 を聞く時間を取るように努力している。患者さ んがまだ少ないこともあるが。「大きな病院や 大学病院から開業した医者は、それまで勉強ば かりして、話も通じないと思ったさー」とか 「開業する先生は、経験の少ない若い医者と思 ったよ。結構年くってるねー」など、気軽に話 してもらえるようになった。嬉しいことであ る。患者さんには、ワンダーリングし、別のク リニックで治らなかったと受診する方もおら れ、俄然私が治してあげようと燃えることがあ る。反面、当院から他院に移られる方もおられ ることであろう。そうならぬよう日々勉強も知 識の習得も疎かにしないよう、また診療に納得 いただけるよう努力している。

とりとめなく書いてきたが、最後にやっと若 い先生に言いたいこと。私は、医師になり四半 世紀も過ぎ、自分を振り返ると、医師として早 く一人前になりたいとがむしゃらであった研修 医時代、実験結果のなかなか出ない大学院時 代、関連病院に出向しこき使われ、田舎の国立 病院一人部長として派遣され怖い思いをしたロ ーテーター時代、大学病院にもどり、診療・研 究・学会発表に時間が足りないとドタバタした 大学病院時代、沖縄にもどり勤務医になり部下 を持ち、業績を上げることや指導にも苦労した 時代と、それぞれの時期に失意や挫折は多くあ った。失敗や挫折が人を育て養うものだと思う が、まだまだ自分は未熟だと思うことは数多く ある。「少(わか)くして学べば壮にして為す ことあり、壮にして学べば老いて衰えず、老い て学べば死して朽ちず」(佐藤一斎)。医師とし て、常に前向きで努力すべきなのである。とも に頑張りましょう。