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琉球文化意識からみる地域連携

下地國浩

沖縄県立北部病院内科
下地 國浩

沖縄県医師会の先生方、はじめまして。私は 琉大卒で、現在、県立北部病院で内科勤務しています。県立中部病院で研修後、宮古、那覇 (現在の南部医療センター)、北部、中部、そし て今の北部病院と、よく転勤を致しました。自 ら振り返っても、感心するやら、あきれるやら で、その度に子を授かり、現在5 人目となって います。又、各病院が抱える離島診療所にも応 援で行きました。ネットやテレビ等で、生活習 慣病など健康に関する情報はどこでも変らない 筈なのに、その情報と実生活が思いっきり解離 している様を目の当たりにしてきました。地方 に行けば行く程、その認識の違いが大きい事も 実感致しました。それを体感した時期に、ちょ うど「26 ショック」が発表されました。「この ままでは、凋落の一途を辿ってしまう」と、あ せりを感じました。その瞬間、思いもよらずに 郷土に対する想いが芽生えてきたのを覚えてい ます。その日を境に、医師という仕事を通して 沖縄のために役立つ事は何だろうか、という事 を考え始めました。そして、現在、小学生に上 がった子供達と、琉球や日本の歴史を一緒に勉 強しています。この2 点を中心に、話を展開さ せたいと思います。宮古では、私が勤務してい た10 年以上前から、学校で食習慣や生活改善 を見直す運動がなされていました。学校関係は もとより、消防、保健所、市など、あらゆる機 関の有機的な連携が既に実践されていました。 ある宮古の中学校で、「朝御飯の大切さ」を講 演された医師から聞いた話を紹介します。講演 会終了後、職員室に一人の女生徒が入ってき て、その医師の前で泣きながらこう言ったそう です。「自分の家は、母一人、子一人で、お母 さんは夜の仕事で、朝は寝ていて、朝御飯食べ た記憶がない。でも、先生の話を聞いて、自分 がお母さんになったら、子供にはちゃんと朝御 飯を食べさせてあげたい。先生、私、頑張るか ら。」と。こういう子を一人でも多く助けてあ げたいと痛烈に感じました。中部病院の3 年 間、うるま市に乞われるまま、約30 件余りの 生活習慣予防の講演を行ないましたが、幼稚 園、小中学校は、私の希望で実現しました。中 学校で、先程の女の子の話をしたのですが、声 を詰まらせ、目に光るものを浮かべてしまい、 失態を演じたのですが、かえって、子供達の心 に響いた様でした。生活習慣を見直す意識の変 容を、学童にまで裾野を広げる事の大切さと、 これからは医療側も意識を変える時ではないで しょうか。既に、北部、中部、那覇、南部地区 では、特定健診と絡めて、糖尿病、CKD の病 診連携が着々と進んでいます。市町村の保健師 や福祉保健所も参画しています。文字通り、地 域ぐるみで県民の健康を守ろうという事です。 かつての琉球の歴史になぞらえると、天孫王朝 と呼ばれる原始集落の平和時代から、地方を治 める按司時代へと時を移した様にも思えます。 「中山世鑑」では、鎮西八郎源為朝の子と言わ れている舜天が、浦添王朝(1187 〜 1405)を 築きます。その間、英祖王統の頃に、三山対立 がおきます。しかし、第一尚王統の尚巴志が、 1429 年、三山統一を成し遂げます。このよう に、近い将来、3 医療圏域ごとに整備されてい くでしょう。そして、戦ではなく、融合の精神 でもって琉球、沖縄が概ね一つにまとまる事 が、長寿復興の屋台骨になるでしょう。その試 みは、既に始まっています。各地区での連携を 発表し、その流れを一人でも多くの先生方と共 有し、参考にし合いながら発展させていく勉強 会が立ち上がりました。連携に合わせて、ガイ ドラインやエビデンスに準拠した治療指針を提 示し、どこの医療機関へ行かれても、一定の水 準の治療を受けられる事も目標にしています。 その参加施設が、専門クリニック、健診センタ ー、医師会、琉大、県立病院と垣根のない所 が、特筆されるかと思います。又、何故、沖縄 で、このような事が可能になったのか。正史と される「中山世鑑」は、薩摩の監視下で書か れ、バイアスがかかっています。薩摩に1609 年に侵略される前の、1603 年に来琉した、浄 土宗の袋中上人の「琉球神道記」に、こう書か れています。「大海の中の小島群島といえども、 天地人神明の権化の地である。ほとんど仙人の 住まいである。国王。国のすみずみまで正しく 治め、万民を慈しみ、万民も礼と信を守り、純粋かつ成熟している。盗賊もなく、裁くところ は閑散とし、高貴な方は、良く自ら反省し、朝 は早く公務を始め、暗くなるまで励んだ。守禮 の邦と称されるのは、これを人民が規範とした からである。・・・」日本から来た袋中上人が、 琉球の文化は、宗教学・民俗学・言語学に優 れ、和光同塵の民族であると賞賛しています。 更に、琉球王朝では、外来文化や渡来人を受け 入れ、発展させてきました。その受容性に富ん だ精神が、知らず知らずに私達の心に宿ってお り、共存繁栄の歴史が、今、医療界の中で、繰 り返されようとしているのではないでしょうか。