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日本医師会第5回男女共同参画フォーラムに参加して
「今、医師の働き方を考える−ともに仕事を継続するために−」

第5 回男女共同参画フォーラムに参加して

松原忍

沖縄県医師会女性医師部会委員 松原 忍

「先生、うちの孫は医者にはなりたくないっ ていうんです。大変そうだし、自分の時間がな いからって」診察を終えた外来で、患者さんが 四方山話の中で言った言葉です。女性医師の離 職防止、復職対策が取り上げられるようになっ てきましたが、医師を志す男性の減少にも歯止 めをかけなければ医療再生の道は険しいのだな あと実感させられました。年齢だけは中堅とな った私にどんなことができるのだろう・・とい う、思いを胸に、北海道へ向かいました。第5 回男女共同参画フォーラムに参加させていただ く機会をいただいたからです。

去る7 月25 日(土)、札幌グランドホテルに おいて開催され、各地で天候不順による災害が 発生する中、200 人を超える参加者が全国から 集まりました。

テルモハート社取締役会長兼CMO の野尻知里先生の「私の50+ 年史:ある心臓外科医の生 き方」と題する、非常にエネルギッシュかつパ ンチの効いた基調講演でフォーラムは始まりま した。野尻先生は少女時代からの物理好きが高 じて、現在、臨床治験段階に入った人工心臓を 開発された方です。研修先が決まらずに苦労さ れたこと、臨月まで学会場に赴きとても順調に 高齢出産されたこと、産後1 週間で職場復帰し たことなどユーモアを交えて、お話下さいまし た。日米の後輩医師の指導を行いながら、「前 例に学べない、自分のキャリアが見えない→妊 娠や出産を契機に仕事を辞めてしまう」女性医 師の現状を指摘されていました。キャリアを築 いてからの結婚、出産経験の利点を述べられ、 現在就業されている先輩医師がロールモデルに なることの重要性を説かれました。

シンポジウムでは東京女子医科大学医学部 長:女性医師再教育センター前センター長の大 澤真木子先生のご講演を興味深くうかがいまし た。母となった女性医師を支援するには長時間 保育や病児保育などのハード面の整備は最低条 件であり、モチベーションを維持するための卒 前教育が重要で「すぐにやめない、細く長く続 ける」ことを指導する必要があると指摘されま した。同校では3 年次に先輩女性医師に学ぶ 「キャリアビジョン・ライフサイクル」という実 習を行い、6 年次には初期臨床研修をライフサ イクルの視点で考える教育を行っているそうで す。また、女性医師再教育センターを有し、e ラーニングでの教育・学習支援プログラムを実 施しています。さすが女子医大、と感心しまし たが、女性医師に限らず「医師として育てられ た以上プロとしての義務と責任を負う」人材の 育成を目指していることを強調されていました。

印象の強かった二つの講演を取り上げました が、ほかにも医師としてのモチベーションを高 める教育の重要性が指摘される講演や「女性医 師の勤務環境の現状に関する調査報告」、日本 医師会女性医師支援センターの事業内容報告な どがありました。

女性に限らず多くの医師は過酷な状況で働き 続けており、現状の改善が早急な課題となって います。先日、医師不足対策として医学部入学 者定員の増加が決定されました。今後も女子学 生の比率は増加し、さらに女性医師が増えるこ とは想像に難くありません。しかし、それだけ にとどまらず件の患者さんのお孫さんのように 医師を志す男子学生の減少も、重要な問題とし て検討しなければなりません。男女を問わずこ れからの医師の働き方を改善するために、まず 女性医師が働き続けるには環境の整備はもちろ んのこと、ロールモデルを示して卒前から「働 き続けること」の意義や重要性を丁寧に教育 し、男子学生も含めて将来を担う人材を社会に 送り出していくことが重要と思われました。

最後に「今、医師の働き方を考える−ともに 仕事を継続するために−」というテーマの宣言 が満場一致で採択されました。

第6 回は2010 年7 月24 日に鹿児島で開催さ れます。医療再生への道が開け、男女を問わず 医師が自信と誇りを持って仕事を継続できる社 会が実現することを期待しています。