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糖尿病のABCD

島袋毅

医療法人紺碧会 みなみしまクリニック
院長 島袋 毅

診療で一番時間を割くもの:ガン検診のすすめ。

日本人の死因の第一位は悪性腫瘍であり、 医師の注意も癌の早期発見に注がれている。図 1 は当クリニック開院後2 年2 ヶ月までのイベ ントの発生を示したものであるが、やはり癌は 多い。身体症状なく検査でDetect された方が おおい。患者さんには、人間ドック、住民検診 を毎年受けるよう勧めている毎日で、「検診お 勧め医」と化している。頻繁に癌の話をすると 煙たがられるが、患者さんのためお話してい る。スタッフも問診時にうまく検診受診を促し ている。

図1 当院DM患者でのAMI・脳梗塞・癌の発現数(26ヶ月)

図1

当クリニックにおける心筋梗塞、脳梗塞の発症 率(1,000 人・年)

当院通院中の糖尿病患者さんはおよそ470 名 ほどであることから、図1 は丁度、1,000 人・ 年に書き換えることができる。軽症の方がほと んどであったが、1,000 人につき、年間5 名が 心筋梗塞を発症し、7 名が脳梗塞を発症した事 となる。糖尿病患者さんのイベントを調査した 久山町研究、JDCS に似たような結果であっ た。糖尿病患者さんのイベントを少しでも減ら す努力が大事である。当院では積極的に循環器 への紹介を行っている。2 年間に、待機的PCI を23 名のかたに受けていただいた。心筋梗塞 を未然に防いだと考えている。(図2)

図2 糖尿病患者におけるイベント発症
-久山町研究、JDCS、当院:(千人・年)-

図2

糖尿病のABCD

南部糖尿病ネットワーク(NDN)(代表世話 人:田仲秀明先生)では増加する糖尿病の大血 管イベントを少しでも減らすことを目的に、 2003 年から「糖尿病のABCD」を管理目標に 掲げ治療をおこなっている(図3)。前勤務地の 豊見城中央病院で糖尿病患者さん591 名を調査したところ(※)、HbA1c7 %未満は46 %、血 圧130/80 未満は30 %、総コレステロール180 未満は25 %、タバコ0 本は82 %という達成率 であった。(図4)。項目の達成個数を見ると4 個5 %、3 個26 %、2 個36 %、1 個27 %、0 個5 %であった(図5)。きちんと調査してみる と、BP、TC のコントロールが不十分で、すべ ての項目を満たしているひとはわずか5 %であ るというショキングな結果であった。

図3 糖尿病のABCD

図3

図4 糖尿病のABCD達成率(N-591)

図4

図5.ABCDの目標達成個数(N=591)

図5

ABCD と心血管イベント

調査開始後約5 ヶ月間にこの集団で脳梗塞 (TIA を含む)、心筋梗塞の発症を調べた。脳梗 塞は4 名で、心筋梗塞は1 名、計5 例の発症が あった。図6 に示すように、ABCD の達成度の 低いグループからの発症がおおい。これによ り、各パラメーターの治療目標をクリアするよ うに努力したグループが心血管疾患発症を半減 させたというSteno 2 スタディ同様、糖尿病で は血糖の管理のみならず、血圧、コレステロー ル、タバコの管理等、複合的に介入することが重要であることが示された。

図6.達成個数別イベント発症率(N=591)

図6

ABCD は介入により改善するか。(2 回連続で 調査できた383 名で検討)

約半年後にABCD の2 回目の調査を行った。 この半年間に、院内にABCD ポスターの掲示、 診察時にABCD カードに達成した項目を丸印 で患者さんに示すなど、スタッフは啓蒙に力を 入れた。また薬剤の投与も積極的におこなっ た。その結果、特に、血圧、TC は、薬剤投与、 スタッフ、患者さんの努力により改善しやすい (しかも短期間で)ことが示された。(図7)

図7 ABCD各目標値の達成頻度(N=383)

図7

糖尿病の管理において、ABCD は簡便でわ かりやすく有効である。もちろん、急激なコン トロールはいけないし、患者さん個々にあった 目標値設定(変更)が必要な場合はある。

(※)共同研究者
 田仲医院:田仲秀明先生
 うえず内科クリニック:上江洲良尚先生
 豊見城中央病院:新崎修先生