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沖縄県立南部医療センター・こども医療センター院長
大久保 和明 先生

大久保和明先生
P R O F I L E
1972 年3月
国立千葉大学医学部卒業
1972 年5月 沖縄県立中部病院卒後臨床研修開始
1975 年6月 同上 終了
1975 年7月 米国メリーランド州South Baltimore
General Hospital にて外科研修開始
1980 年6月 米国外科専門医研修終了
1980 年10月 沖縄県立中部病院外科勤務
1981 年2月 米国外科専門医(American Board of Surgery)取得
1988 年4月 沖縄県立中部病院外科部長
2003 年4月 沖縄県立中部病院医療部長
2006 年4月 沖縄県立北部病院院長
2009 年4月 沖縄県立南部医療センター・こども医療センター院長

御支援、御協力 よろしくお願い 申し上げます。



Q1.県立北部病院長から県立南部医療センタ ー・こども医療センター院長に異動されて3 カ月が過ぎましたが、新天地のご感想と今後 の抱負をお聞かせいただけますでしょうか。

突然の人事でこの4 月から県立南部医療セン ター・こども医療センターの舵取りをすること になりました。私に与えられた使命はこの病院 の経営を再建せよというものでありました。正 直言って、何故、私なのだ。私にそんなことが 出来るのか。私が引き受けて良いのかというの が最初に感じたことでありました。しかし、誰 かがやらなければならないことです。県立病院 の赤字経営が大きな問題になっておりますが、 なかでも南部医療センター・こども医療センタ ーの赤字額が最も大きく、県立病院事業の経営 再建の鍵は、この病院の経営健全化にかかって いるものと認識しております。期待されて任命 されたのならば可能性を求めて出来るところま でやってみよう、というのが今の心境です。

北部病院での3 年間は良い職員に恵まれ、職 員全員の努力のおかげで経営も良い方向に変わ りました。この病院でも出来ないことはないと 腹をくくっております。医療センターには多く の人材がおります。問題は、全ての職員が自分 たちに何が出来るのか、あるいは、自分たちが 何をすべきなのかを、経営意識を持って本気で 考え行動に移すことが出来るか否かだと思いま す。経営再建は私がやるものではありません。 私一人で出きるものでもないのです。私に出来 ることは職員の意識を一つにまとめ、同じ方向 に向けさせることだけだと思っています。何か のきっかけをつかめば、これだけ優秀な人材と 設備の調ったところです。びっくりするような 変化が起こる可能性を秘めているとも考えてお ります。

医療センターはハード面では素晴らしい施設 です。初めて院内を回ったときには迷子になりそうなくらい広い病院です。同じ県立病院であ りながらこんなに差があって良いものかと思うく らい恵まれております。ここで働く職員にはこの 恵まれた環境に甘んずることなく、如何に楽を するかではなく、如何に自分の力を医療内容の 改善と経営改善にむけていくべきかを考える方 向へ意識改革をして欲しいと考えております。

Q2.今、各県立病院では、あり方検討部会の 答申を受けて病院事業局を中心に経営改善 の計画と推進がすすめられているものと思 いますが、規模の大きい貴院では大変なご 苦労があると推察されます。大久保先生が どのような決意で改革に望まれているかお 聞かせいただけますか。

県立病院あり方検討部会で答申をいただき、 経営形態についてもアドバイスをいただきまし た。ただ、現場の我々としては地方公営企業法 の全適下で出来うることを十分やりきっていな いという実感を持っております。もっと何かが 出来るはずだと感じております。そこで、病院 事業局では財政的裏付けのある3 年間の経営再 建計画を立て、副知事、知事に直接お会いして 公的医療の重要性を強調し、県立病院の経営再 建には是非とも政策的判断、政治的判断が必要 であるとお願いするとともに、病院事業局と現 場が一体となって経営再建に立ち向かう意思を 確認したことを訴えてまいりました。紆余曲折 はありましたが最終的には県三役にご理解いた だき、我々の計画に沿った予算が組まれること になりました。その結果、不良債務も平成21 年度には解消されることが確実になりました。

県首脳には大変なご決断をいただきました が、その裏には県民のための公的医療を是非守 れという強い意思表示があるものと真剣に受け 止めております。病院職員にもそのことを十分 理解してもらい経営再建に望みたいと思ってお ります。

確かに県立南部医療センター・こども医療セ ンターは規模が大きく、各診療科・セクション がそれぞれ独立した組織のようで、病院はその 組織の集合体のような感じを赴任当時は受けま した。病院が一つにまとまっていない。それぞ れが自分たちのやりやすいように主張し運営し たがる。そんな風に私の目には映りました。し かし3 カ月が過ぎ、病院は一つの組織であるこ と、全員がまとまって一つの方向に進むことが 経営再建の大前提であることをお話しするうち に、職員の意識は変化してきております。今回 の新型インフルエンザに対する対応なども、病 院全体が一つとなって行動を起こすためには良 い刺激になったと感じております。腹を割って 話し合うこと、一つの大きな目標を示し方向性 を示すことそれが解決に向かうものと信じてお ります。

私は職員にこう話しました。県立病院の経営 再建。これは、216 億の累積赤字、100 億の一 時借入金、38 億の不良債務を抱えた病院事業 を再建しようという大プロジェクトです。NHK の番組ではないけれど、これは壮大な赤字を抱 えた病院群の経営再建をするというプロジェク トX なのだと。物事、プラス思考で考えなけれ ばやっていけません。うまくいったらみんなで 達成感を味わいたい。一緒にうまい酒を飲もう と話しております。

Q3.貴院は南部医療圏の救命救急と小児・周 産期医療の他にも成人医療、高度特殊医療、 離島・へき地医療、卒後臨床研修病院、医 療従事者の教育など多岐にわたる大きな役 割を担っておられますが、現状の問題点や 今後の課題がありましたらお聞かせ下さい。

いろいろご意見があるように、単に病院の経 営黒字化を考えるのであれば、病院の機能をあ る領域に特化しうまくやって行くことは出来る かも知れません。しかし、県立病院は県民の意 向によって設立されているものであり、住民の 意向に沿った運営を求められております。経営 のみに重点を置いた運営や、一律に政策医療の みに範囲を限定することは適当ではないと考え ています。

ご質問にあるように、我々の病院には多岐にわたる役割が期待されております。救命救急医 療をするためにはバックアップとしての内科、 外科、循環器科、脳神経外科、整形外科等の確 固たる存在が必要です。卒後臨床研修、医療従 事者の教育のためには一般診療が必要ですし、 高度特殊医療、政策医療などは一般医療が整っ てこそ成り立つものであります。また、県内に は精神科患者さんの身体合併症を治療する施設 が少なく、当院には関係者から大きな期待が寄 せられております。これら多くの期待にどこま で応えられるのか、職員には相当の負担がかか っているのが現状です。この負担に耐えきれ ず、さまざまな原因で労働喪失が起きておりま す。私がこの病院に来て1 週間も経たないうち に気がついたこと、この病院で一番に解決しな ければならないことは、看護師の流出を如何に 防止するかということでありました。

これだけ多くの使命を持った病院です。楽な 仕事だけをしたいという人にはもともと向かな い病院です。しかし、やる気のある人、目的を 持った人にはとても向いている病院でありま す。そのやる気、目標を途中でなくさないよう に、やり甲斐のある居心地のいい職場にしてゆ かなければならないと思っています。十分な看 護師がいないために病棟を休床せざるを得ない ような状況が本院の最大の問題であると考えて おります。7 : 1 体制にしなければ看護師は残 らないということで、病院事業局はいま、真剣 に体制作りを始めました。近い将来、必ず良い 結果が生まれることを信じております。全ての 病床を有効に活用できればどれだけの仕事が出 来るか。どれだけ経営的にも良い結果を生むこ とが出来るか。4 月以来看護師確保にむけた環 境つくりに力を入れているところです。

Q4.県医師会に対するご要望等がございまし たらお聞かせ下さい。

当院の救急室には多くの小児科患者さんがや ってきます。その中で入院が必要になる患者さ んの割合が、他の県立病院に比較して少ないこ とが分かっております。つまり、救急室では軽 症の小児患者さんの割合が多いということであ ります。夜間診療所的な利用、コンビニ受診の 問題であります。救急医、小児科医の負担が大 きく、重症患者の診療にも影響が出かねない状 況です。我々病院側から住民に対する啓蒙をし ていかなければならないと思いますが、医師会 の先生方にも少し診療時間を長くする日を設定 していただくなどして当院の負担を軽減してい ただければ幸いです。

こども医療センターということで多くの重症 患者さんの受け入れを行っておりますが、しば しば病棟がいっぱいで収容できず、患者さんの 状況によっては周囲の病院へ入院をお願いして おります。突然の連絡にも関わらず、快くお引 き受けいただいていることに感謝申し上げます。

ご存知のように当院は急性期病院です。看護 師不足で病棟を休床せざるを得ない状況のな か、長期入院患者さんの療養型病院、リハビリ 病院への転院を促進しなければ救急患者、重症 患者の治療に支障を来しかねない状況です。地 域連携室を通してご相談をさせていただきたい と思いますので、患者さんの受け入れと、どの ような条件であれば受け入れ出来るのかなど具 体的な情報交換をお願いしたいと思います。

南部医療センター・こども医療センターの赤 字経営については、全ての責任が現場職員にあ るとは考えておりません。県立南部医療センタ ー・こども医療センターは、県民の要望・意志 で出来た病院でもあります。NICU, GCU, PICU, MFICU など多くの職員配置が必要な小 児・新生児医療という政策医療・不採算医療を 本格的に行うということで、また、多額の減価 償却費が発生するということで、はじめから赤 字になることを予想されていた病院です。県や 県民が負担すべきものもあるはずだと思ってお ります。このことは、病院で働いている職員の ためにもはっきりと主張していきたいと思って います。そこを理解した上で、我々が経営再建 に向かって出来うる限りの努力をするところを 暖かく見守っていただきたいと考えております。

県医師会には当院の運営に関してこれからいろいろご理解と御協力をいただくことになるか と思います。当センターといたしましても、地 域の基幹病院として皆様のお役に立つ病院であ りたいと思っておりますので、今後ともよろし くお願い申し上げます。

Q5.大変ご多忙の身でありますが、日頃の健 康法等がございましたらお聞かせ下さい。

3 年前に県立北部病院の管理者として赴任 後、3 カ月も経たないうちに5Kg の体重増加を みてしまいました。それまでは現役の外科医と して一日中手術場で立ち仕事をしており、昼食 を抜くこともしばしばでございました。院長職 になってからは会議やら要人・訪問者への対 応、書類の確認と押印等々、デスクワークが主 となり、嫌が上にも体重は増加。若いうちから 家系的に高血圧がありましたが、コレステロー ルも上昇、食後血糖も高くなってしまうという ことで、あっと言う間にメタボリック症候群の 仲間入りを果たしてしまいました。恰幅が良く なり見た目の上だけでは院長としての貫禄はあ りそうに見えますが、やはり体を動かさなけれ ばいけないと反省。当時はやっていた「ビリー のブートキャンプ」のDVD を手に入れ、テレ ビの前で人には見せられない格好で運動を始め ました。かなりきつい運動で、汗びっしょりと なり、最後までついてゆくのも難しく思われま したが、何とか食らいついてゆくうちに昔バレ ーボールで鍛えた体、そのうち筋肉も付きはじ め、顎の下の脂肪も減少、継続できるようにな ってまいりました。5Kg 増加した体重のうち 3Kg 減量に成功。現在まで続けております。と ころが世の中スムーズにいかないもの。昨年の 8 月、この激しい運動を継続しているのに加え て、炎天下に自宅の庭の雑草取りをして汗びっ しょり。脱水をおこし、その結果が下壁心筋梗 塞。出勤準備中の早朝、典型的な症状で発症。 県立中部病院救急室受診し、あっと言う間に心 カテ室へ。入室後10 分もしないうちにカテは 心臓に。詰まった塞栓を除去していただき全く 後遺症なく快復いたしました。冠動脈に狭窄は なく、高血圧により少々ectatic になった右冠 動脈内に脱水で血栓ができ、末梢に飛んで梗塞 をおこしたとのこと。県立病院救急室の迅速な 診断、対応に感心するとともに、救急室で診て くれた研修医をはじめ関係した皆さんにこの場 を借りて、あらためて感謝を致します。

やはり還暦を過ぎてからの無理はいけませ ん。現在の健康法ですが、一カ月ほどの静養の 後、また運動を再開しております。食事制限と 年相応の無理のない運動、そして出来れば十分 な睡眠でしょうか。若かりし研修医の頃に身に つけた、時間があればどこでもいつでも眠れる という特技のせいか、夜眠れないということは 全くありません。また、嫌なことはすぐ忘れ る。一度寝て起きた時には忘れているというの も、精神的な健康法でしょうか。

これからも、県民のための公的医療を守り、 歴史ある県立病院の存続、経営再建のために微 力ではありますが頑張りたいと決意しておりま すので、今後とも皆様の御協力をよろしくお願 い申し上げます。

この度は、インタビューへご回答いただき、 誠にありがとうございました。

インタビューアー:広報委員 照屋勉