沖縄県立南部医療センター・こども医療センター血液内科
大城 一郁
小児科ではITP や急性ウイルス感染がおも になりますが、成人ではITP をはじめ種々の原 因が考えられます。ここでは主に外来で初めて 血小板減少を認めた成人患者を対象とします。
(1)血小板減少?......まずは確認を!
採血時に血液が凝集してしまい見かけ上血小 板数が減少するという事があります。無症状で 血小板数が7.5 〜 10 万程なら1 〜 2 週間後に再 検としてよいかも知れません。また“偽性血小 板減少症”も念頭におきたいものです。抗凝固 剤により試験官内で血小板が凝集してしまい実 際よりも少ない値を示す疾患(?)です。この 場合通常の(EDTA 試薬入りの)CBC 容器で なく、へパリンやクエン酸Na、硫酸Mg などを 抗凝固剤として採血し直すと正確な値を示す事 があります。また実際に塗抹標本を作製し血小 板凝集塊を確認するのも重要です。白血病、骨 髄異形成症候群のほか、下記のDIC やTTP に おける破砕赤血球、Bernard-Soulier 症候群に おける巨大血小板など、診断に重要な所見を得 ることができるからです。
(2)血小板減少の症状;
血小板減少による出血症状は紫斑(点状出血 及び斑状出血)が主で、歯肉出血、鼻出血、下 血、血尿、月経過多などが見られます。点状出 血は四肢や、ベルト部位などの圧のかかる所に 出現する傾向があります。関節内出血や筋肉内 出血は通常みられません。血小板数と症状の関 係は、患者の年齢や基礎疾患によって異なり一 概には言えないのですが、血小板数のみが問題 のときには、血小板数5 万以上なら殆ど無症状 とされています。血小板数3 〜 5 万の間ならあ る程度の外傷でもほとんど紫斑は見られない。 1 〜 3 万ではより広範囲の外傷に伴って過剰な 出血がおこる可能性があります。血小板数が1 万以下になれば打撲など誘因なく青あざや点状 出血がみられるようになり、更に5 千以下とな ると脳出血などの危険な自然出血を来しうると されています。
(3)機序から見た血小板減少の原因;
1)産生の低下(小型血小板、腫瘍細胞やleukoerythoblastosis の出現、白血球数低下、貧 血、大赤血球などの出現);白血病、再生不 良性貧血、一部の発作性夜間血色素尿症、巨 赤芽球性貧血(ビタミンB12 欠乏や葉酸欠乏 など)、アルコール性、HIV 関連、一部の特 発性(免疫性)血小板減少性紫斑病(ITP)、 一部の骨髄異形成症候群(MDS)、一部の感 染症、無巨核球性血小板減少症、TAR 症候 群などの先天性疾患
2)破壊または利用の亢進(有意な出血症状のな い時の大型血小板の存在では破壊亢進が示唆 される); ITP、HIV 関連、薬剤性、輸血 後紫斑病、血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP)-溶血尿毒症症候群(HUS)、播種性 血管内凝固症候群(DIC)、成人呼吸急迫症 候群(ARDS)、血管腫、一部の感染症、新 生児同種免疫性血小板減少症、HELLP 症候 群、産科合併症/転移性悪性疾患などによる 血管内凝固状態、巨大血管腫
3)脾臓による補足;うっ血性巨脾を伴う肝硬変、慢性肝疾患
4)希釈による;大量の血液置換または交換輸 血、心肺バイパス術
(4)血小板減少症原因精査へのアプローチ;
血小板減少のみで無症状のときは、薬剤性、 妊娠によるもの、HCV ・HIV 感染などが否定 され、末梢血液像が問題ないときにITP を考 えることになります。ほかに全身性エリテマト ーデスや抗りん脂質抗体症候群の初期も考えら れ、抗核抗体や抗りん脂質抗体の測定が必要と なります。門脈圧亢進症を伴う慢性肝疾患やう っ血性脾腫でも血小板のみの低下を認める事が あります。これらでは脾腫が触知されるのが特 徴的で血小板数は5 〜 10 万の間にあるのがふ つうです。他の原因としてはMDS や先天性血 小板減少症(von Willebrand 病、Bernard- Soulier 症候群、Wiskott-Aldrich 症候群、他 複数の疾患)もあります。後者は長期に及ぶ無 症状の血小板減少や家族歴が参考となり、末梢 血液で赤血球程の大きさの巨大血小板の存在が 重要な所見となります。その他、妊娠臨月の女 性の5 %にみられる妊娠血小板減少症というの もあります。またHIV 感染者の10 %程が血小 板減少が初期所見となるとされています。相当 量のアルコール消費はアルコール誘発性血小板 減少症を暗示します。
一般に出血症状があり血小板減少単独では、 全身症状や他の血球系に問題が無ければ薬剤に よるものかITP が考えられます。時に急性の重 度の出血傾向のある血小板減少を見るときは必 ず薬剤性も鑑別に入ります。再発性の急性の血 小板減少を見るときは薬剤性が十分考えられま す。被疑薬を中止して速やかに血小板が回復し ないときにはITP を考えてみたいものです。
(5)薬剤による血小板減少;
原因としてへパリン、バルプロ酸、金製剤、 キニン・キニジン、ST 合剤、interferon、生 ワクチンなどが一般的にあげられますが、その 他にも多くの薬剤が血小板減少をきたしえま す。市販薬やsupplement、ソフトドリンク等 も含め過去1 ヶ月以内で開始された薬剤を全て 調べていきます。通常原因となる薬剤が初めて の場合は開始後7 日〜 2 週間後に出血症状がで やすいが、薬剤によっては短期間にあわられる 場合、逆に数ヶ月数年後に現れる場合もありま す。再投与の場合は数時間から5 日以内に発症 しやすいとされています。通常当該薬の中止後 1 週間以内に血小板数は正常化します(金製剤 などは例外)。アプローチ法として米国では、 被疑薬を単剤、或いは他の薬剤と同時に中止し その後の血小板数の持続的完全回復を確認、 次いで他剤を再投与しても血小板減少を認めな い、などを確認しつつ最終的に被疑薬が血小板 減少の原因であると判断していくとしていま す。治療は当該薬の中止が原則ですが、状況に よっては副腎皮質ホルモン、グロブリン大量投 与、血小板輸血などを要する事があるかもしれ ません。http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f17.pdf、 http://www.info.pmda.go.jp/index.html, http://www.ouhsc.edu/platelets 等のwebsite も参考になります。
(6)特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病 (ITP);
血小板・抗体結合体が貪食もしくは破壊され る事により血小板減少をきたすものです。急性 型は14 歳未満の患者でウイルス感染後数週間 以内に発症する事が多く、殆どが半年以内に回 復するとされています。一方慢性型は20 歳か ら45 歳の発症が多く長期に及ぶ傾向がありま す。診断には薬剤/放射線障害や感染症、再生 不良性貧血、骨髄異形成症候群、発作性夜間ヘ モグロビン尿症、SLE、甲状腺機能障害、白 血病、リンパ腫、骨髄癌腫症、DIC, 脾機能亢 進症、巨赤芽球性貧血、敗血症、結核症、サル コイドーシス、血管腫、などの疾患がないこと が前提となります。診断のためのgold standard はなく、あくまで他疾患の除外診断とな ります。因みに米国では当初ITP と診断された患者の3 〜 15 %が後にSLE へ移行するとさ れています。ITP の場合は発熱や他の重篤な全 身状態の悪化がない限り血小板数1 万以上で重 大な出血は稀で、6 万以上あれば外傷後でもい かなる出血も一般には認められない、とされて います。それゆえ治療は、出血している、ない しそのrisk のある中程度〜重度の血小板減少 患者に、必要な時期だけ行うというのが原則と なります。血小板数3 〜 5 万から治療が開始さ れるのが多い様です。その他intervention 手技 や開腹術には通常血小板数は5 万以上あればよ く、分娩や抜歯などでは血小板数は(3 〜)5 万で十分とされています。治療の第一選択はス テロイド療法ですが、本邦ではピロリ菌陽性の 場合は除菌療法を優先してもよいかも知れませ ん。通常プレドニン量で1 〜 0.5mg/kg から開 始し、3 週間で効果判定できるとされ、時間を かけて漸減していきます。概ね2/3 の症例に反 応は認めるのですが、長期的な効果があるのは 2 〜 3 割とされています。ステロイド療法が無 効の場合脾臓摘出という事になります。それで も無反応の場合、各種免疫抑制剤や、VtC 大 量療法、Danazol、Vincristine 緩徐静注療法、 ダプソン投与、脾照射などがありますが、何れ も確立された治療法ではありません。重篤な臓 器出血は60 歳以上の患者は年間1.3 %に、40 歳以下では0.4 %程に認められていますが、そ のような場合、緊急避難的に血小板輸血や大量 グロブリン投与、mPSL のPulse 療法などで対 処します。長期の集計では致死的出血は一生を 通して1 %以下と考えられています(頭蓋内出 血死0.2 %)。
(7)専門医に紹介するタイミングは?
白血病など造血障害によるものが考えられる (白血球数や赤血球、Hb なども低下、LDH 高 値など)なら、血小板数が5 万程でも早急な精 査加療を要します。一方ITP のようにある程 度血小板産生が保たれているような疾患であれ ば、ゆっくりみてもよいと思われます。白血 球、赤血球系統などにさしたる異常がないな ら、膠原病やほかの免疫疾患の検査も進めてい く事となります。病歴、身体所見で、膠原病や 感染症、薬剤が考えるのが重要です。一方専門 医へのコンサルトを数字として考えると、血小 板数が5 万以下なら早目のコンサルトが望まし いし、早急に血小板数が低下していったり、出 血症状(特に口腔粘膜などの粘膜出血)が認め られた時はすみやかな専門医紹介が望ましいと 思われます。
最後に注意点として…(心筋梗塞予防などで 使用する場合は別として) アスピリンや NSAIDs の使用は血小板数5 万以下では避ける のが望ましいです。市販薬も同様です。また H2 ブロッカーなどの血小板減少を惹起しうる 薬剤の使用も慎重にしたいものです。
参考文献;
1)UpToData;Clinical manifestations and diagnosis of
immune(idiopathic) thrombocytopenic purpura in
adults
2)UpToData;Approach to the adult patient with
thrombocytopenia
3)UpToData;Evaluation and management of
thrombocytopenia by primary care physicians
4)マーシャルA.リクトマン編、奈良信雄訳:ウイリア
ムズ 血液学マニュアル、メディカルサイエンスイ
ンターナショナル、2003.
5)小澤敬也・垣田洋一編:血液内科マニュアル、株式会
社日本医学館発行, 2004.
6)Marchall.A.Lichtman; Williams hematology, 7th ed.
2006, pp1749-1771
7)「特発性血小板減少症」、難病情報センター、2008,
http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/077_i.htm
8)「重篤副作用疾患別マニュアル血小板減少症」、厚生
労働省、2007,
http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f17.pdf