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沖縄県立北部病院長 大城 清 先生

大城清先生
P R O F I L E
沖縄県糸満市生まれ
学生時代は大学闘争まっただ中、授業はほとんどなし、ラグビーの練習に行くほうが多かった。
泌尿器科(Uro)実験室をウロウロしながらマウスの膀胱がん発ガン実験をお手伝い。
昭和48 年9 月京大医学部卒業、上記の縁で泌尿器科教室に入局。
倉敷中央病院などの勤務を経て、昭和57 年1 月帰郷、県立那覇病院勤務
平成18 年4 月県立南部医療センター・こども医療センター勤務
平成21 年4 月1 日付で沖縄県立北部病院着任
所属学会
日本泌尿器科学会 専門医、評議委員、保険委員
日本性機能学会
日本EE 学会
日本緩和医療学会 代議員
日本ホスピス・在宅ケア研究会 理事
日本医療情報学会 医療情報技師
総合診療学会
その他(腎がん研究会、医療事故・紛争対応研究会など)

急性期病院から在宅ケアま での地域医療ネットワーク を構築しましょう



Q1.この度は、沖縄県立北部病院長にご就任 おめでとうございます。院長に就任されて のご感想と今後の抱負をお聞かせいただけ ますでしょうか。また、貴院は、救急医 療・小児医療・重症患者の受け入れや北部 医療圏の拠点病院機能として第二種感染症 指定医療機関、へき地医療拠点病院、地域 災害医療センター等、多岐にわたる大きな 役割を担っておられますが、現状の問題点 や今後の課題等がありましたらお聞かせ下 さい。

ありがとうございます。

着任早々、北部医療圏の市町村役場を訪問さ せていただきました。一日では、すべての首長 さんにご挨拶できませんでした。中南部に比べ 緑濃く山紫水明の地であることは、予想通りで した。一方、表現は悪いですが、いわゆる「限 界集落」の影が美しい風景に、忍び寄ってきて いるのではとの思いも浮かびました。

帰院して、沖縄本島の地図で確認してみます と、北部医療圏は、その面積の半分近くを占め ています。その広さをあらためて認識させられ ました。

人口10 万強、65 歳以上の方の割合は、名護 市19.9 %を除いて軒並み20 数%、老年化指数 は、県全体の86.1 %を大きく上回り115 %強。 このような北部医療圏にあって、急性期病院は 2 施設のみ。人口10 万対医師数は、全国平均 に近い沖縄県の216.7 人に対し178.6 人、一 方、人口1 0 万対病床数は、沖縄県の平均 1451.7 に対し2191.3(北部地区保健医療計画 より)。この数字から見えてくるものは、ゴールが近い方、したがって急変も多い方々をたく さん診る必要があること、在宅診療・ケアが進 んでいないことなどが見えてきます。

県立北部病院は、救急医療・小児医療・重症 患者の受け入れや、第二種感染症指定医療機 関、僻地医療拠点病院、地域災害医療センター などいくつかの重要な任務を担っています。そ の任務を果たすためには、人的・時間的余裕が 必要です。それを生み出すためには地域連携が 特に重要と考えています。長期入院患者を慢性 期の施設なり在宅医療・ケアに導かない限り、 新たな救急患者さんを入院させることはできま せん。外来患者さんについても、地域の先生方 に逆紹介しない限り、昼食抜きになるほど外来 業務に追われ疲労が蓄積し、先述の役割を全う することはできません。全国平均に比べて数少 ない医師が協力・連携しあい役割分担し、他の 職種、看護師、薬剤師、ヘルパーまた地域住 民・ボランティアが一体となって北部地区の住 民の健康を守る必要があると考えます。

赴任して約三ヶ月、当院の問題点として、目 に付くのは、職員の疲労感。とりわけ、内科・ 耳鼻科の医師や看護師や薬剤師さんたちの疲れ た雰囲気。つてを頼りにあるいは知り合いの教 授に、医師の応援お願いしても大学自体も人手 不足で良い返事はいただけません。他施設で 7:1 看護を経験してきた看護師さんは、当院の 忙しさにあきれてやめていきます。もう少し手 を尽くせねばと考えています。皆様に良いアイ デアがあればご教示を。

人手を増やす以外にも、内部的には5S や TQM を用いてビジネスプロセスリエンジニア リングを図り、業務の効率化・スリム化を実施 し負担軽減を実現します。研修医や看護師だけ でなく、職員、地域住民、地域の医療機関にと ってマグネットホスピタルたらんことを目指し ます。

Q2.貴院は、産婦人科を再開したとお聞きし ておりますが、救急については24 時間救急 が休止ということで、まだまだ医師確保に 苦慮されているかと存じます。現状と今後 の見通し等についてご意見をお聞かせくだ さい。

残念ながら見通しは立っていません。

奇しくも、全国自治体病院協議会雑誌6 月号 に、大阪の「泉州地域での産婦人科集約のとり くみ」という論文を読みました。その中に、労 働基準法に抵触しないようにするためには、ひ とつの分娩ユニットを維持するのに8 名が必要 であるとの木村正大阪大学産婦人科教授の試算 の下に、また、地域医療崩壊が進行し公立病院 の泉州地域の産婦人科機能が失われていく中、 負担が重くなってきた市立泉佐野病院と市立貝 塚病院が集約化を図った事例が紹介されていま す。すなわち、市立泉佐野病院に「泉州広域母 子医療センター」として「周産期センター・産 科医療センター」を、市立貝塚病院に「婦人科 医療センター」、「生殖医療センター」を設置、 運営に当たっては、産科施設や病院を持たない 周辺自治体から共同費用負担を受けて、人的資 源を流動的に再配分できるようにしたようで す。背景人口50 万余、泉州地域と北部医療圏 を同一として論ずることはできないでしょう が、事は、もはや一病院・病院事業局の問題で はないようにおもいます。地域住民・行政一体 なって考えるべきでしょう。住民側にも、ハイ リスク分娩を避けるために定期妊婦検診の重要 性を認識していただく必要があるのではと考え ます。

ついでに言わせていただければ、先般話題に なりました都立B 病院がらみの妊婦死亡事故 は、産科の医師だけで周産期をカバーできるも のではないことを物語っています。他科の充実、 とりわけ内科や小児科の充実も求められるので はないでしょうか。もちろん、他の要素、特に 標準化を含めた情報のやり取りの仕組みに改善 が求められるのではないかと考えています。

Q3.県医師会に対するご意見、ご要望等がご ざいましたらお聞かせ下さい。

在宅医療を含めた地域連携のいっそうの推進、できれば、IT 利用のシステム作りの推進 を、その際、標準化も忘れずに。

男女共同参画時代に、今後も増えてくること が予想される女性医師の働きやすい環境整備に なおいっそうのご尽力をお願いしたい。

Q4.最後に日頃の健康法、ご趣味、座右の銘 等がございましたらお聞かせください。

基本的に無芸大食。学生時代はラグビー、卒 業後はほとんどゼロ。二年ほど前に短期間の入 院を経験して以来、メタボ対策のため最低一万 歩を課していましたが、名護に赴任して歩く距 離が減りました。バス通勤でバス停まで1 キロ (往復2 キロ)しか歩行していません。6,000 歩 に減っています。その代わりに、6 回まで階段 を利用しています。それでも不足気味で、メタ ボ復活が心配です。梅雨が明けましたら、自転 車通勤を予定します。趣味は、月並みですが読 書。若いころは、純文学(特にロシア文学)、 SF、推理小説、ドキュメンタリーなどジャン ルを問わず濫読。最近は、句集か闘病記かビジ ネス書。

座右の銘にふさわしいかどうか、診療に当た っては、compassion を意識しています。同じ く共感と訳されるsympathy との違いを、オー ストラリアのグリーフケアの大家に質問したこ とがあります。前者には with you の意味が あるとの答えでした。その時、思い浮かんだの は、大先輩日野原先生の作品で紹介されていま したマザーテレサの「もっとも悲惨なことは、 飢餓でも病気でもない。自分が誰からもかえり みられないと感じること(訳者によって微妙な 違いがあります。大城注)」、緩和医療を勉強し 始めのころから意識していました。

この度は、インタビューへご回答いただき、 誠にありがとうございました。

インタビューアー:広報委員 石川清和