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クリニックでできるC 型慢性肝炎のインターフェロン療法
〜『肝臓週間(5/18 〜 5/22)』に因んで〜

仲宗根和則

なかそね和内科 仲宗根 和則

【要旨】

ウィルス検診に続いて、国の『肝炎治療費の助 成』も始まり、インターフェロン(IFN)を希望 する患者の増加が見込まれ、たとえ専門外であっ てもIFN 治療後の管理を依頼される場合も想定 される。患者への丁寧な説明は、長くて、つら い、そして高額なIFN 治療の要である。クリニ ックでの患者指導と病診連携の現状についても触 れたい。当内科は肝臓病を専門とする無床のクリ ニックであるので、診療所でできるC 型慢性肝 炎、特に難治例のIFN 治療の要点を述べる。

【はじめに】

我が国では肝癌死が毎年3 万5 千人前後に上 り、その9 割にC 型肝炎ウィルス(HCV)、B 型 肝炎ウィルス(HBV)の持続感染がある。特に HCV は肝細胞癌の80 %で原因ウィルスと推定 されている。IFN 治療の最終目的は、ウィルス を排除して持続感染を断ち切り、肝発癌を防ぐ ことである。IFN 治療でHCV が除去され、治療 完了後6 ヵ月の時点でウィルスが検出されない 状態(これを著効、Sustained Viral Response : SVR という)が臨床的な治癒となる。著効にな ると、10 年後の累積肝発癌率がIFN 非投与群の 8 〜 9 分のT以下に抑制される。しかしIFN 治 療に抵抗する半数の患者や、高齢の患者の急増 が問題となっている。これら難治例で、IFN の 再投与や投与期間を延長することで著効率が向 上し、例え著効が得られない場合でも、肝発癌 率が有意に低下することも明らかになった。 IFN の少量、長期投与は、その延長線上にある が、色々な課題も浮かび上がってきている。

【IFN 治療の前に】

C 型慢性肝炎は自然治癒することがなく、長 期のHCV の持続感染(その間、無症状が多 い。)の終末像の肝硬変になると、高率(年率 8 %)に肝細胞癌を発症する。HCV を排除す るには、IFN 以外の選択肢は今のところない。 以上の説明は、医師と患者間の信頼を築くに際 し、IFN 治療の前に必ず患者と確認しておきた い。基本的な説明の不徹底で医師側が敗訴した 判例(IFN 未実施で肝発癌例)が最近でてい る。IFN の抗ウィルス効果を大きく左右するの がHCV-RNA の遺伝子型とHCV のウィルス量 である。遺伝子型は、塩基配列の差によって Genotype1 型(1a、1b)と2 型(2a、2b)へ 分けられ、又それによって作られる異なる蛋白 質に対する抗体の差によってSero-group1 型 と2 型に分類される。厚生労働省の研究班が作 成したガイドラインにはGenotype が用いられ ているが、保険適応外なので、一般的には保険 に収載され、しかも安価なSero-group で代用 する。本邦ではHCV の大部分(70 %)を占め るGenotype1b 型(本邦では1a 型は稀)は Sero-group1 型にほぼ相当する(表1)。またGenotype1b は高ウィルス量になりやす く、『1b 高ウィルス量』はIFN が効きに くい難治例の代名詞になっている。高ウ ィルス量とは、real-time PCR 法の TaqMan HCV で5Log(IU/ml)以上、 つまり血液1ml 中のHCV 量が10 の5 乗 IU 以上を意味する。対数表示なので2 の 増加はウィルス量が100 倍へ、逆に減少 は100 分の1 に減小したことを説明する。 既存のH C V - R N A 定量法では 100KIU/ml(K は10 の3 乗)以上が高ウ ィルス量となる。IU は厳密には異なる が、ウィルスのコピー数、又はウィルス個数と 簡単に説明している。過去に色々な検査法が登 場したが、低量域と高量域に測定レンジを広げ (15 〜 6.9 × 10 の7 乗IU/mL)、定性と定量の 両方の性格を兼ね備えるreal-time PCR 法に 以後統一される見込みである。HCV コア抗原 は、より安価でIFN 治療後の経過観察や、検 診のスクリーニングに用いられる。前出、核酸 増幅によるHCV-RNA の測定と違い、コア抗 原に対応する蛋白質を測定する系だが、感度も 良く、H C V - R N A の定量とよく相関する。 femto mol/L で表示され、約1,800 femto mol/L 以上が高ウィルス量に相当する。

表1 HCV のウィルス亜型と頻度

表1

【IFN 治療の説明】

眼前のC 型慢性肝炎の患者は、地域の中核病 院からの紹介(著効後の経過観察やIFN 導入 後で継続治療の依頼もある。)、あるいは検診で HCV 抗体(+)とALT(GPT)異常を指摘 されたIFN の初回治療例、又はIFN 無効例や 再燃例で再投与のセカンド・オピニオンを求め て来院した患者など様々であるが、大半が、前 記の如く難治性の『1b 高ウィルス量』の患者 である。逆にそれ以外の型は完治の可能性が 80 〜 90 %と高いので、より一層IFN を勧める べき患者でもある。ガイドラインには「初回治 療」か「再治療」か、又、ウィルス量が「多 い」か「少ない」か、ウィルスの型が「1 型 (1b)」か「2 型(2a,2b)」かによってIFN の種類と期間が設定されている。表2 は当内科で使 用している説明用の図表で、ガイドラインを分 かりやすく改編している。多施設の実績に基づ く著効率(プロトコール通り治療を完遂すれ ば、何処で治療しても、誰が治療しても、ほぼ 同じ著効率に集約される)を前もって告げるこ とが可能である。これは、治療前の見積もり書 に相当する。最近欧米より、IFN 治療中にウィ ルスが消失した時期によって、その時点で著効 率を予測する(ウィルスの消失時期が早い程、 著効率が高くなる)新しい指針が報告されてい る。これは、『Response-guided therapy』と いい、治療途中の比較的早期で著効率や治療期 間をより正確に、修正して患者に知らせること が可能で、治療のモチベーションを維持するの に重宝している。表3 は説明用に簡明に改編し たものである。ウィルス消失の判定を、従来の アンプリコア定性法(検出限界: 50 IU/ml) と、更に検出限界を厳しくしたreal-time PCR法(定量限界: 15 IU/ml、検出限界は10 IU/ml)の、両法で評価した値を参考にしてい る。real-time PCR 法ではウィルス消失の診 断基準がより厳格になり、一旦『検出せず』が 出ると、治療終了後の著効率の予測はより確度 を増す。特に4 週間以内でウィルスが消失 (Rapid Virological Response : RVR)した場 合は勿論のこと、real-timePCR 法では8 週以 内でウィルスが消失しても、限りなく100 %に 近い著効率になると予想して患者を励ますこと ができるのが、この説明表の良い点である。

表2 C 型慢性肝炎に対する初回治療ガイドライン

表2

表3 Response-guidedtherapy
PEGIFNとリバビリン併用療法(1b高ウィルス量)

表2

【IFN の副作用の説明】

IFN 治療直前には、患者の同意を書面で確認 するが、副作用については、否定せず、侮ら ず、恐れず、が肝要である。基本的にIFN は 細胞毒でもあるので、全ての副作用は否定して はならない。しかし肺線維症や脳出血、うつ病 等の重篤な副作用は、慢性肺疾患、高度な高血 圧、糖尿病、精神疾患等の基礎疾患を有する患 者を、最初からエントリーしないことで、かな り避けることができる。血小板数は肝病変の進 行によって低下し、発癌率と逆相関することは 専門医にとっては周知の事実であるが(図1)、 患者は意外とそのことを知らされていない。 IFN 治療による血小板数の一時的な減少とは区 別して説明する必要がある。又治療による血小 板数の回復は、肝組織が治癒に向かう可逆的変 化を反映していると説明して患者を元気づける (図1)。皮膚病変は侮ってはいけない副作用で、 頑固な掻痒はしばしば治療中止の原因となる。難治性の皮膚、粘膜病変は扁平苔癬を疑って、 皮膚科専門医への紹介が必要になる。甲状腺疾 患や眼底出血は必ずしもIFN 中止の適応では ない。患者の副作用に対する恐怖を緩和する為 には投薬の減量や一時中止は躊躇しないこと、 又ガイドラインで決められたIFN 量の80 %、 リバビリンの60 %以上を投薬できれば、ほぼ 遜色ない著効率が得られる事を説明すると高齢 者や初回治療でトラウマを有する再投与例に有 効である。リバビリンは高齢者では貧血による 減量や中止が問題となり、また青、壮年では催 奇形性と精子へ移行するという報告がある為 に、治療中はもとより、治療後も6 ヵ月は避妊 が必要となるので年齢や家族計画を考慮に入れ て治療法を選択する。副作用を早期よりきめ細 かく聴取(看護師と受付からの情報は詳細で具 体的である)して管理するのは、むしろ小さな クリニックならではの利点がある。

図1

図1 血小板数と肝発癌の関係

【IFN 治療の実際と課題】

1b 高ウィルス量の初回治療や再発、再燃例 は難治性で、ペグ-IFN とリバビリンの併用が 原則である。リバビリンは、内服の抗ウィルス 剤で、単独では効果が乏しく、保険でもIFN と の併用投与以外は認められていない。1990 年 代はIFN 単独治療の時代で、1b 高ウィルス量 の難治例の著効率は3 %前後の低率であった が、2004 年、2007 年と相次いで併用療法が認 可され、著効率も40 〜 60 %と飛躍的に向上し ている。しかし、残り半分の難治例や患者の高 齢化に伴う著効率の低下(特に女性)が残され た課題である。患者の高齢化が急速に進んでい るが、(いまや、我が国のHCV 感染者の過半数 は60 歳以上である。)IFN 治療にエントリーす る年齢の上限は75 歳前後が、併用療法は65 歳 までが無難である。65 〜 75 歳では、併用にこ だわらず、IFN の単独投与や少量、長期投与も 現実的選択肢となる。そもそもIFN の再投与が 必要な患者は、肝病変の進展した症例が多く、 赤血球数、白血球数、血小板数が少ない為、 full dose の併用投与が困難である。(併用では血小板数8 万以下でIFN を半分量へ、ヘモ グロビン10g 未満でリバビリンを減量す る。又血小板数5 万以下になるか、あるい はヘモグロビン8.5 g 未満では両剤中止と なる。)以上のような例で、抗癌目的の IFN 単独、少量、長期投与が適応となる。 ガイドラインではα-IFN の300 万単位 (筋注、皮下注)2 〜 3 回/週が推奨されて いる。しかし治療が長期に及ぶ為、コンプ ライアンスの面からは1 週間に1 回の注射 (皮下注)で済むペグ-IFN αは好都合であ る。ペグ-IFN αは現在2 剤が承認されて いるが、2b(ペグイントロン)はリバビリ ンとの併用が原則で、まだ単独投与は保険 で認められていない。一方2a(ペガシス) は単独投与も認可されているが、開発治験 時に重篤な血小板減少例があり(市販後調 査での推定発現率は0.02 %)、IFN 注射直 前に、毎回末梢血を測定しなければならな い(当然院内測定)。ただ、インフルエン ザ症状を含む他の副作用は2b(ペグイン トロン)に比べてややマイルドな印象があ り、当内科では、リバビリンとの併用が困 難な症例に対し常用量180 μ g の2 分の1 〜 8 分の1 量を用いた少量、長期投与を試 みている(表4)。平均17.6 ヵ月の時点で 約7 割の症例でウィルス量が低値を維持し、 38.5 %で、アンプリコア定性法で(−)、realtime PCR 法でもウィルス検出されず(−)が 持続している。図2 に18 例のALT、HCVRNA 量、血小板数の推移を示す。ペガシスは単独投与の場合、血小板数5 万以下で半量へ、 2.5 万以下で中止という基準がある。90 μ g 以 下の少量では、投与基準はないが、血小板減少 も軽度で、投与間隔を延長したり、一時中止等 で調整が容易で、10 万以下の低値例でも安全 に継続できた。一部の高ウィルス量例を除い て、ウィルス量も良くコントロールされている。 図3 は52 歳の男性例。1b 高ウィルス量で15 年 間で延べ6 回のIFN 治療を受けているが、著効 が得られず、抗癌目的のIFN の少量、長期投与 を継続している症例である。ウィルスは著減す るも著効はなかなか得られない。リバビリンの 貧血が「生活の質」を損ない、併用が困難でペ ガシスの少量、単独投与中である。本例は脂肪 肝合併によるALT の上昇が問題で、肝の脂肪 化は、著効率を下げるだけでなく、肝発癌の促進にもつながると最近報告されているので、栄 養面での介入が必要となる。長期投与の現実的 な目標はALT の正常化であるが、真の目的は 肝発癌を抑止する事であるので、当院では定期 的なスクリーニングの為に腹部エコー用のチェ ックリストを作成して、看護師だけでなく、医 事課も参加して腹部エコーを忘れないよう注意 している。腹部エコーは主治医が3 〜 4 ヵ月毎 に実施しているが、スクリーニング目的の腹部 CT は近くの病院へ依頼し、AFP 上昇例は地域 の中核病院を紹介している。高齢男性の、線維 化進行例では、著効が得られても、5 年以上も たってから発癌する症例が少なからず存在する ことが問題となっている。著効後も血小板数が 低下する例は注意が必要である。IFN の少量、 長期投与は、ガイドラインでも期間が明確には 設定されていないが、2 〜 3 年を目途に、評価 (血小板数の増加、AFP、ALT の正常化)し、 IFN 抗体や他の自己抗体、インターロイキン6 (肺線維症で上昇する)等を確認して、一時休 薬し、経過を見て再開の可否を患者と話し合う ことにしている。(α-IFN は2002 年より投与 期間の制限が廃止されたが、ペグIFN はまだ、 撤廃されていない)その際、在宅自己注射 (α-IFN は認可されているが、ペグIFN はま だ、両方とも認可されていない)も多忙な患者 には貴重な選択肢になる。厚労省の研究班が作 成する「C 型慢性肝炎治療ガイドライン」は毎 年のように改定されているが、治療現場の方が 絶えず先行している。それ故に保険診療との間 でも、細部では多少のグレイゾーンが出現す る。そのような局面で主治医の裁量権がどの程 度認められるか、は今後の課題である。最もハ イリスクである肝硬変へのα-IFN、ペグIFN の適応拡大や高齢者独自の容量設定は、ガイド ライン策定の焦眉の急であると考えている。

表4 Peg-IFN α 2a(ペガシス)単独長期(少量)療法

表4
図2

図2 Peg-IFN α 2a の少量長期投与(n=18)

図3

図3 症例: 52 歳 男性genotype 1b 型慢性肝炎

【IFN 治療の経済的側面】

最後に経済的側面について延べる。IFN 治療 費助成制度は、肝炎の原因の如何を問わず、B 型、C 型慢性肝炎でIFN 治療を実施する際に、 支払われる患者個人の1 ヵ月の窓口負担の上限 を1 万円、3 万円、5 万円と世帯の市町村税に 応じて3 段階に決め、超えた部分を1 人、1 年 間、1 治療機会に限り、公費で助成するもので 負担上限1 万円の患者が過半数を占めるように 制度設計されている。沖縄県の場合、平成20 年4 月〜 21 年1 月までの中間報告で、IFN 治 療受給者証を交付された患者の内72 %が上限 1 万円のクラスに属する。通常は月の窓口負担 はIFN 少量、単剤投与で2 〜 4 万円、リバビリ ンとの併用で6 〜 8 万円位の開きがある。従っ て、高額な併用療法を必要とする難治例がこの 制度の最大の受益者であり、特に、積極的な利 用が望まれる。

【まとめ】

診療所で実施可能なC 型慢性肝炎(難治例) のIFN 治療について、患者への説明の要点、 患者管理と病診連携の現状、治療の課題、特に IFN 単独、少量、長期投与について述べた。

参考文献
1)Kenji Ikeda et al : Hepatology 29、1124-1130,1999
2)Arase. Intervirology 47:355-361,2004
3)佐久川 廣:沖縄医報Vol.42 No.5 75-81,2006
4)仲宗根 和則:沖縄医報Vol.36 No.10 25-31,2000
5)Samuel S lee and Peter Ferenci : Antiviral Therapy 13 Suppl 1: 9-16
6)泉 並木:厚生科学研究費補助金肝炎等克服緊急対策  研究事業(肝炎分野)分担研究報告書41-42
7)Reddy KR et al : Clin. Gastroenterol. Hepatol、5 : 124-129, 2007.
8)飯野四郎:検査と技術 Vol.31 No.1 23-28,2003