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研修医の耳に念仏、研修医の耳にタコ

又吉隆

那覇市立病院放射線科 又吉 隆

今年は空梅雨になりそうな気配だ。晴天の6 月を迎え1 年目初期研修医も病院という職場に 慣れ余裕が出てきたようである。当院でも充実 した教育で彼らの医師としての技量向上を図っ ており放射線科では1 年目研修医を対象に毎週 1 回救急疾患、胸部単純写真の画像診断を講義 している。講義の流れは該当疾患の大まかな説 明のあと症例のフイルムを提示し研修医が画像 所見を拾い上げるといういたって普通の内容で ある。では例えば虫垂炎の画像を1 回詳しく解 説し症例を数例提示すると翌日から彼らが虫垂 炎を的確に診断可能かというとそれは当然無理 である。ある研究会で慶応大学から研修医はミニレクチャーを受ける前後で画像所見の拾い上 げに変化がなかったとの報告がなされた。これ までも“えっ、この所見は教えたはずだが?” と絶句することが度々あった。1 回教えるだけ では駄目なのだという境地になったのは研修制 度が始まって3 年目であった。こうなると研修 医の忘却スピードが速く念仏で終わるかしつこ い講義で耳にタコができるか根競べである。そ のため講義内容が印象に残るように手を替え品 を替え工夫をしてきた。

講義は早朝午前7 時開始なのでプリントを配 り座学で説明を始めると必ず誰かが眠り始め る。視覚に訴えるスライドを多用し小マメに質 問しながら考えさせる工夫をしないと深夜まで 勤務し早朝から採血をこなした彼らに寝るなと いうのは酷である。座らせて駄目ならば立たせ ようということでシャーカステンの前でフイル ムを読影させると居眠りは無くなった。しかし 議論が活発化したがここでも大人数だと半数は あぶれてしまう。5 枚掛け2 段のシャーカステ ンでは詳しく画像を見ることができるのは最大 6 人までである。7 人以上は後ろから単に写真 を眺めているだけ終わってしまう。画像診断で フィルムを詳しく見ることができなければ寝た ほうがよっぽどましだ。そこで3 年前からは研 修医12 名を前半後半2 グループに分け5 ヶ月 交代で同じ内容の講義をすることにした。シャ ーカステン前は適正人数となるし研修医も内科 系・外科系、離島・大学研修など各自のローテ ーションに合わせ受けたい時に受講できる。

フィルムを見せ画像所見をまず研修医に拾い 上げさせる。シャーカステン前の数人で相談さ せるのもよく1 人が所見に気付くと互いに補い 合いながら所見を絞り込んでくる。その後所見 を詳しく解説する。画像は心霊写真と一緒で、 心霊写真はそのままではどこが幽霊なのかさっ ぱりわからないがこんな形ですとか解説シェー マを見るともう幽霊しか見えなくなる。画像も 同じく解説を聞くと所見が急に見えてくるもの である。実際の臨床場面では無理だろうが講義 中は所見探しを楽しんでほしいと考えている。 数例提示して研修医の目が所見に慣れたところ で講義終了となる。しかしこのままでは1 か月 もたたないうちに知識や画像所見はあやふやに なる。日常臨床で典型例が見つかったらその都 度症例を提示し記憶を引き戻さないといけな い。急病センターなどである研修医が遭遇した 疾患の画像は他の研修医の格好の教材となる。 彼らは仲間意識が強く同僚が経験したことは明 日は我が身と考えておりフイルムを提示し“A 先生が当たった症例、君所見わかるか”と尋ね ると身を乗り出して食いついてくる。これが1 年先輩医師が当たった症例を出しても熱意は格 段に低くなる。また目の前に人参をぶら下げる 意味で所見を当てると食事を奢る約束をすると 彼らは面白いほど熱心に読影する。難しい症例に限っているのでわからないだろうとタカをく くっているが結構所見を当てられて懐の痛い思 いをしている。

当然ではあるが講義を受けるよりも教える立 場に立つことが本人の学習効果として最も有用 である。前半後半に講義を分けた前半5 ヶ月は 脳外科研修医に脳血管障害の講義を担当させ た。立派に後輩を指導することに味をしめて今 度は当院で病院実習に来た琉大6 年生を対象に 胸部単純写真講習会を開き2 年目研修医を講師 に充てた。朝から夕方までぶっ通しで胸部単純 写を見るのは疲れるがさすが20 代の若さで乗 り切ってくれた。研修医は見違えるように堂々 と指導しており教えることで知識をしっかりと 身に付けたようだ。研修医と学生とは2 年しか 離れていないが画像診断力には当然雲泥の差が 付いている。当院で研修したレベルがどれくら いか学生へのよいアピールになるかもしれな い。写真は講習会風景のもの。あと2 回胸写の 講習会を予定しさらに研修医の知識の地固めを 行う。

以上が5 年にわたる試行錯誤の研修風景であ る。研修制度も6 年目であり半数近くが後期研 修医で残ってくれた。彼らが読影室によく質問 へ来るおかげで臨床医と放射線科医の意思疎通 は非常に良好となった。彼らがよきパートナー に育ってくれることを熱望して止まない。

シャーカステン前の学生を指導する初期研修医(左)。
学生と研修医を一度に指導でき一石二鳥。

参加人数に合わせ同じフイルムとシャーカステンを2 セット 用意し余裕を持たせた。



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