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研修医に臨むこと
− Output を意識し賢く経験をつもう−

原永修作

琉球大学医学部第一内科
原永 修作

平成16 年に開始された初期臨床研修制度も いろいろな経緯を経て平成22 年から大きく改 正されることになりました。おそらく今後も問 題提起され、改正(改悪でないことを祈ります が)されることになるでしょう。指導医の先生 方も研修医も振り回されることになるかもしれ ません。日々研修医や医学生の教育に携わらせ ていただいている立場として、このような制度 の改正に惑わされず、ぶれない指導を行ってい きたいと心がけていますが、まだまだ指導する 立場として未熟さを感じています。そういう発 展途上にある一指導医の考えであることをお断 りしたうえで研修医の皆さんが実りある研修生 活を送るための心構えとして重要であろうとい うことを次の3 つに絞って話を進めたいと思い ます。

  • 1)自らの目標設定と振り返りを行うこと。
  • 2)常にOutput を意識すること
  • 3)賢く経験を重ねること

以下にそれぞれに関して私なりの意見を述べ ます。

1)臨床研修制度の中では細かい研修目標が 設定されていますが、研修の初めからすべてを 意識して取り組むのは困難であり、むしろ自ら 達成目標を掲げて研修生活を過ごしていくこと が理想的です。新臨床研修制度の細かいローテ ーションスケジュールの中で研修生活を送って いると、日々の業務に追われ、気がつくと研修 期間が過ぎていくということになりがちです。 もちろん、ローテーションした診療科に一定期 間、身を置いた分、何らかの成果はあるでしょ うが、研修は小さな目標の達成の積み重ねによ ってなされるべきです。自分がどのような医師 になりたいか、どの道に進みたいかという大き な目標の達成のために、ローテーションする診 療科ごとに具体的な目標を掲げそれをクリアし ながらより充実した研修を送って欲しいと思い ます。たとえば私の属する呼吸器・感染症内科 なら「グラム染色を○回やる」「呼吸音の聴診 ができるようになる」「胸部X 線が読めるよう になる」「血液ガスの解釈ができるようになる」 といったことになるでしょう。また、「今日は ○○ができるようになるぞ」といたような日々 の簡単な目標を立てることも必要でしょう。忙 しい研修の中におぼれるのではなく、日々の目 標に向かって研修を続けることでモチベーショ ンも維持しやすくなることと思います。そうは いっても、最初のころは研修医の皆さんはどの ように目標設定したらいいか分からないことも あるかと思います。オリエンテーションや実際 の診療の中で指導医の先生方がうまく誘導し て、実行可能な目標設定をサポートしてあげる ことも必要でしょう。

せっかく自ら掲げた目標も達成できたかどう かを振り返ってみなければ意味がありません。 ローテーションの区切りごとに自分がその期間 に何を達成したか、何を経験したか、何が不十 分であったかを同僚や上級医、指導医と一緒に なって振り返りをすることは成長している自分 を認識する意味で重要です。また、日々の研修 をその日の最後に振り返ることも「昨日よりも 一歩成長した自分」を自覚することになり、そ の積み重ねによって1 年後、2 年後には自分が 目指していた姿にたどりつくことになることでしょう。

2)研修医の皆さんにとってもっとも身近で あり重要なoutput はプレゼンテーションでは ないかと思います。私自身、場に即したプレゼ ンテーションができるようになることは臨床能 力アップの早道だと考えており、研修医や医学 生にできるだけプレゼンテーションの機会を設 けるようにしています。研修医の先生方にとっ ては、毎日プレゼンをさせられるのは苦痛かも しれませんが、自分の得た患者情報や知識を確 立するにはやはりoutput に勝るものはありま せん。自分が何を理解していて何を理解してい ないかは表現してみて初めて明らかになりま す。研修医にとっては回診、コンサルテーショ ン、申し送りなどプレゼンテーションをする場 面が多々あるかともいますが、これらを「させ られる」とか「しなければならない」という感 覚ではなく、自分の能力を試す、自分の臨床力 が上がる「チャンス」だと思って取り組んでい ただきたいと思います。もちろん的を射たプレ ゼンテーションができるようになるためには、 問診、身体所見、検査データなどどれも欠かす ことができません。むしろこれらのデータはプ レゼンテーションという一つのoutput のため のinput と考えてもよいでしょう。しかし、最 も重要なoutput は患者さんに対して診療を行 うことであるということは言うまでもありませ ん。研修医に限らず、われわれ医療者は患者さ んに適切な医療を提供するというoutput のた めに詳細な問診をとり、身体所見をとり、必要 な検査結果を得るというinput を行っているの だということを再確認する必要があります。

3)Sir William Osler の言葉に“The value of experience is not in seeing much but seeing wisely.” という一節があります。経験の 価値は数が多ければよいということではない。 1 つ1 つをより広く、そしてより深く経験する ことであるということでしょう。私もそうでし たが、若いうちは、多くの症例を経験し、多く の手技を早く経験したいと思うものです。多く の経験から学ぶことは大事です。ただ、数をこ なしているからといって必ずしも身になるとい うものでありません。例えば同じ肺炎の症例で も、背景が異なり、聴診所見が異なり、重症度 が異なり、その都度新しいことを学ぶチャンス はあります。1 つ1 つの症例から今度は何を学 ぶかを意識しながら診療にあたる必要がありま す。同じような経験をただ繰り返すのではな く、視野を広くして賢く経験を積むことで臨床 能力がアップすることにつながるのです。

研修医の皆さんには、自らの目標を立て、 日々振り返り、output を意識した診療の中で賢 く経験を積み重ねて臨床能力を高めながら充実 した研修生活を送り、気がつけば自分の理想の 医師像に近付いている。そういう風になっても らいたいものです。