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「愛の血液助け合い運動」月間
(7/1 〜 7/31)に因んで

大城一郁

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター血液腫瘍科部長
大城 一郁

例年このコーナーは赤十字血液センター所長 が受け持っていると思いますが、今回は小生の 方に執筆の依頼が舞い込んできました。旧県立 那覇病院で前任の宮国先生から輸血療法委員会 委員長の役職を受け継いで以来、今日に至るま で委員長を務めてきております。今回は当院に おける「血液製剤の使われ方」の現状を通して、 血液製剤の適正使用の重要性を考えていきたい と思います。

当院はご存知のとおり成人系、小児系とも、 殆ど全ての科を有する総合多機能病院です。輸 血療法からいえば、待機的手術や、再生不良性 貧血など血液疾患に対する輸血、抗がん剤によ る骨髄抑制などに対する輸血、救急外来に搬送 されてくる吐下血、劇症肝炎に対する血漿交換 など、実に様々な輸血が日常的に行われていま す。特に解離性大動脈瘤の手術における大量出 血や、心破裂、外傷による大血管損傷、前置胎 盤妊娠に伴う出血などでは、それこそ生死を分 ける程の大量の持続的出血がみられ、一度に数 十単位もの血液製剤が使用される事もありま す。或いは稀血の前置胎盤妊娠を満期まで継続 させるために、因子指定血を大量に常備確保し ておく事もありました。これらのため血液製剤 の使用量が多く、大学病院、県立中部病院に次 いで県内で三番目の使用病院となっています (H20 年度血液製剤使用量は当院は総計25,284 単位となっています。因みに県全体では 192,827 単位であり、全国では総計16,730,712 単位となっています)。

実際の診療を行っていると、しばしば必要と する血液製剤が県内に全くない、と言う事態に 遭遇します。特に採血後期限の短い濃厚血小板 が問題となります。輸血が1 〜 2 日、せめて数 時間待てる状態ならよいのですが、上記の様に 一刻も争うような緊急事態では患者の生死に直 結する事となります。“血液製剤が無いがため に、救命できたかも知れない命が救えなかっ た”という事態だけは避けるようにしたいと思 っています。それ以外にも時に赤血球製剤でも 58 番以外の製剤を見かけることがあります…。 県外からの製剤です。血小板製剤にせよ、赤血 球製剤にせよ、単に医療費の問題だけではな い、血液製剤が大切な資源であるという事を痛 感させられます。H20 年4 月〜 8 月までの県外 の血液センターからの全血液製剤の供給比率は 4.1 %となっています。これらの背景には少子 高齢化社会の問題がある訳であり、2007 年度 の東京都の年代別輸血状況調査によりますと、 輸血用血液製剤の約85 %は50 歳以上の患者に 使用されています。一方献血者の内訳は約 80 %が50 歳未満(その内の29.6 %が16 〜 29 歳)と、健康な若い世代が高齢者医療の多くを 支えている現状があるとされています(2007 年全国集計)。少子高齢化が進むにつれ、現在 の献血者比率がこのまま推移していくと、救命 医療に重大な支障をきたす恐れがある、とされ ています。

日本赤十字社によれば、年間を通して血液の 需要はほぼ一定であるのに対し、献血者数には 変動がある、とされています。全国的にみると 特に冬場から春先にかけては、風邪など体調を崩す方が多いことや、学校や企業、団体などの 協力が得られにくくなることから献血者が減少 してしまいます。ゴールデンウイークやお盆、 年末年始などにも一時的に減少しがちです。加 えて今春は、新型インフルエンザの影響で感染 拡大地域での献血数が減少することもありまし た。厚労省からも「新型インフルエンザの国内 発生に係る血液製剤の安定供給確保について」 (平成21 年5 月21 日付け通知)により、献血 受入体制確保と血液センター間での相互融通の 対応、さらに医療機関への血液製剤の適正使用 の要請について関係各機関へ通達がありまし た。幸い当該地での献血数の低下は一過性です んだようですが、今秋、新型インフルエンザの 再来による影響が懸念されます。

上記のように血液製剤の適正使用・安定供給 がますます強く求められるようになってきてい ます。当院では輸血検査室で(コンピューター システムによる)血液製剤の一元管理を行い、 適正な製剤の備蓄及び保管管理を行い、緊急時 にも対応できるよう、また、廃棄血0 を目指し て努力しております。血液製剤の保冷庫は要件 が定められており、要件に合うのは院内では輸 血検査室以外にはICU とOR のみです。それ以 外の部署での使用は、“払いだしたら即使用” となっており、適切な保存条件に合致しない製 剤は“廃棄処分”となります。県民の善意によ る貴重な資源を無駄にしないためにできるだけ 廃棄がないようにしているつもりですが、それ でも時折“廃棄血”が発生します。職員間の連 絡がうまくいかず通常の冷蔵庫で保存されてい たり、一部の手術で術中大量の出血が懸念され るときのための準備血(緊急依頼のため期限の 短い製剤が割り当てられることも)が大量に返 却されたりすることがあります。これがAB 型 のような使用頻度の少ない血液型なら期限切れ で廃棄になる可能性も高くなります。その他、 新鮮凍結血漿については破損の問題がたまに見 受けられます。往々にして多忙であったり、他 にも急な処置を要する状況において、以上のよ うな事が起っているようです。そのような事例 を一つ一つ関係者に直接確認したり、輸血療法 委員会の定例会で検討しあったりして、対応策 を模索し注意を広く喚起し、できるだけ廃棄製 剤を減らすよう努めています。

資源の有効利用= 廃棄血の減少と、他方では 現場が安心して医療行為ができる血液製剤を 確保していくことは、実際にはなかなか難しい ところもあります。しかし今後厳しくなるであ ろう血液製剤の需要供給関係においては、何 とかこの両立をはかっていく必要があると思わ れます。

「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関す る法律」(“血液新法”)に規定されている、よ り安全で適切な輸血療法を目指していけるよ う、更に努力していきたいと思っています。

(付)血液製剤の取り扱い(製剤毎の保管法、 適正使用のガイドラインなど)、その他に関して は、日本赤十字社 九州ブロック赤十字血液セ ンター連盟Home Page(http://www.bc9.org/ index.php)の「血液に関する医薬情報」にわか り易く掲載されています。