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感染症危機管理対策協議会

理事 宮里 善次

去る3 月4 日(水)、日本医師会館において 標記協議会が開催されたので、その概要につい て報告する。

開会

定刻となり、飯沼雅朗日本医師会常任理事よ り開会が宣言された。

挨拶

唐澤人日本医師会長より、概ね次のとおり 挨拶があった。

都道府県医師会感染症担当の先生方には、日 頃の地域における感染症対策にご尽力いただき 心から感謝いたします。

また、本日は日本医師会の感染症危機管理対 策委員会の先生方にもご出席いただいておりま すことに心から感謝申し上げます。

厚生労働省からは、ご多忙のところ講師とし て、梅田珠実結核感染症課長、難波吉雄結核感 染症課新型インフルエンザ対策推進室長、正林 督章肝炎対策推進室長にご出席頂き誠にありが とうございます。

一昨年は大学生を中心とする若者の間で大規 模な麻しんの流行がみられ、大学が休校となる など社会問題となりました。昨年4 月より麻し ん・風しんの第3 期・4 期の定期接種が開始さ れましたが、接種率がなかなか向上せず先生方 におかれましては大変苦慮しておられると聞い ております。

本日は、まず、「麻しん対策について」梅田 珠実結核感染症課長より報告をいたします。そ の後、「新型インフルエンザ対策の概要」につ いて難波吉雄結核感染症課新型インフルエンザ 対策推進室長より、さらに、「新しい肝炎総合 対策について」は正林督章厚生労働省健康局疾 病対策課肝炎対策推進室長からご報告を頂くこ とになっております。

日本医師会におきましては、平成9 年に感染 症危機管理対策室を設置して以来迅速な情報提 供と対策体制の構築を心がけています。国民の 生命・健康を守るため、麻しん排除や新型イン フルエンザの発生等に備え、さらに万全の体制 を期す必要があると考えているところであり、 そのためにもご出席の先生方におかれましては 本日のご報告を踏まえ忌憚のない協議会の進行 をご期待申し上げる次第であります。

改めまして、本対策協議会の成果を踏まえ、 各地域において感染症対策が混乱なく円滑に実 施されますよう今後とも先生方のご協力をよろ しくお願いいたします。

報告

(1)麻しん対策について

梅田珠実厚生労働省健康局結核感染症課長 より、以下のとおり報告があった。

今年度より開始された第3 期(中学1 年生相 当)・第4 期(高校3 年生相当)のMR ワクチ ンの接種が開始されましたが、接種率がいまだ 低い状況です。対象年齢の方は年度内なら公費 で予防接種可能ですので、是非年度内の接種推 進をお願いしたい。

第3 ・4 期の接種を実施することになった経 緯は主に以下の3 点があげられます。

  • 1)免疫がつき損ねる率5 %
  • 2)1回接種後、自然感染がなく年月を経て、 抗体価が発病阻止レベル以下
  • 3)未接種者が罹患しないまま成長

アメリカ大陸は目標の95 %を達成している が、日本が属している西太平洋地域はいまだ低 いため、2012 年を目標に達成しなければなら ない。そのため、国際機関との連携を強化し、 積極的に情報交換をしている。また、学校、学 校の設置者、地域の保健機関、学校医等との連 携のため文部科学省の協力が必要である。

麻しん風しん第2 ・3 ・4 期の接種状況は平 成20 年4 月1 日〜 12 月31 日現在で下記の表 のとおりである。

地域によって接種率に差があるが、特徴とし て台帳管理ができている県は接種率が上位にあ る。理由として、未接種者をきちんと把握して おり未接種者に対し直接、接種勧奨をしてい る。したがって、集団接種をしなくても個別の 接種で十分高い接種率がでている。このような 方法を地方自治体に指導していきたい。

(2)新型インフルエンザ対策について

難波吉雄厚生労働省健康局結核感染症課新 型インフルエンザ対策推進室長より、新型イ ンフルエンザ対策について次のとおり報告があ った。

新型インフルエンザ対策行動計画において、 被害の状況は罹患率25 %(国民の4 人1 人が 罹患:約3,200 万人)、医療機関を受診する患 者数は最大2,500 万人、入院患者数は53 〜 2 0 0 万人、死亡率は1 7 〜 6 4 万人(致死率 0.5 %〜 2.0 %)と予測されている。当面の対 策として医学的介入、公衆衛生的介入、社会全 体の対応を組み合わせていくことが重要であ る。ただし状況は変化するため、機敏な対応は 必要である。

第一次補正予算案後、抗インフルエンザウイ ルス薬(タミフル等)の備蓄は2,935 万人分 (国民の23 %分)から5,740 万人分(国民の 45 %分)に引上げ、プレパンデミックワクチ ンの備蓄は2,000 万人分(国民の16 %分)か ら3,000 万人分(24 %)に引上げられた。

「新型インフルエンザ対策行動計画」改訂 後、及び「新型インフルエンザ対策のガイドラ イン」新規策定の概要は以下のとおりである。

「新型インフルエンザ対策行動計画(改訂後 の概要)」

○行動計画に基づき、関係省庁が連携・協力 し、発生段階に応じた総合的な対策を推進。

1. 主たる目的

  • イ)感染拡大を可能な限り抑制し、 健康被害を最小限にとどめる。
  • ロ)社会・経済を破綻に至らせない。

2. 発生段階ごとの主要な取組み

  • イ)未発生期→発生に備えた準備
  • ロ)海外発生期→ウイルスの侵入防止・在 外邦人支援
  • ハ)国内発生早期→感染拡大防止
  • ニ)感染拡大期、まん延期、回復期→健康 被害最小化、社会・経済機能の維持
  • ホ)小康期→第二波への備え

「新型インフルエンザ対策のガイドライン (新規策定)の概要」

○各分野における対策の内容や実施方法、関係 者の役割分担等を明記

○本ガイドラインの周知・啓発により、国、自 治体、企業、家族、地域等における具体的な 取組みを促進

1.ウイルスの国内侵入防止、国内まん延防止

  • イ)水際対策に関するガイドライン
  • ロ)検疫に関するガイドライン
  • ハ)感染拡大防止に関するガイドライン

2.医療の確保

  • イ)医療体制に関するガイドライン
  • ロ)抗インフルエンザウイルス薬に関する ガイドライン
  • ハ)ワクチン接種に関するガイドライン (検討中)

3.国民各層の取組、社会・経済機能の維持等

  • イ)事業者・職場における新型インフルエ ンザ対策ガイドライン
  • ロ)個人、家族及び地域における新型イン フルエンザ対策に関するガイドライン
  • ハ)情報提供・共有(リスクコミュニケー ション)に関するガイドライン
  • ニ)埋火葬の円滑な実施に関するガイドラ イン

最後に、発熱外来及び入院病床の考え方につ いて以下の表のとおり説明があった。

「発熱外来の考え方」

「入院病床の考え方」

(3)肝炎総合対策について

正林督章厚生労働省健康局疾患対策課肝炎 対策推進室長より、肝炎総合 対策について次のとおり報告 があった。

国内最大級の感染症である B 型・C 型ウイルス性肝炎 は、インターフェロン治療が奏功すれば根治で き、肝硬変、肝がんといったより重篤な疾病を 予防することが可能である。しかし、当該治療 にかかる医療費が高額であるため、早期治療の 妨げになっている。現在5 万人であるインター フェロン治療の受療者の倍増を目指す。そのた めの総合的な施策を展開する。

施策の方向性として、インターフェロン療法 の促進のための環境整備、肝炎ウイルス検査の 促進、健康管理の推進、肝硬変・肝がん患者へ の対応、国民に対する正しい知識の普及と理 解、研究の促進などがあげられる。

平成21 年度からのインターフェロン医療費 助成に係る運用上の変更点は、現行、助成期間 は原則1 年間ですが、一定の条件を満たし、医 師がペグインターフェロン及びリバビリン併用 療法の延長投入が必要と認める 患者について、助成期間の延長 (72 週分)が認められる。

検査や治療体制の整備、正し い知識の普及、研究の促進、相 談事業など総合的な対策の強化 が必要である。

協議

Q :<群馬県医師会> イン フルエンザ菌b 型(Hib)ワクチ ンの定期接種化について(要望)

国内で年間500 〜 600 人の子 ども達がHib 髄膜炎に罹患し、 そのうち約5 %が死亡、約25 % に永続的な神経学的後遺症が残 っている。

1998 年にWHO はHib ワクチンの乳児への定期接種を推奨する声明を出した ことから、現在ではアジアやアフリカの国々を 含む120 ヶ国以上で使用さている。

我が国では2007 年1 月にようやくHib ワク チンが承認され、2008 年12 月から発売された が、「自費による任意接種」だから、接種希望 者の費用負担は通常4 回接種で3 万円程度かか る。多くの子どもたちを守るためになんとして も定期接種化が必要である。

A :<梅田珠実結核感染症課長> Hib ワク チンは予防接種に関する検討会において議論さ れ、疾患の重篤性や発生頻度を考えた上で今 後、我が国において有効性、安全性、有体効果 との治験を収集する必要があり、定期の予防接 種として位置づけるかどうか評価を行っている ところである。

Q :<東京都医師会> 組織培養日本脳炎 ワクチンの認可への進捗状況についてお伺いい たします。

A :<梅田珠実結核感染症課長> 日本脳炎 ワクチンですが、平成17 年5 月に「積極的勧 奨の差し控え」とういうことになっている。こ れまでマウス脳の製法によるワクチンとは別に 組織培養・細胞培養の製法による新日本脳炎ワ クチンが開発され、2 月23 日に薬事法に基づく 承認がされたところである。この新しい日本脳 炎ワクチンを定期の予防接種に位置づけるかを 検討したところ、概ね承認に近づいている。た だし、2 回目の追加接種に関しては、安全性・ 有効性についてのデータが不十分なため、直ち に定期接種に追加するのは困難で、安全性・有 効性の治験を早急に集積する必要がある。

これらの検討結果がでた暁には、日本医師会 を通じてお知らせする。その際は、接種者数の 把握、副反応の迅速な報告の協力をお願いし たい。

Q :<群馬県医師会> 1)発熱外来につい て、医療機関に開設する場合が多いと思うが、 医療従事者等の感染リスクを極力回避するた め、発熱外来を公民館等の公共施設に設置する 場合も考えられる。そこで、発熱外来へ出動す る医療従事者等への身分保障(例えば公務員或 いは非常勤公務員扱いなど)について、検討を お願いしたい。

2)医療従事者が感染した場合に備え、民間保 険加入の可否について検討しているが、全国規 模であるとすれば、新型インフルエンザは一種 の災害であると考え、公的な保険制度の整備を 検討していただきたい。

3)新型インフルエンザ患者の病床確保のた め、現在入院中の軽症患者(他疾病患者を含 む)に退院していただく場合、退院により病状 悪化を生じさせたと訴訟をおこされるかもしれ ないとういうことがネックとなり、病床確保が 進まない可能性がある。このため、医療者が正 当に入院不用を判断した患者について、患者本 人の意思に関係なく退院していただけるような 法整備が必要であると考える。

A :<難波吉雄新型インフルエンザ対策推進室 長> 1)発熱外来の財政的なことについて各 都道府県からの色々な要望がでています。こう いった声をどのように活かしていくか今後、十 分に検討したい。

2)ある特定の職種だけに限定して補償を適用 することは、国としては考えていない。医療従 事者に対し必要な感染の防止策を充実させたい。

3)新型インフルエンザ以外の患者の医療が破 綻しないように都道府県の判断によって限定し て診療を行わない医療機関を決定できる。

Q :<兵庫県医師会> 電話による診療行為 の是非・あり方について

A :<難波吉雄新型インフルエンザ対策推進室 長> 医療体制のガイドラインのなかで慢性 疾患等を有する患者について事前に了承してい たかかりつけの医師が電話診療により新型イン フルエンザの感染の有無について診断できた場 合はFAX 等による抗インフルエンザウイルス 薬等の処方を発行することができる。一度も対 面診療を行っていない患者にはそういったことはできない。

Q :<福井県医師会> ガイドラインで記載 がなかった医薬品をふくめた物流の件、配慮し ていただきたい

A :<難波吉雄新型インフルエンザ対策推進室 長> 機能を維持するために関係機能と調整 し、働きかけを行っている。

要望:<京都府医師会>

TV やマスコミ等で最近、感染ネタを頻繁に目 にするが、情報の構築・一本化をお願いしたい。

総括

感染症対策は地域医師会においてもっとも重 要な課題のひとつであり、日本医師会において も国民の生命・健康を守るために全力で取り組 んでいかなければならない問題の一つであると 認識しております。

新型インフルエンザ、麻しん・風しん、肝炎 は決して侮ることの出来ない疾患であり、医師 会、行政等、関係者が一丸となった取り組みが 必要ではないかと思われます。また、情報の共 有と迅速な対応は必須であり、都道府県医師 会、郡市区医師会、日本医師会との双方との連 携が重要であります。感染症対策全般につきま しても問題等生ずることがあれば、厚生労働省 と協議を行う所存でありますので、ご遠慮なく 感染症危機管理対策室までお申出をしていただ きたいと思っております。

印象記

宮里善次

理事 宮里 善次

平成21 年3 月4 日、日本医師会館において『感染症危機管理対策協議会』が開催された。 唐澤会長の挨拶に続いて、厚生労働省から3 つの報告がなされた。

初めに「麻疹・風疹対策」について発表があった。成人型麻疹の流行を受けて、平成20 年4 月1 日から3 期と4 期にMR ワクチン接種を5 年間集中的に講じていき、平成24 年度に麻疹の排除を 達成し、その状態を維持したい旨の説明があった。

しかしながら、任意による接種率では目標とする95 %にはほど遠い現状である。

接種率の高い地域ほど住民台帳の管理を徹底している。

特に福井県では未接種者を洗い出し、通達をして接種率を上げる工夫をしている。様々な工夫 があると思われるが参考にして貰いたいと要望があった。

次に「肝炎総合対策について」の講演があった。

平成14 年から5 か年計画で肝炎総合対策を初めたが、情勢はこの5 年間で変化している。今や 肝炎は国内最大の感染症である。

肝炎→肝硬変→肝臓癌と時間をかけて進行していく疾患なので、まずは検査を受ることが望ま しい。現在は対象者が増えるように利便性を考慮した取り組みを毎年見直しいている。

また現在のインターフェロンの開発は目覚ましく、従来と比べると治療成績は向上し、副作用 は軽減している。

治療を受けてない理由として1)忙しくて通院する時間がない2)副作用が怖い、がほとんどを占めており、啓蒙活動に加え、まずは検査を受けることが重要であることを普及していきたいと強 調され、その為に平成20 年1 月から委託医療機関での検査も無料化が可能となるような措置をと ったと報告されていた。

最後に「新型インフルエンザ対策の概要」について講演が行われた。

講演に先立ち、関係省庁連絡会議の「新型インフルエンザ対策行動計画」が策定されたことが報 告された。

ガイドラインでは取り組む内容として、以下の1)〜10)の指針が具体的に示された。1)水際対策、 2)検疫体制の整備、3)国内での感染防止対策、4)医療提供体制の整備、5)抗インフルエンザウィ ルス薬の流通・使用、6)ワクチン接種の進め方(検討中)、7)企業、職場での取組、8)個人、家庭 及び地域での取組、9)リスクコミュニケーション、10)埋火葬対策。

医師会が特に担うべき分野は4)医療提供体制の整備である。

取り組みは二次医療圏ごととし、海外発生期の第一段階では相談窓口として発熱相談センター (保健所に設置)で電話対応し、必要なら感染指定病院の発熱外来に紹介する。

国内発生の第二段階では二次医療圏ごとに設置した発熱外来で振り分けを行い、必要時に感染 指定病院の発熱外来に紹介する。

感染拡大期までは全ての患者は入院措置となるが、感染経路を追えなくなった段階で、入院は 原則として重傷者のみとなる。入院ベッドがなくなった場合はライフラインの整った公共施設を 使用する。

さて、事前準備としてやるべきことと担当が示された。

T、医療機関がやるべきこと

1)院内発生時の対応を検討、2)事業継承計画の作成、3)外国人差別が発生しないよう留意

U、地域医師会がやるべきこと

1)発熱外来に輪番制などで協力、2)在宅療養体制への協力

V、都道府県がやるべきこと

1)発熱外来の確保、2)入院病床の確保、3)診療しない医療機関の確保、4)在宅療養体制の確保、 5)医療機関以外に医療を提供する場、6)病診連携、病病連携の推進、7)医療機関の事業継続の 作成支援、8)抗インフルエンザウィルス薬の確保、9)発熱外来等における医療従事者の確保、 10)感染防御具の備蓄、11)関係機関の代表からなる対策本部設置(本部長は沖縄県知事)

以上のように行動計画の主体は都道府県であるが、あらゆる分野で医師会の協力は必須である。 今年度中に訓練までもっていけるように、県の担当者と詳細を詰める予定である。