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突き指

名護宏泰

沖縄協同病院整形外科
名護 宏泰

はじめに

広辞苑には突き指は次のように書かれていま す。「外力によって指先を突かれたために起こ る症状。指先と付近の関節の腫脹・疼痛・運動 障害を伴う。」

多くの方がこれまでに突き指の経験をされた ことと思います。小学校から大学までバスケッ トボール部に所属していた私も、突き指を何度 となく経験した一人です。しかし、恥ずかしな がら突き指をして一度も病院へ行ったことはあ りませんでした。

このように、突き指は軽症と考えられがちで すが、実は様々な病態が潜んでいます。

病態

1)捻挫

関節周囲の靭帯や関節包の損傷・炎症のみ であり、患部の固定・安静で軽快します。

1)靭帯断裂・裂離骨折

強い外力が加わった場合は靭帯が切れた り、靭帯の付着部で裂離骨折を起こすことが あります。

この場合は、副木固定が必要であり、手術 が必要になることもあります。

2)脱臼

靭帯や関節掌側の軟骨が切れると脱臼する ことがあります。

この場合は、脱臼の整復および固定が必 要になります。手術が必要になることもあり ます。

4)腱断裂

突き指に伴う腱断裂で最も多い腱断裂はDIP 関節での伸筋腱断裂で、DIP が屈曲したまま伸 展できない『槌指』の状態になります。この場 合はDIP 伸展位での固定が必要になります。

また、伸筋腱の末節骨付着部で裂離骨折を起 こしても腱断裂同様に『槌指』を呈します。

この場合は、手術が必要になることも少なく ありません。

5)骨折

先に述べた靭帯付着部の裂離骨折・伸筋腱 付着部の裂離骨折も骨折に分類されますが、突 き指で最もよく遭遇する 骨折はPIP 関節での中 節骨近位端掌側の骨折 です。

当院の救急外来は整形 外科以外の医師が突き指 の初療に当たることも多 く、その中で見逃され易 い骨折の一つです。

今回、この最も見逃され易い骨折について、注意点を述べたいと思い ます。

診察

当然のことですが、正しい診断を行うために は、画像診断の前に細かい診察が大切です。

1)視診:指のどの部位に腫脹があるのか?皮下 出血がないか?

PIP 関節掌側に皮下出血がある場合は上記 の中節骨近位端掌側の骨折を伴っていること が多いです。

2)触診:圧痛がどこにあるのか?関節の不安定 がないか?

関節の横(橈側・尺側)の圧痛が強い場合 は側副靭帯の捻挫・断裂・靭帯付着部の裂離 骨折などを疑う必要があります。

PIP 関節掌側に圧痛が強い場合は上記の中 節骨近位端掌側の裂離骨折を疑う必要があり ます。

画像

レントゲン検査で診断を行うことになります が、この場合にも大事な注意点があります。

それは、正しいレントゲン撮影を行うという ことです。

つまり、正正面像と正側面像を撮影すること が大切なのです。

当院の救急外来でこの骨折を指摘できなかっ た多くの症例は、正しいレントゲン撮影がされ ていませんでした。

その一例を挙げたいと思い ます。

この症例は突き指で当院救 急外来を受診しました。

レントゲンがオーダーされ ましたが、指の2 方向ではな く、手の2 方向で撮影されてい ます。手の2 方向では指は正側 面ではなく斜位になります。

この写真でもよく目を凝ら せば骨折が分かりますが、見逃されても不思議でない写真です。

同じ指を正側面で撮影し直すと、次のような 写真になります。

先ほどの斜位の写真と比べ ると正側面写真の方がよりは っきり骨折を確認できること がお分かりいただけると思い ます。

このように、レントゲンの 方向一つで診断のし易さが全 く違います。突き指の場合は 指の正正面・正側面写真の撮 影が大切であることを肝に銘 じましょう。

処置

これまで述べてきたように、単に「突き指」 といっても色々な病態があります。よって、応 急的処置もその病態によって多少違いがあり ます。

しかし、どの病態であっても患指を安静に保 つことは必要であり、副木などで固定すること が勧められます。

先に述べた槌指の場合はDIP 関節を伸展位 で固定する必要がありますし、中節骨近位掌側 の裂離骨折であればPIP 屈曲位での固定が必 要です。

様々な病態を招く「突き指」です。今回述べ た骨折以外にも、関節の陥没骨折など放置する と痛みや可動域制限などの後遺症を残す骨折も あります。軽症と考えずに応急処置を行った後 は、整形外科を受診させるようにしましょう。

まとめ

○突き指を軽症と考えずに、丁寧に理学所見を とり疼痛の部位を正確に把握しましょう。

○レントゲンの撮影方向が少し違うだけで、裂 離骨折は見えない場合があります。 正正面・正側面写真を撮影しましょう。

○後遺症を残す骨折などもあります。患指を固定 したら、早めに整形外科を受診させましょう。