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日本医師会第5回男女共同参画フォーラムに参加して
「今、医師の働き方を考える−ともに仕事を継続するために−」

真栄田篤彦

常任理事 真栄田 篤彦

本年7 月25 日、札幌での開催に参加してき たので報告します。

本会が開催される前日の24 日にWHO の発 表があり、日本の男女共同参画の比率は改善が 少ないとの指摘があり、もっと女性の登用を図 るべきとの厳しい批判が報道された。

日本での男女共同参画社会の基本法が制定さ れてから10 年目にあたり、今回のフォーラム はまさに時宜を得た企画です。

唐澤祥人日医会長の挨拶

今年度のテーマは『今、医師の働き方を考え るともに仕事を継続するために』ということ で、その内容は女性医師を対象としたものか ら、全ての医師の勤務環境の改善を考える内容 へと変化してきている。このことは、この5 年 間に渡る取り組みの一つの成果と考えている。

昨年4 月に男女共同参画推進本部が決定した 女性医師参画プログラムでは、医師の分野にお いて重点的に取り組み得られた成果を他分野に 波及させるべく、そして医師を女性の参画促進 プログラムのシンボリカルな分野として取り上 げている。

一方で、女性医師が勤務を継続し、そのキャ リアを形成していくためには、このような国の 取り組みは勿論のこと、病院長、上司、同僚、 家族の理解と協力さらには女性医師自身にもキ ャリアについて考えてもらう必要がある。そし て今年のテーマである「ともに仕事を継続して いくために医師の働き方を考える」ということ が非常に有意義であると考えている。

日本医師会では本フォーラムの企画にあた り、男女共同参画委員会と、厚生労働省より委 託を受けて運営している「女性医師支援センタ ー事業」、この事業の中核となるのが「女性医 師バンク」であり、この事業を中心に男女共同 参画委員会が関わることになる。

本日は、この事業に協力されている多くの先 生方が参加されているとのことで、ここで感謝 申し上げます。性を問わず、ワークライフバラ ンスを実現し、医師としての使命を継続できる ような環境を整備し、諸施策を実践していくこ とは、医療崩壊を食い止め、国民に安心で安全 な医療を提供することにもつながり、重要な課題である。

本日参加の皆様方には、今回の取り組みに一 層のご理解とご支援を賜りますようお願いしま す。結びにあたり、本日のフォーラムが一層実 り多い会になることを御祈念いたします。

ついで基調講演「私の50 +年史:ある心臓 外科医の半生」をテルモハート社取締役会長兼 CMO の野尻千里講師が行った。内容は県医師 会女性医師部会の松原忍委員が報告しているの で省略します。

野尻千里講師のスライドを以下に紹介します。

報告

1.日本医師会男女共同参画委員会
―女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告
男女共同参画委員会委員 春木宥子

本委員会は、日本医師会長より、平成20 ・ 21 年度にわたり「女性医師に対する実効ある 就業支援策について」検討・報告するよう諮問 を受けている。これに基づき、専門医制度にお ける出産・育児等への配慮についての要望をは じめ、女性医師の勤務環境の現況に関する調査 等を行っている。今回は、女性医師の勤務環境 の現況に関する調査結果について報告する。

[ 女性医師の勤務環境の現況に関する調査 (2008 年12 月〜 2009 年1 月)]

女性医師支援をさらに具体的かつ実行性のあ るものにするため、全国の病院勤務女性医師の 現況を詳細かつ正確に把握することを目的とし て、本委員会で調査票を作成した。

医事新報社「病院情報」を利用し、国内全病 院(8,800 施設)に依頼し、病院勤務の女性医 師に調査票を配布、無記名で回答を返送しても らい、回収数7,497、有効回答数7,467 を得た。

(配布数より算出した有効回答率49.7 %)

  • 1)多くの医師が、実働勤務時間、宿日直勤 務、休暇日数などから、過酷な勤務状況下 にあることが明らかになった。
  • 2)雇用条件により非正規雇用となっている場 合も、半数以上が正規職員としての勤務を 望んでいる。
  • 3)休職・離職理由は出産・育児が多く、身分 保障を含めたこれらに関する制度の充実が 求められる。
  • 4)女性医師としての悩みは、家事と育児との 両立が最も多く、就業環境や規則など勤務 環境の改善、保育所など施設の整備・柔軟 なサービスをさらに充実させることが必要 である。
  • 5)今後は、介護による離職者の増加も予測さ れ、女性医師のみならず、医師全体の勤務 環境の改善が必須である。
2.日本医師会女性医師支援センター事業
日本医師会女性医師支援センター
マネージャー 保坂シゲリ

厚生労働省の委託をうけて、約3 年前から開 始した医師再就業支援事業は、本年4 月より事 業名が女性医師支援センター事業に変更にな り、新たな出発を迎えた。

簡単に平成20 年度の医師再就業支援事業の 報告を行い、平成21 年度の女性医師支援セン ター事業の事業計画と経過、平成22 年度に向けての展望等について報告する。

シンポジウム

「今、医師の働き方を考える―ともに仕事を継続するために―」

座長:男女共同参画委員会委員 秋葉則子

男女共同参画委員会委員 川上順子

1.医師の働き方を変える
福岡県医師会男女共同参画部会委員会
副委員長 香月きょう子

増加の一途を辿る女性医師の就労環境の整備 は喫緊の課題です。差し迫った状況の認識は高 まり、再就職支援、就業継続支援と、諸施策が 実施され、少しづつ成果を挙げつつあることは 周知の通りです。

だた、喫緊の課題についての現実的対応は、 ともすれば、女性医師の活用とか医師不足対策 の一手法として終始する危惧を孕んでいます。 女性医師に限定した労働環境の改善は、一種の 女性優遇という名の新たな差別とも看做され、男女共同参画の本旨である女性のエンパワーメ ントの推進の障害になりかねません。

男女共同参画とは、性別にかかわりなく、そ の個性と能力を十分に発揮できることであり、 そのためには、現状改善を越えて、将来を見据 えて問題の解決に取り組むべきであり、医師の 働き方そのものを変える必要があると考えます。

労働時間の思い切った短縮、常勤医としての 縛り、主治医制、当直制など、いろいろな角度 から皆様とともに考える第一歩としたいと思い ます。

2.医師の働き方を考える
―育児支援中の男性医師の視点を通して
札幌医科大学耳鼻咽喉科学講座 正木智之

医師同士で結婚する夫婦は増加傾向にあり、 それに伴い女性医師が臨床現場で働く機会も増 えている。しかし特に子どもがいる場合、家 事・母親業と医師業との両立は時に大変困難で あり、職場の理解とともに家族の理解が必要で ある。

職場においては男性医師の意識改革と病院シ ステムの改革が必要と考える。定時で帰る女性 医師とオンコール状態の医師が協力して働ける 職場環境が理想である。すでに改革済みの病院 もあるが、そうでない病院はまだまだ多い。

私には臨床研修医の妻と札幌医科大学保育所 に通所中の2 才になる娘がいる。札幌医大の研 修システムについて説明し、自らの体験・日常 生活を具体的に述べる。さらに医師同士で結婚 した夫婦にアンケートを行った結果を報告し、 問題点や現場の改善点について考える。

3.女性医師に対するキャリア教育
東京女子医科大学医学部長・小児科主
任教授・男女共同参画推進局副局長 大澤真木子

医師不足対策として、医学部入学者定員は増 となった。定員増賛成派も反対派も女性医師の 離職防止・復職のための支援を課題の5 位に挙 げた。今、医師国家試験合格者の34 %が女性 である。医学部志望者は、医療や研究を通し自 己実現することを求め入学する。医師の仕事に男女差はないが、女性医師は医療 現場を離れることを余儀なくされ る事がある。日本小児科学会員2 万対象の調査によれば、休職経験 女性医師の休職時平均卒業後年数 は7 年、理由は育児、男性は2 0 年、理由は体調不良である。休職 後医師の仕事に戻りたい意思があ る女性は多い。行政支援策が出さ れたが、再研修に対する必要性検 証のため、日本小児科学会・全国 大学医学部小児科学教室の協力を 得て2007 年6 月〜 7 月女性小児科 医の年代別、子有無別の勤務実態 と1977 年以降卒業(<平均55 歳) の女性医師2 , 4 5 9 人にアンケート調査し、 1,027 人から回収。その結果を踏まえ報告する。

4.地域医療連携の中での医師の働き方
札幌医科大学学長 今井浩三

北海道の地域医療への貢献を建学の精神とし ている札幌医大は、毎年320 名の常勤医師と約 400 名の常勤外医師を北海道の地域へ派遣している。最近、札幌医大では新しい教育として、 『地域密着型チーム医療実習』を地域で実施し ている。地域医療は医療の原点であるので、学 生のモチベーションを高める教育が必要である と考えている。

明治30 年、北海道の地域に貢献しようとし た女性医師が、鰊漁でにぎわう瀬棚村で開業し た。公許(医術開業試験に合格)女医第1 号の 荻野吟子、そのひとである。ここでは、ボラン ティア精神にあふれたこの偉大な先人の足跡に も触れながら、地域医療の観点から、男女共同 参画を考えてみたい。

第5 回男女共同参画フォーラム宣言採択
男女共同参画委員会員 清水美津子

宣言

女性医師が勤務を継続するための環境の 整備、制度の充実、施策の実践は重要であ る。女性医師、男性医師を問わず、安心し て勤務できる環境があってこそ、初めて医師 は自信と誇りをもってその使命を果たすこと ができる。

すべての医師がその個性と能力を十分に発 揮していくためには、社会全体の理解および 医師、患者を含めたすべての人々の意識改革が求められる。

女性医師の働き方を変え、男性医師の働き 方を変え、社会の意識を変えてこそ、医療崩 壊から再生への道が開けるのであり、その実 現のために真摯な努力を続けていくことを、 このフォーラムに参集した皆の総意のもとに 宣言する。

平成21 年7 月25 日

日本医師会第5 回男女共同参画フォーラム

次回の第6 回は鹿児島県医師会担当で平成 22 年7 月24 日(土)城山観光ホテルで開催さ れます。米盛學鹿児島県医師会長からの鹿児島 県へのご案内の挨拶がありました。

印象記

今回の第5 回開催地は札幌ということでした が、あいにくの全国的な大雨の中の開催でし た。冷夏の影響か、背広を着ていても全く暑く なかったです。

男女共同参画ということで、圧倒的に女性医 師の参加が多く、男性医師はまばらでした。 今日の医学部の学生の教室も同じように女性が 多くなってきていると思いますが、ゆくゆくは 男性女性医師の比率も逆転していくと思いま す。将来は男性医師が少なくなり、女男共同参 画なんてことになるかもしれません。

女性医師バンクでの求人を見ると求人登録施 設は991 施設(延べ1,110 施設)で求人登録件 数は1,301 件(延べ2,534 件)で、就業実績は 僅かに141 件ありその内訳が就業成立128 件、 再研修紹介13 件という状況で、億単位の支援 事業であるにも関わらず10 %の就業率で、こ のような状態では女性医師の勤務復帰への道の りは大変なものなのだと思いました。

そして医師の勤務環境の改善が求められる男 女共同参画に関しては日本での進捗状況はまだ まだ深刻なものと実感しました。なお来年度は 鹿児島県医師会が担当とのことで、次回は病院 長等の管理職の方がこのフォーラムに参加して いただければ、医師の環境改善を身近なものと して考慮して頂けるのでは?と考えながら札幌 を後にしました。