沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
村尾 寛
今年の性教育セミナーは、去る7 月26 日 (日)に、桃の産地、岡山で開催されました。
最初に石井正弘・岡山県知事本人が壇上に上 り、メモを一度も見ることなく、溌刺としたス ピーチをされました。全国から集まった関係者 に歓迎の祝辞を述べると共に、岡山の観光につ いても口八丁手八丁で実に見事なアピールをさ れました。
最初の特別講演は弁護士にしてNPO 法人 「デートDV 防止プロジェクト・おかやま」の代 表である、川崎政宏氏による講演でした。そも そも不勉強な私は「デートDV」という言葉自 体になじみが無かったのですが、今はもはや DV(ドメスティックバイオレンス)が、夫婦 間どころか交際中の独身カップルに起きている ため、このような呼び名が生まれたとの事です。
今回の性教育セミナーの直前に、茨城県で交 際女性の母親を殺害した犯人が、当の交際女性 を連れたまま那覇市で逮捕されるという事件が 発生しましたが、川崎政宏氏によれば、「これ こそデートDV の典型例」である、とのお話 で、ニブい私も、ようやく事態の深刻さに気が ついたのでした。現在のDV 防止法は夫婦間の DV を想定したものなので、「デートDV」には 適用されない、とのことでした。
二つ目の特別講演は岡山市保健所所長の中瀬 克己氏による、「性感染症の現状と若者におけ る認識」でした。2002 年以降は男女ともに若 年層のクラミジア感染症・淋菌感染症ともに減 少傾向にある一方で、梅毒は2004 年以降、増 加傾向にあり、特に先天梅毒が全国的に増加し つつあり要注意、とのことでした。
さらに性感染症症例を見つけたらパートナー の治療も必要、とのことで、パートナー検診の 重要性を強調していました。その中で、何と! 沖縄県で1960 年代に活動していた「性病G メ ン」の活動を参考にするべきだ、との結論だっ たのでのけぞってしまいました。「性病G メン」 とはいったい何だ?これは風俗に行って性病に 罹患した男性が病院を受診したら、病院から連 絡を受けた「性病G メン」が、探偵のような方 法で相手の女性を探し出して、強制的に治療す る制度だったそうであります。往年の「性病G メン」の活躍?にお詳しい先生がいらっしゃい ましたら、御教示下されば助かります。
三つ目の講演は愛育病院産婦人科部長の安達 知子先生の「人工妊娠中絶減少にむけての施 策」というものでした。避妊実行の継続率の面 では、経口避妊薬よりもIUD のほうが優れて いるし、5 年間避妊した場合の総医療費の比較 でも経口避妊薬よりもIUD のほうが安く済む との事でした。人工妊娠中絶の35 %は反復中 絶となっているが、これは中絶手術後7 日以内 に熱心な避妊指導と避妊の実行を始める事で、 予防が期待される、との事でした。
次のランチョンセミナーは女性クリニック We! TOYAMA 院長の種部恭子先生による「経 口避妊薬の今後----承認後10 年を迎えて-----」 でした。日本の経口避妊薬服用者の1.1 %とい う数字は、世界的には北朝鮮の3.7 %にも劣る ことや、日本人女性の経口避妊薬服用者の DVT 発症率は、欧米の経口避妊薬非服用者の DVT 発症率と同じであるとのお話でした。ち なみに日本の民間企業における女性の割合は、 係長で10.4 %、課長で5.1 %、部長で2.8 %と 極めて低いこと、そして経口避妊薬を上手に用いて、女性のキャリアプランを、ライフサイク ルに沿った形でデザインする時代になってい る、とのことでした。
午後は、「性教育:いつまでに?どこまで に?」と題して、主として教員の先生方によ る、さまざまな取り組みが6 つ紹介されました。 私が興味を抱いたのは、岡山県立芳泉高等学校 養護教諭の平松恵子先生の「性教育の取り組み と養護教諭の役割」というものでした。岡山市 の芳泉地区は、何と!保育園・幼稚園・小学 校・中学校・高等学校・公民館・保健所・警 察署が全部一箇所に集められ、隣り合ってダン ゴ状に立地している、という大変ユニークな地 区であり、地域の大人全体が地区の約4,000 人 の子供を、横の連携を密にしながら育てている ということでした。これは子供の教育には理想 的な環境と思われました。
なお岡山といえば、有名な倉敷の大原美術館 や、ベネッセアートサイト直島等があり、是非 立ち寄りたかったのですが、岡山〜沖縄間の航 空機は一日一便しかなくて、セミナー前日の晩 に岡山空港に到着し、セミナー翌朝には岡山空 港を発つというスケジュールで、時間的余裕が 皆無だったのが残念でした。やむなく帰りの岡 山空港で、名物の桃とマスカットをメいっぱい 買い込んで帰ったのでした。
プログラム
大会メインテーマ『性教育:いつまでに?どこまで?』
9 : 00 開会
9 : 20 特別講演(T)
「デートDV の現状と防止教育の取り組み」
デートDV 防止プロジェクト・おかやま代表 弁護士 川崎 政宏10:10 特別講演(U)
「性感染症の現状と若者における認識」
岡山市保健所長 中瀬 克己11:00 教育講演
「人工妊娠中絶減少にむけての施策」
母子愛育会愛育病院 産婦人科部長安達 知子12:00 ランチョンセミナー
「経口避妊薬の今後−ピル発売10 年を経て−」
女性クリニックWe ! TOYAMA 院長 種部 恭子13:00 シンポジウム
「性教育:いつまでに?どこまで?」
1)基調講演
岡山大学医学部保健学研究科中塚 幹也
2)教育委員会から
岡山県教育庁保健体育課小川 泰永
3)一般教論から
ノートルダム清心学園清心女子高等学校 秋山 繁治
4)養護教論から
岡山県立芳泉高等学校平松 恵子
5)保護者から
岡山県立大学保健福祉学部看護学科 岡崎 愉加16:20 6)医師から
ウィメンズクリニック・かみむら 上村 茂仁16:30 次期大会開催地紹介、次期大会会長挨拶、閉会