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平成21 年度都道府県医師会有床診療所担当理事連絡協議会

副会長 玉城 信光

去る年8 月19 日(水)日本医師会で行われ た標記協議会について次のとおり報告する。

挨 拶

日本医師会長 唐澤人

日医として初めて有床診療所担当理事連絡協 議会を開催させていただいた。

昨今の医療崩壊と言われる状況下、地域医療 の再生には有床診療所という医療資源の活用が 必要不可欠である。

休日・夜間に医師や看護職員がいる有床診は 地域の救急医療を支えてきた。また、分娩の約 半数も診療所が担っている。在宅医療も進めら れているが、病床を持っている有床診は在宅の 療養を支えるのはもちろん、実際には在宅では みられない患者の入院を引き受けている。

一方で、有床診は年々無床化が進み、地域の 医療体制にも大きな影響を与え、医療崩壊の要 因の1 つとなっている。

日本医師会としては、厚労省とともに現地視 察を行い現況把握に努めた。有床診の先生方は 地域の患者、住民の多様なニーズに応え熱心に 対応いただいている。しかし、熱意だけでは継 続できないという状況にある事もご存知のとお りである。

有床診が低調すれば地域の医療提供体制が 益々混乱する事は明らかである。

日医としては、有床診の適正な評価を受け、 今後もその機能を発揮できる体制づくりが急務 であると考えている。

本日は、お忙しい中、厚労省医政局総務課の 岩淵課長、中野課長補佐、保険局医療課の佐々 木課長補佐にご出席いただいているので、本日 ご参加いただいている先生方にも有床診の評価、 活用に向けて忌憚のないご意見を賜りたい。

議 事

(1)有床診療所を巡る状況について
     日本医師会常任理事 今村定臣

有床診療所の機能は5 つ(1)専門医療を担っ て病院の負荷を軽減し地域医療の崩壊を防ぐ、 2)地域の病院からの早期退院患者を含めた患者 の受け皿として機能、3)地域の在宅医療の拠点 診療所として在宅医療の後方支援に病床を活 用、4)終末期医療などのニーズが高まる分野へ の取り組みを行う、5)特にへき地・離島では唯 一の入院施設として機能)に大別でき、それぞ れの有床診は1 つだけの機能を持つとは限ら ず、複数の機能を有することが多い。

日本医師会はこれまで、「有床診療所に関する 検討委員会(プロジェクト)」の設置(平成14 年度〜平成17 年度まで)や「有床診療所に関す る検討委員会」を常設委員会にするなど、諸問 題の解決に向けて様々な取り組みを行ってきた。

直近の取り組みとしては、有床診療所の現地 視察やヒアリングの実施、平成21 年有床診療 所実態調査の実施(日医総研)、西島英利議員 による国会質問(参議院厚生労働委員会)等を 行ってきた。以下に現地視察・ヒアリングおよ び西島議員による国会質問の概要を記す。

いずれにせよ、日医としては、地域医療再生 のためには、有床診療所の活用が時間的にも財 源的にも効果的であり、有床診療所の機能、役 割を再認識していただき、有床診療所が地域で 今後もその機能を果たせるよう適正な評価を求 めていきたい。

有床診療所の現地視察、ヒアリング

1.主旨

有床診療所は、地域住民が身近で治療、療養 できる施設として我が国の地域医療を支えてき たが、適正な診療報酬が設定されていないた め、毎年約1,000 施設が止むを得ず病床の運用 を断念している。

有床診療所の無床化は、地域住民にとって大 きな利便性の損失であるとともに、救急医療等 の確保にも影響を与えており、有床診療所の運 営が成り立つ環境を整えることが急務となって いる。

このことから、次期診療報酬改定に向け、厚 生労働省に有床診療所に対する理解を深めても らうことが必要であることから、有床診療所の 視察及び関係者からのヒアリングを行う。

2.出席者

厚生労働省、日本医師会有床診療所に関する 検討委員会委員、都道府県医師会役員、日本医 師会役員等。

3.視察日時及び視察先

○平成21 年5 月22 日(金)〜 23 日(土)福岡県 6 か所

○平成21 年5 月29 日(金) 和歌山県 1 か所

○平成21 年6 月20 日(土) 広島県 6 か所

○平成21 年7 月16 日(木)〜 17 日(金)北海道 3 か所

西島英利議員 参議院厚生労働委員会 質問 (平成21 年4 月21 日)

Q 地域医療の中での有床診療所の在り方を 是非厚生労働省としても考える必要があると 思っている。有床診療所の今後の役割につい て厚生労働省としてどう考えているのか。

A 政府参考人(外口医政局長 ※当時)

有床診療所は、外来を行いながら入院医療 も提供でき、地域住民の医療ニーズに対応で きる小回りの利く医療施設として重要な役割 を担っていると認識している。

また、有床診療所の現状把握のための調査 という専門団体(日医総研)の調査によると 有床診療所の機能としては、専門医療を担っ て病院の負荷を軽減する役割、地域の住民か ら早期退院患者を含めた患者の受け皿として の役割、また終末期医療などのニーズが高ま る分野への取組を行う役割、特にへき地、離 島では唯一の入院施設としての機能を果たす 役割、こういった機能をまとめている。

こういったご意見も受けながら、高齢化が 進む中で医療のみならず介護も含めたサービ ス提供も地域から期待されているところであ るので、地域によって有床診療所の役割はそ の重要性が増すものと考えている。支援して いきたいと考えている。

Q 支援していくための経済的な裏付けが非 常に重要であると考えているので、大臣もそ ういう認識を持っていただき、今後有床診療 所の在り方についてもお考えいただければと 思う。大臣のコメントがあればいただきたい。

A 舛添厚生労働大臣

地域で手軽にかかりつけ的に行ける、それ で、よく下が診察室になって二階がベッドに なっている。私も各地見ていて、ベッドのと ころが空っぽになっているのが非常に増えて いる。

最終的に二次医療、三次医療のところに行 くようなケースは別として、やはり地域で診 ていただくということが一番患者にとっても いいと思うので、今後これをどう活用するか 検討して、しかるべき支援はしたいと思って いる。

(2)有床診療所に関する検討委員会での検討状況  有床診療所に関する検討委員会委員長
大道 久(日本大学医学部社会医学系医療管理学分野教授)

前期までの有床診検討委員会の経過

○平成14 年より、プロジェクト委員会として立ち上げられた。

会長諮問は「有床診療所の将来構想につい て」で、長年の課題であった48 時間規制の 運用見直しと現下の課題である診療報酬の諸 問題について検討が行われた。

○平成16 年より、「有床診療所の今後のあり方 について」諮問が行われ、48 時間規制の撤 廃要請と有床診療所実態調査(日医総研)が 実施された。

○平成18 年よりプロジェクト委員会から常設 委員会として立ち上げられた。

会長諮問は「地域医療における有床診療所 の役割」で、「平成20 年度医療費改定に向け ての緊急要望」が提出された。

○平成20 年より、「有床診療所の適正な評価に 向けた方策−発展と安定運営に向けて−」に ついて諮問が行われ、有床診療所入院基本料 のあり方等について検討を行っている。

平成20 年度からの具体的な検討内容

有床診療所入院基本料の引き上げ

○入院基本料の「底上げ」か、上位基準の加算か

現段階では、機能類型による入院基本料の 種別化には疑義があり、複数配置や上位配置 等の加算評価の要望がある事、看護配置基準 と逓減性の見直しが主要課題であること等か ら、「底上げ」が有力となっている。

○原価計算による根拠に基づいた引き上げ要望

日医総研による実態調査とケーススタディ の実施、看護業務を入院・外来に時間配分す る問題、夜間・休日の看護配置基準の問題、 中医協の実態調査との差異の問題を踏まえて 検討を行っている。

有床診療所入院基本料の見直し

○看護配置基準の見直し

・「1 〜 4 人」・「5 人以上」の区分の見直し→区分がいささか難しい

・一般・療養の看護職員の一括・合算算定に向けた見直し→現在は個別算定

○入院基本料の逓減性の見直し

・入院1 週間の水準が2 週間後に半減する逓 減の見直し

・入院初期期間を2 週間とし30 日間までを 重点的に評価されるべき

○配置基準の評価か、有床診の固有の機能強化か

・配置基準による評価は病院との整合を求め られる

・「かかりつけ医」、「在宅医療支援」等の有 床診機能の評価がされるべき

・加算は要望しやすいが基本料に組み込まれ る例がある

有床診療所の個別課題の検討

○まずは医療界から有床診療所の役割の明確化 とその認知に向けた広報

・関係者による現地視察と地域医療における 役割の確認

・福岡、和歌山、広島、北海道等の有床診療 所十数か所訪問

・地域ニーズに応えていることの認識・理解 を得ること

○有床診療所によるショートステイ算定に伴う 問題点

・介護報酬改定の一般病床で「短期入所療養 介護」算定可能

・申請手続きが煩雑なので、簡素化に向けて 県・国の対応を要請

・「診療所後期高齢者医療管理料」活用の促進

○ 48 時間規制撤廃後の基準病床算定に伴う問 題点

・特例による病床の扱いと病床過剰地域での 新規開業時の問題

○小石川養成所跡の視察

(3)有床診療所の現状について
1)福岡県古賀市 大岩外科医院
院長 大岩俊夫

大岩外科医院は開業以来43 年になり、消化 器癌の診断と治療が一貫して行える施設で開業 以来その方針に変更がない。この地方での胃腸病のセンター的役割を担ってきた。また、カル テは43 年分全部製本保存されており、手術症 例のデータ組織所見、写真が全部揃うなど、い つでも利用が可能で、他医療機関に紹介する時 もコピーを渡して対応している。さらに、臨床 研究の成果は論文にして常に学術誌に発表し医 学の進歩に寄与しているところである。

当医院のスタッフは、医師2 名、准看護師7 名、看護補助1 名、事務職5 名、事務長1 名、 給食係・栄養士4 名の合計20 名である。

病床数は一般病床8 床、療養病床9 床(う ち、ショートステイ対応3 床)の17 床で、病 床利用率は60 %〜 80 %、平均入院日数は一般 病床8.2 日、療養病床10.4 日となっている。

診療報酬請求書による点数は入院部門で大 幅に下がっている一方で、入院部門の人件費が 高い。

平成20 年度入院部門の収支計算書では、年 間約1,500 万円の赤字である。

有床診療所と大病院の利点欠点を比べた場 合、患者の流れからすると、大病院では建物の 大きさを頼ってくるのに対し、有床診療所では 医師の技量を頼ってくる。退院後に関しては、 大病院では退院後の治療は他施設に頼まなくて はならない状況で、特に癌の治療には不利であ る。一方、有床診療所においては継続して治療 が行えるので患者の安心感が強い。病診連携に 関しては、病→診への連携はうまくいっていな いが、診→病への連携はうまくいっている。

チーム医療に関しては、有床診療所では概ね 単科であるので多くの合併症を持った患者は扱 えないのに対し、大病院では院内他科と合同で 治療に当たる事ができる。

現在の有床診療所は、安い入院費で毎年の赤 字が補填できず、夜間や休日までオンコール状 態である過酷な労働条件、あらゆる責任は全て 院長、応援医師や協力医師の人材に恵まれなけ ればならないといった状況で、このままであれ ば10 年たたぬうちにほぼ全滅してしまう。

有床診療所の再生には、1)十分な入院費のア ップによる入院赤字の解消、2)新規開業の規制 をなくし、優秀な医師が有床開業できる体制づ くり、3)複数医師加算の大幅増、4)医師の教育 制度を改めることが必要で、それらが出来れば 再生は可能である。

2)広島県安芸高田市徳永医院
院長 徳永 彰

当市の平成21 年4 月の人口は32,489 人で65 歳以上の高齢者は高齢化率3 割である。なかで も後期高齢者が6,418 人と後期高齢化率が2 割 に達し地域の高齢化が進んでいる。高齢者の約 半数が1 人暮らしか高齢夫婦のみの所帯となっ ている。要介護認定者の高齢者が2 割にも達 し、いわゆる老老介護、認認介護が進んでいる ことが推測される。

当市における有床診療所は当院と産婦人科、 眼科の各1 機関を含め6 機関で、療養病床を持 っているのは4 機関である。

介護療養病床が廃止される平成24 年4 月以 降について、ある医院は入院基本料が上がらな い場合は医療強化型老健に切り替えないと職員 の人件費が払えない。別の医院は看護師の平均 年齢が60 歳足らずで看護師の補充がないこと を考えると当直は看護師でなくても良い老健か オンコールの医療強化型老健に転換せざるを得 ないと言っている。もう一つの医院は有床診療 所と一般療養病床と医療強化型老健のミックス タイプである。当院も同様な考えであるが、入 院基本料や介護療養病床等の報酬アップがなさ れれば、有床診療所としての経営は可能であり 存続できるのではないかと考えている。

平成20 年4 月改定で、一般病床の14 日以内 の短期入院は点数が高くなっているが、長期入 院の評価は大幅に低下している。

病院や老健施設などの医療療養病床や介護療 養病床と比べても低い点数となっている。

本年4 月から利用できるようになった短期入 所療養介護(ショートステイ)では比較的高い 点数となっており、今後が期待される。

今後の課題としては、1)急性期医療(産科、 眼科、整形外科、一般小外科)と慢性期医療のどちらの入院基本料も引き上げ、2)少子化社会 における看護師の補充育成や平成23 年4 月以 降でも有床診から医療強化型老健への転換を可 能にする、3)48 時間規制も撤廃したことから 有床診の位置付けを確立し地域の医療計画に組 み入れて活性を図る、4)一般病床を短期入所療 養介護(ショートステイ)として利用できるよ う関係者への周知徹底を図る事が必要であると 述べられた。

(4)諸問題に関する協議

都道府県医師会からあがっている質問・意見 に対して、今村常任理事より纏めて回答いただ いた。

いずれの医師会からも入院基本料の低さにつ いて指摘がある。恐らく関係者の総意だと理解 しており、日医としても十分考慮させていただ きたい。また、入院基本料引き上げの一方で、 手厚い人員配置に対する評価・加算が必要との 意見もある。

広島県医師会から、複数医師による安定した 共同経営ができるような制度が必要との指摘が あるが、有床診療所の新規参入あるいは継承の ためにも手厚い人員配置は必要であろう。新し い有床診療所の制度化が医療法上での制度化で あれば、次期医療法改正に向けて検討が必要で ある。

ご出席いただいている先生からも意見をいた だき、委員会等で検討していきたい。

三重県医師会から意見のある看護配置に対す る問題提起についても、ご指摘のとおりである と考える。最大19 床という少ない病床の中で、 看護職員を一般と療養で別々にカウントする事 は非常に不合理である。極端な例でいうと、一 般病床が1 床でも入院基本料1 を算定するには 5 人以上の看護職員が必要となってくる。19 床 しかない有床診療所に病院の病床と同じ考え方 を当てはめるのではなく、病院と有床診療所の 病床機能は別であるという考えに切り替えても らう必要がある。小回りが利く形で運用できる ようにすることが地域の医療を円滑に進めることに繋がる。これには必ずしも財源的な問題は 生じてこないと思うので、何としても厚労省に も考えていただかなければならない。最優先の 要望として柔軟な対応を強く求めていきたい。

大分県医師会からは、地域のニーズに応える ような有床診療所の新たな機能を開発するため の議論を委員会で行うべきとの意見である。ま た、沖縄県医師会からも地域医療連携の中で有 床診療所の位置付けの明確化が必要との意見も いただいた。

診療報酬上の評価を得るためにも、地域医療 の中での明確化が必要であるという事だと思 う。医療計画の基本指針では、各診療所の地域 における役割を考慮する事が重要であると書か れている。厚労省医政局としても有床診療所の 重要性については理解していただいているもの と思うが、今後の医療提供体制を考えていく過 程で、さらに有床診療所を全面に出して考えて もらうよう求めていかなければならない。

有床診療所は診療科や地域によっても機能は 様々なので、十把一絡げの議論は出来にくいの が現状である。今後特に必要性が高まると考え られるのは、高齢者の医療・介護に係る役割だ と思う。その一方では病院勤務医の疲弊が叫ば れる中で、産科や外科、整形外科等の有床診療 所が分娩や手術を引き受け、勤務医の負担が現 実的に軽減していくという状況を考えると、勤 務医の支援機能を主張し、病院、有床診療所、 無床診療所、介護施設といった全体の提供体制 の中で、地域の特性に応じた医療需要、介護需 要などをベースに考えていく必要があるのでは ないかと考える。

いずれにしても、これまで行政に対しても国 民に対しても有床診療所というものがこれだけ 地域で様々な機能を果たしており、今後も地域 住民のために必要な医療を提供していくという アピールやメッセージの発信が不十分であった と考えている。

日医としても今後さらに理解へ向けた努力を していきたい。

【質疑応答】

<佐賀県医師会>

転換型老健に行く際にどうしても行けないハ ードルがある。療養病床の時は、栄養士も理学 療法士もいらなかったが、転換型老健となると 29 床以下の病院と同様で栄養士や理学療法士 を配置しなければならない。こうした基準を決 める際は栄養士や理学療法士を配置した際には 加算点数にするなど、柔軟な対応をとっていた だきたい。

<日医三上常任理事>

平均要介護度4 以上を扱っている施設から介 護療養型老人保健施設への転換については、性 格上非常に難しいという事は理解している。

老健局と保険局医療課との連携が不十分で転 換老健については、どれを基準にするかという 事は先生のおっしゃる通り問題があると思う。

日医としては、このようなケースについては 転換を待った方が良いという事を各地で申し上 げている。ただし、栄養士の配置基準について は検討させていただきたい。

<兵庫県医師会>

有床診療所は産科医療や救急医療の1 次・ 1.5 次、2 次へのトリアージ等を行っており、 地域になくてはならない医療を提供している。 それらが地域の救急医療等を支えていると考 える。

新規参入の際、縛りや枠をはめずに、許可制 から届け出制へ戻していただく事で救急医療等 が円滑に支えていけると考えているが、厚労省 にお伺いしたい。

<厚労省医政局総務課>

有床診療所は小回りの利く、無くてはならな い存在だと認識している。医療法の48 時間規 制撤廃等についても要望があり改定してきたと ころである。先生方の指摘を今後の医療法改正 にどう繋げていくか等、日医の総意として纏め ていただき、建設的な意見を伺って必要な措置 を講じていきたい。

<大分県医師会>

空床や過剰病床を居宅として位置付けて、直ぐに医療を提供できるような体制を整えておく という事を厚労省にも考えていただきたい。

<厚労省>

ご意見として活用させていただきたい。

<岡山県医師会>

地域医療再生基金について、日医は有床診も 再生基金の1 つとなると説明いただいた。

岡山県では、急性期病院と有床診との連携を 緊密にし、早期受け入れを行うという事を条件 に地域医療再生基金に応募した。他府県に応募 した県があればご教示いただきたい。

<日医竹嶋副会長>

有床診ももちろん計画に盛り込んで欲しい。 折角の機会なので県行政と一緒になって積極的 に関わっていただきたい。

また、全県の状況は未だ把握していない。

<栃木県医師会>

本年4 月から実施されているショートステイ は、病床の改装等に非常にお金がかかるので、 現在、地域医療再生計画の1 つとして県側に要 請しているところである。また、ショートステ イを実施するための施設基準や薬剤の量等の問 題がある。

<岐阜県医師会>

地域医療再生計画で有床診のネットワークを 構築することとしている。地域医療の中核に有 床診療所を設置し、病院、無床診療所、介護施 設等と密に連携を図ることとしている。特に問 題となる1 人体制の対策として当直体制やタイ ム体制といった連携を図るネットワーク構築を 予定している。

先日、全国有床診療所連絡協議会で、厚労省 保険局佐藤医療課長から、1)有床診の時代は終 わったものだと思っていたが、最近大切さを認 識し始めているとの話があった。

また、2)厚労省は日本全体のベッド数を減ら したいという意向があるらしいがいかがか。

岐阜県では、100 億の方で県立病院の再生、 25 億の方で圏域内での有床診療所のネットワ ーク構築を図る事を計画している。

<厚労省:佐々木>

1)有床診の新たな役割については、地域での 様々な役割、期待される役割があると思う。中 医協や社会保障審議会等でも有床診の話題があ げられ、議論が始まっているところである。

2)保険局の中で病床数をどうこうという事は 考えていない。少なくとも急性期病棟と慢性期 病棟、回復期リハビリ病棟と病院での役割分担 は出てきているが、その中で有床診療所がどう いう役割を担っていくか。平成24 年介護との 同時改定があるので総合的な議論が必要との認 識を持っている。

<広島県医師会>

毎年1,000 件もの有床診療所が減少してい る。中小企業でいえば倒産である。

病院は大変だから余っている開業医から移 したらどうかというマスコミ報道がなされて いる。

様々な調査がなされているが、有床診療所は 当直体制の問題や継承問題等、他の開業医とは 区別して考える必要があるにも関わらず、儲か っているという誤った数字が報道されている。

  • 1)世の中で開業医が儲かっているというイメ ージを払拭しなくてはいけない。
  • 2)病院勤務医並みにキツイ開業医もいるとい う事を認識していただきたい。

<厚労省>

医療経済実態調査のデータが財政審審議で使 われている。平成21 年度の同調査は、中医協 の中でも議論があり、いろいろと工夫されてい る。有床診療所についても従来とは違い、有床 診の状況を把握できるよう工夫している。例え ば、実際に病床が稼働しているかどうかを確認 した上で分析を行っている。

また、視察を通して現場の先生方の活躍を身 にしみている。様々な議論を通じて努力してい るところが少しでも評価されるような方向で対 応できればと考えている。

<高知県医師会>

今回の視察先は全て複数医師の施設を視察し ている。しかし、全国を見てもほとんどが1 人 医師で苦労されている。もちろん複数医師も含 めるが、基本は1 人医師だと考えるので、日医 もそれらを含めて対応していただきたい。

<日医今村常任理事>

委員会の中でも1 人医師の事が議論されてい る。人員配置や施設基準等に対して評価をする という事は当然であろうと認識している。そも そも有床診にかかる最も基本的な問題は1 人医 師の入院基本料等の引き上げなどの底上げをし なければならないといった共通の認識をもって おり、忘れずに対応していきたい。

<長崎県医師会>

いろいろな要望があってもなかなか難しいと 思う。何か1 つ的を絞って、厚労省に働きかけ た方が良いのではないか。

日医として、これだけは絶対に譲れないとい う重点的な事を決めていただき、厚労省、中医 協等との折衝をお願いしたい。

私は早急に入院基本料の引き上げが第一であ ると考える。前回の診療報酬改定では在宅医療 に重点を置いたものとなっているようである が、決して在宅医療の点数が高いという事では ないが、在宅患者訪問診療所の点数は830 点で ある。830 点に対して有床診療所の入院基本料 は810 点で、30 日以上になると450 点と非常 に低くなる。

一般の入院料の低さが目につき、これでは有 床診のモチベーションに影響を与えてしまう。 どうか早急に来年度の診療報酬改定で入院基本 料の引き上げを実現して欲しい。在宅医療に関 する後方支援は有床診にしかできないと考える ので、これ以上有床診を減らさないためにもご 考慮いただきたい。日医としては今後どのよう なスタンスで闘争されるのか具体的にコメント いただきたい。

<日医今村常任理事>

診療報酬改定については中医協の委員を中心 に詳細に検討していく事になる。

本日改めて各都道府県医師会の先生方から入 院基本料が低すぎるという意見をいただいた。 有床診の検討委員会はもちろんだが、社会保険診療報酬検討委員会でも入院基本料の引き上げ を最優先の要望項目にあげているので、日医執 行部としてしっかり受け止めて対応したい。

そもそも有床診の入院基本料が低いままに等 閑にされてきた大きな理由は、48 時間規制で 少なくとも法律上は一時的な入院という位置付 けであったからだと思う。

48 時間規制は平成19 年に撤廃され、基準病 床数制度にも組み込まれ正式な入院病床として 認知された。

厚労省の立場として、有床診と言っても診療 科によって違い、地域によっても大きな違いが あるなど、1 日の入院基本料の引き上げは難し いと時々耳にするが、病院とは人員配置や施設 基準が違うので点数に差がある事は理解できる が、入院基本料の中に含まれるホテルコスト的 な部分は病院であろうが有床診であろうが大き く変わるものではないと考える。

有床診の場合、土台となる点数が低すぎてコ スト割れをしているというのは間違いないので ある。医師、看護職員がいて介護施設並みの手 厚いサービスを提供していながら、介護施設よ りも費用が低いという事では説明がつかない。 この辺を当局には是非ご理解賜りたい。

コスト割れをして医療機関からの持ち出しで 地域住民のニーズを引き受けているのが現状で ある。これ以上の持ち出しに耐えられず有床診 が無くなるという事になれば、必ず行き場のな い患者が発生する。その結果、地域の医療提供 体制にも大きな影響を与えることになる。そし て地域医療崩壊が加速していく。そこを国とし てどう考えるのか、国としての姿勢が問われて くるといっても過言ではない。

有床診療所の入院に係る医療費は医療費全体 からみれば非常に小さいものである。それを底 上げして地域の医療が円滑に回り、地域住民が 助けられるのであれば国民の理解はきっと得ら れるはずである。厚労省・日医の目指す安心な 医療提供体制に近づくであろう。地域医療再生 の要であるという主張は費用対効果の面からみ ても最も現実的な対応であると考える。今後中 医協でも理解が得られるよう日医としてもデー タを示しながら地域の現場の実状を説明してい く必要がある。加えて有床診の機能、手厚い人 員配置に対する加算をどれだけ付けられるかと いうことも考えていかなければならない。

委員会としても執行部としても知恵を絞って 対応していきたい。

<埼玉県医師会>

入院基本料の引き上げは当然の事であるが、 厚労省から条件が付けられる恐れがある。日医 は強い姿勢で、その条件を呑まず現状のままで 引き上げを行い、新規参入を許可制から届け出 制にする事も含めて対応いただきたい。

<福岡県医師会>

有床診は日本の医療の原点である。信頼に基 づいた医療が確実に行えるのが有床診である。 有床診が経済的な憂いもなくきちんとできれ ば、ひいては勤務医の肉体的・精神的な負担軽 減にも繋がる。有床診療所の最大の特長である 入院が非常に安く設定されている。これは必ず 改めていただきたい。そこから有床診の幕上げ ができる。厚労省・日医とも是非積極的に進め ていただきたい。

総 括

日本医師会副会長 竹嶋康弘

地域医療をどうやって作るかという意義を考 えて国民へ提供しなければならない。

それには1)安心して医療を受けられるシステ ムを行政でなく日医主導で行う、2)地域格差の ないフリーアクセス、3)無床診療所、有床診療 所、病院、急性期医療機関、回復期医療機関と のネットワーク構築が必要である。

会の冒頭、唐澤会長から「地域の医療再生に は、有床診の医療資源を活用することが必要不 可欠」と挨拶されたが、その一言に尽きる。

有床診については、様々な分野について新 しい展開がされており、日医としては今年度 中にやらなければ責任を果たせないと強く感じ ている。

印象記

玉城信光

副会長 玉城 信光

平成21 年8 月19 日(水) 歴史的に画期的な会議がもたれた。これまで日医執行部の中で有 床診療所の問題が種々議論されてきたが、なかなか前進しないもどかしさがあり、1 年間で1,000 ほどの診療所が閉院、ないしは無床化を余儀なくされていた。厚労省においても有床診療所とい う認識がなく、診療所一般のくくりのなかで議論されるために実態の把握をしていない状態が続 いていた。

日医の中で初めての全国代表を集めての議論であった。厚労省からも3 名の方が出席し議論の 推移を見守り、答弁して頂いた。

本文の報告に述べる様に今村日医常任理事からこれまでの状況報告と「有床診療所に関する検 討委員会」委員長の大道先生から、これまでの委員会の経過報告の後に2 名の有床診療所の先生 から現状の厳しさの報告があった。

会員の先生方も有床診療所の実態をご存じないので簡単に述べてみる。現在有床診療所の機能 を大きく5 つに分けて考えている。

  • 1、専門医療を担って病院の負担を軽減し地域医療の崩壊を防ぐ
  • 2、地域の病院からの早期退院患者を含めた患者の受け皿として機能
  • 3、地域の在宅医療の拠点診療所として在宅医療の後方支援に病床を活用する
  • 4、終末期医療などのニーズが高まる分野への取り組みを行う
  • 5、特にへき地・離島では唯一の入院施設として機能

この様に多種多様の機能を有する有床診療所をどのように評価していくのか、多くの問題を内 包していることが分かる。

それでも有床診療所のたち行かない大きな問題点は入院基本料の低さにある。医師が複数いる 診療所でも1 日一人あたりの入院基本料が810 点、老人病院のそれが1,200 点であるのに比べ大 変低い状態が続き次々と無床化する原因になっている。私の施設でも18 床に看護師9 名、助手1 名を配置しており、病床の運用は大赤字である。

今回の連絡協議会での報告にもあるように厚労省、日医が初めて全国有床診療所14 カ所の実態 調査、視察を行ったのである。このことにより多様な地域で多様な性格を有する有床診療所の実 態把握にもとづき、次期診療報酬改訂時には何らかの手当が講じられるのではないかと期待して いる。

地域医療連携の中で有床診療所が担う位置づけを明確化し、正当な評価をして頂きたいと思っ ている。