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ハワイ・アリゾナ研修の旅

謝花隆光

大浜第一病院総合健康管理センター
謝花 隆光

7 〜 8 年前、医師として自分の進路をどうして いくか迷っていた頃、違う世界を見てみたらと いう友人のアドバイスがあり、以前の病院を退 職して、しばらく一家でハワイに行くことにし た。四十半ばにしてTOEFL の試験を再び受け、 ハワイ大学の学生として籍をおいたのである。

最初の数ヶ月は、子供を地元の小学校に入れ たり、妻が看護大学で勉強を始めたりで落ち着 かない日々が続いた。私は、知り合いの紹介に より、ハワイ大学医学部の提携病院であるクア キニ病院を見学することができ、特に消化器部 門のチーフであられたDr. Yoshida には外来診 療や内視鏡検査で多くの症例を見せていただい たことを大変感謝している。

そうこうしているうちに、以前より興味があ ったアリゾナ大学のDr.Weil による統合医療プ ログラムに応募したら受理されたので、翌年年 頭からアリゾナ、チューソンでの研修に参加す ることになった。25 年ほど前、研修医の頃に、 Dr.Weil の著書「健康と治癒」(邦訳―人は何故 治るのか)に出会い、その中で健康と治癒に関 わっている不可欠の因子は人間の意識であり、 未来の医療は人間の意識に働きかけるものでな ければならないという主張に大変感銘をうけた ことが契機になっている。

統合医療プログラムは、世界中の医療従事者 対象の2 ヵ年コースで、患者と医療従事者との 関係、医療哲学、栄養学、長い人類の歴史で医 療を担ってきた薬草学(西洋ハーブ)など多種 多様な研修科目を含んでいた。現地研修が3 回 あり、それ以外は参加者の自宅でインターネッ トでの受講ならびに課題のやりとりがあったた めハワイとアリゾナを往復したのである。 Dr.Weil ともいろいろお話しする機会があり、 先生は沖縄が大好きで数回行ったことがある が、最近の沖縄男性の平均寿命短縮が大変残念 だと述べておられた。

プログラムの中にSpirituality and Medicine という自由選択講習科目があり、自分は以前か らこの言葉に深い興味を持っていたので参加す ることにした。このプログラムにおける Spirituality という言葉は、私なりの理解では、 単に精神性や霊性というだけでなく、その人間 や民族のこれまで生きてきた歴史、生活環境、 家族や友人、ペットなどとの関係などその人間 に関わるすべてを含む概念である。そして医療 が高度に進歩した現代においても人間の Spirituality への理解や配慮が大事であること をこのプログラムを通じて再認識することがで きた。

ところで先進医療が発達する前の時代におい ては、Spirituality の部分が医療や看護におい て特に重要であったことを体験するツアーがあ った。原住民のネイティブアメリカンに伝わる Sweatlodge ceremony と言う儀式で、我々の グループ十数人はチューソン近郊のネイティブ アメリカン居住区に行ってそれに参加した。直 径5m ぐらいのドーム状テント小屋の真中に焼 いて高温になった岩石を積み、その周りに水着 とタオルだけになった男女混合の参加者が車座 になってすわり、ネイティブアメリカンの治療 師(Medicineman)の話をきくのである。

テントの中は、真っ暗のサウナ状態で儀式は 始まり、治療師は太鼓や民族楽器を鳴らしなが ら彼ら民族の太古からの歴史を滔々と語り、神 や自然の恵みのありがたさ、彼らの先祖の偉大 さを繰り返し述べた後、参加者に順番に自己紹 介を行わせた。さまざまな国の参加者の自己紹 介が終わると、治療師は、皆に手をつなぐよう 指示し、ここに集った者は皆兄弟であるから、 この聖なる場に自分の心の重荷やひっかかりを 出しつくすようにと述べた。異様な雰囲気の中 で不思議に恥ずかしいという気は起こらず順番 に皆、自分の家族や友人などへの懺悔を述べて いった。深い思いは母国語でよいということだったので、私は日本語で述べることにした。ひ と通り済んだ後で、治療師は楽器を鳴らしなが ら、あなた方の思いは大自然の神や聖霊によっ て聴きとどけられたので、あなたがたの罪や病 は癒されるだろうといったことを述べ、聖なる ものへの感謝の聖句を繰り返して儀式は約2 時 間で終了した。私は、禅寺での内観療法を知っ ていたので、似たようなものだと思ったのであ るが、白人の参加者にとっては新鮮な体験であ ったのだろうか、テントの外に出ると、彼らが 裸のままで抱き合いながら子供のように無邪気 に喜んでいるのが印象的であった。

その他にも多くの体験をさせていただいた が、残念ながら統合医療プログラムの多くの分 野は、ほとんど入門コースであったため将来的 に機会があれば、興味ある分野のさらなる研修 を受けてみたいと願っている。

2 カ年間、有意義な時間を過ごさせていただ いたが、最後に前病院をはじめ多くの方々に御 迷惑をおかけしたことをお詫びしたいと思う。 また研修の機会を与えて下さったハワイ大学、 アリゾナ大学の関係者の皆様に深く感謝して終 わりにしたい。