那覇市立病院放射線科
足立 源樹
“シーカヤック”をご存知でしょうか?最近 は東村のエコツアーなどで有名になりご存知の かたも多いと思います。私はこのシーカヤック と出合えたからこそ、今こうして沖縄に残って 医者をしているのかもしれません。
カヌーとカヤックの違いは大きく2 点ありま す。船を漕ぐパドルの形状の違いとして、もち 手の片方にだけブレード(漕ぐための板)がつ いているのがカヌーで、両側についているのが カヤック。また、船の形状の違いとして船体の デッキが船首から船尾まで開いているのがカヌ ーで、カヤックの場合には自分が乗り込む部分 以外は閉じられているという違いがあります。 私たちが普段使っているシーカヤックは直進性 を高めるため細長く(川のカヤックは方向転換 が必要なためわりと丸い形状)、なおかつ1 週間 程度のキャンプであれば必要な食材・衣類など すべて積むことができる容量を備えています。
そもそも、このシーカヤックと出合ったのは 研修医が終了してから3 年くらいたった頃でし た。当時は朝病院に着いたら夜帰るまではずっ と病院内で過ごし、その日の天気が何だったの かもわからないような生活でした。そしてある 日、東京の実家から“あんたも長男なんだから 東京に帰ってきてはどうか?”といわれ、確かにこんな生活だったら東京も沖縄も一緒かな? と東京に帰ることも考え始めました。まあ、そ れならそれで大好きだった海で遊んでからにし ようと思い、さてここで何をしようかな?と考 えたのです。海のレジャーの王様はダイビング でしょうか?他にはサーフィン・ウインドサー フィン・ヨットなどたくさん浮かびましたが、 実は私はあんまりみんながやっているものはや りたくなく(私が放射線治療を選んだのもそん な理由でしょうか?)、もっとマイナーなもの はないのか・・・と、探し当てたのがシーカヤ ックだったのです。やってみると面白く、東京 に帰る気は瞬く間になくなってしまいました。
最初はやはり怖くてすぐそばの無人島にいっ てちょこっとあそんで帰ってくる、ぐらいしか 出来ませんでしたが、そのうちそれだけでは物 足らなくなってきます。初めてのキャンプは慶 良間の2 泊3 日だったと思います。シーカヤッ クでは海からの上陸なので、無人島あるいは無 人の浜でキャンプができます。そして、次第に もっと長距離を漕いでみたくなります。私が行 ったことのある長期のキャンプとしてはいずれ も6 泊7 日で、西表島一周(石垣発・石垣着)、 那覇から久米島まで、伊計島から喜屋武岬を越 えて那覇までというものでした。もちろん夜は ちゃんと浜に上陸して食事をし、テントで寝る のですがこれらはもはやレジャーの域をこえて いて、長く漕ぐ日は30 〜 40Km も漕がないと いけないので、朝早くにテントをたたんで出発 しても次のキャンプ地に着くとすぐに夕方、な んてこともあります。よくいろいろなひとから “そんなに漕いで腕つかれないの?”“途中で漕 げなくなっちゃったらどうするの?”とか“サ メいない?”などと聞かれますが、カヤックは 慣れてくると腕で漕ぐというよりは肩と背中で 漕ぐようで、久しぶりに漕いだりすると背中が 痛くなります。また、陸上のマラソンと違って 海上では途中リタイヤができないので、“もう 無理!”というのがありません。出発してしま ったら進むか戻るかしかありません。私は30 歳 半ばにして“やるしかない”という根性をあら ためて学び、自分の体力・体調を判断して“で きません”という勇気(次の目的地に行く気 満々の仲間に“自分は漕げません”と言うのが どれほどつらいか・・・)も学びました。サメ については、私はまだ見たことはありませんが、 友人の乗ったカヤックにサメが体当たりして来 たことがあります。そのカヤックでは舵を操作 するワイヤーが切れてしまったそうです。サメ とは違いますが、春にカヤックでホエールウォ ッチングに行ったことがあります。所詮カヤッ クは手漕ぎなのでクジラにあえるかどうかは運 任せであり、遠くに見えたときには死ぬ気で漕 ぐしかないという、とても優雅とはいえないホ エールウォッチングなのですが、近くで見られ たときにはほぼ水面の高さからのご対面であ り、その迫力は大きな船でのホエールウォッチ ングとは比べ物になりません。カヤックでのホ エールウォッチングは3 〜 4 日で慶良間諸島を 外側から一周するくらい漕ぐことになります。
そんなカヤックの旅にいつももって行くもの は釣竿(ルアー竿とタマン竿)、カメラ(デジ タル一眼レフとコンパクトデジカメ)ですが、 将来はさらに天体望遠鏡を持っていくのが夢で す。東京に住んでいた頃は望遠鏡を担いで山に 登っていましたが、これからは望遠鏡をカヤッ クに積んで無人島へ・・・まあ、欲張りな趣味 ではありますが、カヤックに出合えたことに感 謝しつつ、次はどうやって遊んでやろうかとい つも考えています。この秋には琵琶湖にカヤッ クをしにいく予定です。