三愛眼科 上野 香
今年も10 月10 日の目の愛護デーがやってき ました。眼が私達にとって大きな情報源である ことは、だれもが認めるところです。『外界か ら得る情報の8 割は視覚から』と、よく言われ るように、目から入ってくる情報は、人間にと っては膨大です。ですから、その眼を大切に し、視覚障害を減少させようというのが、目の 愛護デーの趣旨です。
視覚障害が、個人や社会に与える負担はどれ くらいかを、最近、日本眼科医会が試算した研 究結果があります。視覚障害によって世の中に 生じている費用、つまり、視覚障害の社会的コ ストを、金額で表したものです。この研究で は、視覚障害のコストを次の3 つに分けて検討 しています。
2007 年一年間でみると、1 の直接費用は、医 療費+ 介護保険料などの合計1 兆3,400 億円。 2 は、生産性低下による税収減や、年金、手 当、無償の家庭内ケア等で、1 兆5,800 億円と 推定されます。3 は、視覚障害の健康障害分を 金銭価格化する方法を用いて、5 兆8,600 億円 と試算されました。その結果、2007 年1 年間 に、視覚障害のために発生しているコストの合 計は、8 兆7,800 億円となりました。
視覚障害を減らすことは、これらのコストを 大きく減らすことになり、ひいては、日本経済 の生産性増大にも貢献するのではないかと考え られます。(「日本の眼科」第80 巻第8号より)
視覚障害減少をめざして、眼科においても、 新しい治療法がどんどん出てきています。その 一部について、他科の先生方に知っていただき たいものを紹介させて頂きたいと思います。
まず、白内障について。白内障の手術は、超 音波による乳化吸引術が器械の進歩により驚く ほど安全なものとなりました。手術方法がほぼ 完成した今では、術後のクオリティオブビジョ ンが問題となるようになりました。いかに術後 の裸眼視力を良くするか、いかに快適な日々を 送れるかということが要求されるようになり、 眼科医に対する要求は厳しくなってきていま す。それに伴い、眼内レンズも進歩していま す。最近では、多焦点眼内レンズやトーリック 眼内レンズ(乱視用の眼内レンズ)が開発さ れ、白内障を治すのと一緒に、老眼や乱視まで 一緒に治してしまおうというような、屈折矯正 の意味も出てきました。それだけに、手術まで の患者さんとのコミュニケーションがとても重 要になってきました。
患者さんの立場から言えば、そのような色々 な選択肢が増えたと言うことです。白内障の手 術を受ける場合には、このような眼内レンズに ついて、前もって、眼科医に相談されると良い と思います。
緑内障について。緑内障は、かならずしも眼 圧の高いものではないという認識はかなり浸透 してきたかと思います。特に、日本人では、眼 圧は正常である正常眼圧緑内障が最も多いこと は、皆さん、もうご存知だと思います。緑内障は白内障と違って、今も完治させるという方法 はありません。ただ、高眼圧は緑内障を進行さ せる原因の一つであることは事実ですので、唯 一現在出来る治療として、眼圧を下げる治療が 行われています。それ以外の有効な治療法は、 今のところ無いのです。しかし、眼圧下降薬は 新しい点眼薬がどんどん開発されています。
緑内障にはいろいろなタイプがあり、急に目 がかすんだり、頭が痛くなる、というような、 緑内障の発作を起こすものは急性閉塞隅角緑内 障です。よく他科の先生などから、緑内障があ る患者さんに内服薬やアトロピンの使用は大丈 夫かときかれることがあります。このような薬 物が禁忌となるのは、このタイプの緑内障の場 合です。患者さんが閉塞隅角緑内障で、発作の 既往があれば、ほとんどの場合、既に病院を受 診していて、更なる発作を防ぐ処置が施されて いると考えられます。ですから再び発作の起こ る可能性は極めて低くなります。また、もし患 者さんが開放隅角緑内障ならば、薬物には全く 影響を受けませんので薬物の使用は、何でも OK です。ということは、つまり、薬物の使用 によって緑内障の発作を起こす可能性あるの は、発作を起こしたことの無い狭隅角の人とい うことになります。このような患者さんは、当 然、自分が緑内障とは知らないわけですから、 患者さんに緑内障はありますか?と聞いて、緑 内障があると答える患者さんは、まず発作を起 こすことは無いということです。緑内障は無い といっている患者さんが、実は危険なのです。
あと一つ二つ、紹介したいことがあります。
眼瞼下垂、眼瞼内反症。最近では、CO2 レー ザーを用いて時間も短く、出血も少ない手術が 行われています。眼科でも、このような治療を 行っていることを、是非、お知りおきください。
眼瞼痙攣、顔面痙攣。これらも、眼科での治 療を行っています。ボトックス注射による治療 は、患者さんの満足度も高い処置です。
以上、取りとめも無く、勝手な意見を交えな がら書かせていただきました。眼科医も、頑張 っていますということが、多少なりとも伝われ ば、と願います。