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更年期以降・男vs 女

祝嶺千明

しゅくみね内科 祝嶺 千明

新年号の干支随筆では、死亡広告に関心を持 つようになったことや友人の死に触れ、これか らの年のとり方を考えていきたい旨を書かせて 頂きましたが、今回も依頼がありましたので拙 文ですが挑戦します。

リチャード・ドーキンス先生は利己的な遺伝 子という本のなかで“哺乳類の場合、自分の体 内で胎児をそだてるのも雌、生まれた子供に乳 を与えるのも雌、子の養育と保護の重荷をしょ いこむのも雌”であるため種の存続において “雄はいっそう「消耗的な」存在であり、雌は いっそう「貴重な」存在”といっている。

そのためか女性は、種として生物学的優遇措 置が施されているようで、女性ホルモンに守ら れているという話は有名であるが、なんでも体 内の抗酸化物質も女性の方が男性よりも高濃度 であるという。抗酸化サプリメントを摂ること で男性の全癌罹患率が低下したとのデータがあ り男性は積極的に抗酸化物質を摂ったほうがい いらしい。

その優遇措置が解除される更年期、外来で更 年期障害の方々をみていると、男性に比べると 女性の更年期障害はつらそうである。

最近こられた患者さんの表現を借りると、 “順風満帆の航海中、突然嵐が来て荒海の中に 放り出されたような苦しさ”であるという。

しかし、私にしてみると更年期を乗り越えた 後の女性は、まるで変身物のヒーローのように 生命力がアップ。各段に潔く、そしてたくまし くなるように感じる。

更年期をクリアーした70 歳代女性の患者さ んの話。

折からの韓流ブーム、ビデオ屋さんからビデ オを借り、徹夜もいとわず毎晩見まくっている という。特に、○○様の話しをする時の彼女の 目は宙を漂い、女学生のよう。見始めたら煩雑 な家事仕事は忘却のかなたへ。しばらく忘れて いた若きころの純粋なときめきに、さめざめと 涙するという。傍にいる旦那さんを尻目に。

その彼女次に来院した時には趣味が高じ、韓 国旅行に行くという。私が「いいですね。ご主 人もご一緒に?」と聞くと、「まさか!女友達 とさー。旦那と行ってもおもしろくないのに。 ははは!」と笑い飛ばされた。

別の62 歳の女性は、結婚以来男所帯の家事 の切り盛りに明け暮れてきた。更年期には親の 介護も重なり、うつ病になり苦しんだという。 その彼女、思い余って旦那さんに「私より2 年 は早く死んでね。せめてその2 年間は家事の束 縛から解放されて旅行とかして死にたいから。」 と思いの丈をぶつけた。それを聞いた旦那さ ん、あわてて旅行に連れて行ってくれる約束を してくれたとのこと。

もしかしたら更年期以降は、女性にとり旦那 の存在は家事と同じ類のストレスのひとつでは なかろうか。

このところ熟年離婚が増えているというが、 三行半を突きつけられるのは男性が圧倒的に 多いらしい。離婚後の男性は精彩を欠くが、 女性は水を得た魚のように生き生きとしてい ると聞く。

外来で感じることだが、男性の一人やもめは 健康度が低いことが多い。男性の一人暮らしは 短命だが、女性の一人暮らしは長生きだそうだ。

外来の待合室をみていると、女性と男性では 待ち時間の過ごし方が違う。

女性は知らない者同士であっても、気軽に声 をかけ和気あいあいとしている。一方の男性は というと、しかめ面をして新聞を広げ誰も自分 には話しかけるなという雰囲気が漂っている。

比較的女性は新しいことにも挑戦するし、物 事の楽しみ方を自然体で知っているなと思うこ とがある反面、男性は世間体や履歴に固執するためか自分のテリトリーを守ろうとする傾向が あるように思える。

最近母の日があった。いつの時代も母の日は 盛大である。なんと言っても華がある。 母の日があっての父の日という感じである。母 の日のプレゼントは選択肢が多くどれにしよう か選ぶのに困るが、父へのプレゼントはどうし ようか困りものである。気持ちが大事とは思う が、とにかくオプションが乏しい。

わが家は、女房に娘が2 人の4 人家族。

女房は子育て時代は哀れなくらいやせていた が、最近ははむちむちと肉体的にも精神的にも 充実の一途をたどっている。PTA 関係を始め として友人も幅広い。

一方の自分は職場と家の往復に明け暮れ、年 齢とともに筋肉量が減り体格がしょぼくなって きている。

女性の社会進出が当たり前になった今の時 代、人生の後半においては生物学的にもそうか もしれないが、社会的存在としての男性は女性 に比べ先細りの感があるのでは。

やはり男は消耗品?!

私自身、更年期といわれる年齢を目前にし て、まだまだ気持ちだけは一家の黄金柱、ナイ トの精神猛々しいつもり。ではあるがこの先、 ますますお世話になるかも知れない家庭や職場 の女性たちに見習い、生き方上手にならねばと 思う今日この頃である。