沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 10月号

「骨と関節の日(10/8)」にちなんで
「ロコモティブシンドロームの要因としての腰部脊柱管狭窄症」

上原昌義

沖縄県整形外科医会 副会長
沖縄協同病院 副院長 上原 昌義

インパクトが軽い、軸ブレ。運動不足が起因 か?最近自分の体力低下に思いを馳せるように なってきました。自分はマラソンとゴルフが好 きです。でもなかなか上達しません。いつの日 か家庭に遠慮せず好きなだけできればいいなと 常日頃思うことがあります。でもその時十分な 体力を維持できているか少し不安です。日本は 戦後、科学・医療技術及び産業の躍進で世界一 の長寿を誇る国となりました。しかし欧米に比 べ出生率の低下が進行(米: 2.12,英: 1.84, 仏: 1.98、日本: 1.37 2008 年)し、急激な 高齢化率の上昇(日本: 22 %,米: 12 %,英: 15 %,仏: 16 % 2007 年度版)で少子高齢化が 急速に進行している状況があります。近い将来 高齢者は3,300 万人を超え、その比率は25 % となり、2050 年には40 %程度まで上昇すると 推計されています。確かに長生きする人は増え ましたが、みんなが皆満足できるADL を保持 できているでしょうか?健康寿命という概念の 重要性も唱えられ、寿命の「質」に着目した健 康に暮らせる期間を表す考え方が注目を集めて きました。ちなみに日本の健康寿命は平均73.6 歳(世界第1 位)といわれています。厚生労働 省の資料で高齢者の機能低下には特徴があり、 特に筋骨格系疾患による下肢機能や基礎的体力 の低下が引き金となっているようです。現在要 介護、要支援者が450 万人(2007 年)に達し、 原因として運動器障害が21.5 %を占め健康寿 命の延伸には運動器疾患の予防が重要と思われ ます。日本整形外科学会ではWHO が提唱した 運動器の10 年(2000 年からスタート)の一環 行事として広く日本国民に運動器の重要性を伝 え、健康に生活していくお手伝いができるよう 毎年10 月8 日を「骨と関節の日」として新聞 紙面対談や市民公開講座を行ってきました。今 年のテーマは「ロコモティブシンドロームの要 因としての腰部脊柱管狭窄症」です。ロコモテ ィブシンドローム(ロコモ)とは、「運動器機 能障害により要介護になるリスクの高い状態」 のことで、日本整形外科学会が、2007 年(平 成19 年)に、新たに提唱しました。ロコモテ ィブ(locomotive)とは移動能力を有するとの 意味で「ロコモ」には、「人間は運動器に支え られて生きている。運動器の健康には、医学的 評価と対策が重要であるということ、運動器の 障害が要介護の要因として重要であることを要 介護になる前の年代の人にも知ってもらい、運 動器の障害で要介護となることを予防するため の合言葉」というメッセージが込められていま す。高齢者では変性、骨粗鬆など運動器の複数 の病態が複合して移動能力を低下させることを 踏まえ、専門分化が運動器にまで及んだことは 高齢者の運動器の問題を考える上では弊害にな っております。専門分化によって得られた知見 を構造化することが必要で、いわば整形外科を 再総合化する合言葉が必要との機運が高まりま した。ロコモの三大要因として、1)脊柱管狭窄 による脊髄、馬尾、神経根の障害、2)変形性関 節症、関節炎による下肢の関節障害、3)骨粗鬆 症、骨粗鬆症性骨折などがあります。腰痛や下 肢痛を伴う神経性間欠性跛行の原因となる腰部 脊柱管狭窄症は骨性または靭帯性要因により骨 性脊柱管や硬膜管の狭小化が生じた状態で下肢 機能低下に大きく影響を及ぼします。神経性間欠性跛行には馬尾型、神経根型、混合型(馬尾 型と神経根型の合併)があり、神経根型は自然 治癒例も散見されますが、馬尾型は経過観察で 症状の改善は期待できませんので正確な診断と 適切な治療法の選択が重要です。また閉塞性動 脈硬化症や閉塞性血栓血管炎など末梢動脈疾患 由来の血管性間欠性跛行との鑑別も重要です。 その頻度は腰部脊柱管狭窄症由来が75.9 %と 大部分を占め、末梢動脈疾患由来が13.3 %、 合併型が10.8 %(鳥畠ら2003)と報告されて おり、腰部の前屈位やしゃがみ込みの姿勢で下 肢症状が改善する腰部脊柱管狭窄症に特徴的な 病態に注意を払うことが必要と思われます。ま た末梢動脈疾患由来の場合はABI の検査も有 効で0.9 以下であれば血管性を疑うべきと考え られます。運動器の疾患が疑われる場合はメデ ィカルチェックを受け、疾患があれば治療を受 け、疾患がない場合や疾患があっても運動療法 が必要な場合、訓練法を暫定的でも呈示せざる を得ないと思われます。ロコモの対処法にはロ コチェック(チェックリスト形式)の項目の中 で一つでも当てはまれば、専門医の受診を勧 め、ロコトレ(訓練方法)を自宅でも日々継続 して運動療法の実施を呼びかけました。

ロコチェック:ロコモーションチェック
Locomotion Check

  • 1)片脚立ちで靴下がはけない
  • 2)家の中でつまずいたり滑ったりする
  • 3)階段を上るのに手すりが必要である
  • 4)横断歩道を青信号で渡りきれない
  • 5)15 分くらい続けて歩けない

ロコトレ:ロコモーショントレーニング
Locomotion Training

  • a)ロコトレその1 :開眼片足立ち訓練(ダイナミックフラミンゴ療法)
  • b)ロコトレその2 :スクワット(股関節の運動;ロコモン体操)
  • c)その他のロコトレ

ストレッチ、関節の曲げ伸ばし、ラジオ体 操、ウオーキング、各種スポーツなどです。

平成12(2000)年と比べると日本のすべて の都道府県で高齢化率は上昇し、全国的に高齢 化が進行しています。平成18 年度都道府県別 の高齢化率をみると、東京、大阪、愛知を中心 とした三大都市圏で17 %台と低く、最高が島 根県で26.8 %、最低が埼玉県で15.5 %であり ました。その中私たち沖縄県は高齢化率が 16.1 %と低く、今このタイミングでロコモの普 及活動を行うことが要介護人口の減少に効果的 で得策と考えております。運動器疾患は要介護 重要な原因となっているにもかかわらず、要介 護となることと運動器の健康が十分に結びつい ていない現状があります。今社会的問題となっ ている「メタボ」には「肥満は有害でその行き 着く先には脳卒中、心筋梗塞の危険がある。」 ことを示しています。運動器の重要性をアピー ルする場合、「運動不足は習慣の問題でなく、 運動器の健康に有害であり、その行き着く先に は介護の危険がある。」ということを明確に提 示することが必要と考えております。