常任理事 幸地 賢治
去る2 月14 日(土)15 日(日)、日本医師会 館大講堂において、標記協議会が開催されたの で、以下のとおり報告する。
【2 月14 日(土)】
日本医師会中川常任理事の司会進行のもと会 が進められ、冒頭、唐澤人日本医師会長並び に小林博委員長より下記のとおり挨拶が述べら れた。
○唐澤人日本医師会長
ご高承のとおり、長年にわたる社会保障への 財政支出削減策により日本の医療は非常に厳し い環境にあります。こうした中、国が進める医 療分野におけるIT 化は医療費抑制、管理医療 ツールとして位置付けられ、レセプトオンライ ン請求の義務化や、社会保障カード構想などの 施策が、半ば強引に押しつけられようとしてい るわけであります。
本会では、国民医療を守る医療提供者の立場 からこのような施策の前に本来クリアされるべ き課題を提示すると共に、IT 化に対応出来な い医療機関にも十分配慮する必要があると主張 して参りました。
IT 化を具現化するための様々な課題や周辺 整備がなおざりにされたまま、これらの施策が 本格稼働すれば医療現場は混乱に陥り、医療の 安全確保や良質な医療提供にも大きな影響を与 える結果となります。そしてこの事は、当協議 会に端を発し全国規模で行われました、レセプ トオンライン請求義務化のアンケート調査にお いて、廃院を考えていると回答した医療機関が 8.6 %あったことなどからも明らかです。今後 も環境整備が達成されること無しに、これらの施策が強いられることのないよう強く監視して いきたと考えております。
今年度の協議会は「患者さんに優しい、より 質の高い医療を〜より良い医療をめざしてコン ピューターを上手に使おう〜」をテーマに個々 の先生方の診療支援と医療に関する政策情報の 収集に役立つ診察室のIT 化に焦点を絞ったプ ログラムを用意しております。
中身の濃い、より実践的な内容となっており ますので、先生方にとりまして必ずや有意義な ものになるものと確信しております。
本日の協議会が実り多い成果をあげられるこ とを祈念すると共に、当協議会を企画・運営 されてこられた各関係者の方々、委員会委員 の先生方のご尽力に対しまして厚く感謝申し上 げます。
○小林博委員長(岐阜県医師会長)
平成17 年度から日本医師会主催で始まりま した本協議会も回を重ねる内に医療現場、ある いは外来診療におけるIT 活用、IT 戦略につい ては、ほぼ情報提供、検討課題は終わったと考 えております。
今回は外来診療、医療現場におけるIT 活用 の原点に帰りまして、「患者さんに優しい、よ り質の高い医療を〜より良い医療をめざしてコ ンピューターを上手に使おう〜」という非常に 手近なタイトルを採用させていただきました。
3 つのシンポジウムと特別企画、日医総研か らの情報提供等によって構成されております。 これらに関しまして日本医師会IT 委員会、運 営委員会の先生方には、メーリングリストを使 って非常に熱心に意見交換、編集していただき ました。シンポジストの方々、特別講演の先生 方、また、これらを編集していただきました日 本医師会の事務局の方々にこの場をお借りして 厚く御礼申し上げます。
2 日間に亘る長時間の会議となりますが、質 的・量的にもかなりしっかりしたものが出来上 がったと確信しております。
ごゆっくりとご静聴いただき、各地元におい てIT 活用を進めていただくようお願い申し上 げ、挨拶に代えさせていただきます。
シンポジウムT
「医師会事務局のIT 化の実情−会員等への情報 伝達の現状とこれからの方向性」
○兵庫県医師会 安慶名正樹
兵庫県医師会事務局では、平成17 年4 月か ら電子メール、平成18 年2 月からファイル管 理の整備が始まった。同時に電子メール、イン ターネット、ファイル管理等に関する考え方に 対するリテラシー向上に努めた。なお、グルー プウェア(情報共有システム)については稼働 するに至っていない状況。
なお、平成18 年より、理事会・常任理事会で は電子会議(主にPDF を使用し、WORD、 EXCEL についてはOffice Viewer で対応)の 対応を行っており、ペーパレス化による印刷物 のコスト削減が図られている。最終的にはその 他の委員会でも電子会議を実施する計画である。
また、平成20 年8 月より郡市区医師会に対 する情報伝達についてはWEB サイトにて運用 しており、更新作業については専用のソフト無 しに全職員が各端末により簡単に更新を行える 環境である。
なお、サーバーの管理を簡素化する目的で、 ホスティングサーバー(外部のレンタルサーバ ー)を利用している。
郡市区医師会に対しては、主にメーリングリ ストを活用しているが、情報が多い場合には文 書管理WEB サイトを活用している。
< IT 化を推進する上での課題>
○組織としての情報の標準化
○事務職員のIT 化ポリシー・スキル向上
○情報マネジメント(リスクマネジメント)
今後のIT 化については、利用者が必要に応 じてメールやインターネットなどの電子データ を保存するとともに、印刷物については複合機において電子化処理を行い、電子文書管理に登 録を行う。また、医師会のスケジュールについ てはグループウェアにてスケジュールを管理 し、各郡市区医師会からもインターネットを介 して確認できるようにする。更に、職員が各業 務を進める上で必要とする知識の共有化を図る ための管理も行う。
<日医に対する要望>
○日医・都道府県医師会における情報の標準化
(生涯教育データ、産業医データ、会員情報
データ)
○事務手続きの改善(電子申請対応)
○宮城県医師会 手嶋正浩
宮城県医師会では、平成2 年に会員間のパソ コン通信網として、「宮城メディカルバン(平 成13 年廃止)」を開設した。平成10 年にはホ ームページを開設すると共にメーリングリスト を設置した。その後、事務局LAN、文書管理 システム、会員情報システム(ファイルメーカ ー)、無線LAN 等を随時整備するとともに、宮 城県地域医療情報センターにおいて救急医療応 需情報提供、特殊診療リソース情報提供、宮城 県休日・夜間診療案内等の各種サービスを行っ ている。また、災害時における情報連絡網確保 として、衛生携帯電話、MCA 無線、簡易無線、 災害時優先携帯電話を導入した。
文書管理システムについては、スキャニング と同時にPDF 化し、サーバーへ保存している。
ホームページについてはリニューアル委員会 を立ち上げ、医師会のPR 強化と親しみやす さ、更新の簡易化を図った。
<今後の課題>
○ホームページの活用(更新並びに職員のスキ
ルアップ、会員向け情報)
○通知文書のデジタル化と決済システムの信頼
度(公印等)
○郡市医師会宛文書管理システムの活用(郡市
医師会職員の理解と県側のフォローアップ)
<日医に対する要望>
会員情報システムについては、地区の異動や 県をまたぐ異動、入退会処理の迅速化を図るた め、日本医師会で全国統一のシステムを構築し てもらいたい。
○西宮市医師会理事 西本洋二
平成9 年から医師会独自サーバーによりホー ムページを立ち上げ、平成13 年4 月よりメー リングリストを設立した。その後、独自で管理 していたサーバーを、平成18 年10 月よりレン タルサーバーに移行した。メールアドレス登録 数は設立当初61 件から平成20 年12 月現在で 170 件となっている。
メーリングリストでは、毎週月曜日に週刊医 師会ニュースの配信、西宮市内の学校の学級閉 鎖状況(インフルエンザ等による)、ホームペ ージ更新等のお知らせ、新規入会者へのメーリ ングリストの紹介等を行っている。
現在、メーリングリストには、各種委員会や 各種医会の他、パソコン倶楽部、ゴルフ部、宝 塚愛好会等が登録されている。
○名古屋工業大学大学院准教授 横山淳一
会員全てに必要な情報をもれなく伝達するこ とが郡市医師会の役割であり、日医と都道府県 医師会の情報化の進展や、会員からの情報伝達 のスピードアップの要求があることから、郡市 区医師会の情報化は必要である。
平成20 年12 月下旬より、日医発・郡市区医 師会宛メール配信サービスを利用して885 医師 会に調査協力を依頼し、回答を得られた67 件 (回答率8 %)の調査結果(中間報告)につい て報告する。
○会員対象のメールマガジン・メーリングリス
トの開設状況: 39 %
○ホームページの開設状況: 91 %
○会員専用サイト開設状況: 51 %
○ホームページで提供している情報は、役員・
委員会名簿、学術講演会等のイベント案内、
理事会報告、医師会報、委員会報告、都道府
県医師会から通達文書、各種申請様式、委員
会等の通知。
< IT 化推進の障害・問題点>
会員のIT 化意識のバラツキ、会員のIT 機器 の導入状況、セキュリティ、IT 化による職員 の事務作業の増加、IT 化に詳しい職員の有無、 予算等。
<事務局における情報化の効果を発揮するた めには>
○職員の作業を出来る限り簡素化したうえで、
会員の希望にあった情報発信方法(FAX、メ
ール、郵送)で提供を行えるシステムの構築。
○費用がかかる“郵送”、“FAX”を減らす。
○手間がかかる“郵便”を減らす
○全会員が電子メールまたはホームページを利
用して郡市区医師会事務局から情報を入手
<情報化に対応するためには>
○事務局の合理化
○会費請求システムをはじめとする会員管理シ
ステムの有功活用
○業務システムの全国的な標準化
○会員の業務スタイルの変化も要請される
(FAX ではなく電子メールを利用)
※郡市区医師会の情報化の進展無くしては医師 会全体の情報化効果が得られない。
特別企画
「インターネット活用による最新医学情報等の 収集と活用」
○国立情報学研究所連想情報学研究 開発センター長・教授 高野明彦
人間が通常行っている“連想”による記憶の コントロールを、WEB に応用し、逆にWEB 側から人間の脳を刺激するような反応(創造的 相互作用)が返ってくることにより、より理想 に近い結果が得られる(連想の情報学)。
インターネット検索で際大手の“Google”に よる検索方法は、単語によるキーワード検索を 行い、この単語が含まれるページを多くの人が 見ている順に表示する。一方、同センターで研 究している検索方法は、“連想検索”であり、 例えばいくつかの関連する“文書”をキーワー ドとして検索をすることにより、それらの文書 を特徴づける“単語”を元にして、その“単 語”と関連する“単語”(連想的な繋がり)を 含む“文書”を新たに検索する。この場合、連 想的な繋がりによる検索となるため、より理想 的な検索結果が得られる。
※人間が、一つの言葉から無意識のうちにいく つもの関連する単語を思い浮かべるように、 検索キーワードから関連性の高い単語を抽出 し、それを含む図書をもれなく探し出す検索 方法。この理論を応用して、ある書籍に関連 する別の書籍を検索することができる。(下 記ホームページ参照)
“Webcat Plus”http://webcatplus.nii.ac.jp/
“新書マップ“ http://shinshomap.info
“JIMBOU”http://jimbou.info/
<「連想の場」としてのコンテンツ利用環境>
○情報に文脈を与える場
○情報に自分だけの文脈を発見する場
<意思決定で陥りやすい罠>
○アンカリング:最初に見つけた情報から過度
に影響を受ける。
○確証:無意識に自分の既成概念を支持するデ
ータを探し、それを覆す証拠は避ける。
○記銘性:直近の出来事や劇的な事件に過度に
影響を受ける。複数の情報源から繰り返し同
じ情報を受け取ると信用してしまう。
○現状:現状維持に役立つことを受入れ易い。
○埋没費用:過去の過ちをなかなか認めずに、
これまでの選択を正当化する方向で意思決定
を行う。
○東京女子医科大学麻酔科主任教授 尾崎眞
1997 年に発刊されたWeb Sites for Health Professionals という小冊子において、各医科 大学、医学系学会、医学系の雑誌、医療関係の 政府団体・機関、病院などのURL が100 ペー ジにわたり掲載されていた。その内の5 ページ を割いてSearch Engine の解説が載っていた。 まだグーグルやYahoo もほとんど知られていな いような時代のことである。
それから今日に至るまで僅か12 年であるが、 ハード、ソフト共に飛躍的な進歩を遂げてお り、URL による検索もほとんど行わない時代 となっている。
2009 年現在は、ポータルサイト(Google や yahoo など)が収集の要である。独自のポータ ルサイトを作ることも可能となり、様々なデー タや情報を効率的に探したり利用するための集 約表示を行えるようになっている。また、メモ 機能も備え、必要な情報を集約することもでき る(PC への保存ではないためデータクラッシ ュの危険性が低い)。
なお、個人情報と成り得る情報には十分注意 する必要がある。
○武田薬品工業(株)医薬学術部 学術支援グループマネージャー 久保慎二
○武田薬品工業(株)医薬開発本部
日本開発センター 医薬情報部医薬情報
グループマネージャー 久貝紀夫
あるリサーチ会社の調べによると、各種メデ ィアに対する医師の意識調査を行ったところ、 インターネットに対する期待が大きく、また接 触時間が長いことがわかった。
ネットの利用スタイルとしては、ネットから の情報の入手や受動的利用(サイトからの情報 入手、メルマガ、メーリングリスト、ネットで の治験等)や、ネットへの情報の発信や能動的 利用(サイト開設・運営、サイト・掲示板への 投稿、メーリングリストへの書き込み、医療連 携などのネットワーク構築等)である。
現在ネットには、患者さんの自己管理支援ツ ールや、疾患解説、薬のしおりなどを始め、院 内職員や学生にレクチャーする際の講義資料、 医師自身のレファレンス用として薬価、安全 性、ガイドライン・EBM、患者への説明資料 作成支援ツール等の各種情報が豊富にある。ま た、最新の学術情報を無料で提供するサイトや 速報ニュース系サイトもある。
しかしながら、情報が豊富である半面、その 情報が「いつの情報」か、「誰が作ったものか」 を常に注意し、公共性の高い作成者のサイト (公的機関、学会など)や、実績があり評判の 高いサイトを目安に選ぶことが大事である。
また、今後は、患者さん自身が医療に関する 専門的な情報に触れる機会が増える状況にある。
○日本医師会総合政策研究機構主任研究員 矢野一博
日医総研では、ネットをはじめ国の各種検討 会の公聴、マスコミ報道等さまざまな分野で 日々の情報を収集し、国の施策などに対する日 医の見解のベース作りをしている。
ネットでの情報については、厚生労働省、首 相官邸、経済財政諮問会議、規制改革会議、電 子政府総合窓口等のホームページから収集を行 っているが、厚労省に限らず、総務省関連でも 医療に関する情報があることから、電子政府総 合窓口(パブリックコメント)にも注意をはら っている。
また、厚労省ホームページの審議会、研究会 の議事録等も確認し、情報の裏付けを行って いる。
日本医師会から会員に対しては、ホームペー ジにおいて定例記者会見、メンバーズルーム (理事会速報)、文書管理システム(厚労省等か らの通知)等で各種情報を発信している。
【2 月15 日(日)】
シンポジウムU
「日レセ(ORCA)を100 倍使おう」
○日医総研主任研究員 西川好信
始めに、日医標準レセプトソフト(ORCA) の導入状況について、2009 年1 月15 日現在で 稼働中ユーザが6,000 件を超えていると報告が あり、この値は2011 年度中に10,000 件を目指 すに当たっての目標値を4 ヶ月前倒しで達成し ていると説明があった。また、日レセは大きな 診療報酬改定を既に3 回経験することで安定度 も増してきているとともに、年間100 項目を超 えるユーザの要望を取り入れる等、更なる進化 を続けていると説明があり、日レセに実装され ている機能のうち特に窓口業務で最も多く使用 される機能について解説があった。
また、日医総研では次年度においてもIT フ ェアの開催を企画していると説明があり、各都 道府県や郡市区医師会において是非ご活用いた だきたい旨紹介された。
その他、日レセは現在Linux のDebian を用 いて開発が行われているが、このOS のサポー ト期間の課題をクリアするために、今後 Ubuntu OS への移行も視野に入れていると報 告があった。
< ORCA 機能の解説(一部)>
○患者呼び出し方法
>名字が「トクテイ」で、名前が「ケ」で始ま
る方:トクテイ▲ケ
(▲は全角スペース)
>名字が「ト」で始まり、名前が「ケ」で始ま る方:ト*ケ
>名字が「特」で始まり、名前が「恵」で始ま る方:特*恵
○診療コードの検索方法
>コメントの検索 ://c
>診療区分での検索 ://.
>特殊用法コメントの検索 ://y
>診療行為区分 ://* アルファベット大文字
>検査点数指定検索 :///nnn or //nnn-NNN
○ ORCA サポートセンター長 永島道夫
始めに、「従来、レセプトコンピューターは、 多くの医療機関に普及しているという意味で重 要であり、保険請求処理を担う勘定系という意 味でも医療機関の基幹システムと言える。」と 説明があり、現在、ORCA はその領域を超え た様々な用途に向かって開発が進められている として、ORCA と連携する各種システム等につ いて紹介があった。
また、ORCA データの更なる拡大利用を行 うことで、診診連携や病診連携による、市民に 有用な地域医療を実現する基盤としても利用用 途が拡大されることを期待していると今後の展 開が示された。
○産業医科大学准教授 八幡勝也
始めに、「診療所や中小病院等では、それぞ れで実施する医療行為の種類が少なく、本格的 なオーダリングシステムは必要ないが、医療行 為と会計の連携のデジタル化の必要性は高い。 しかし通常のオーダリングはネットワークを利 用するのでセキュリティ管理が必要となり、小 規模医療機関にとっては負担となる。」と説明 があり、ORCA にRFID(IC カード)を用い たオーダ実施入力システムを追加することで、 ネットワークを介さない受付、実施入力、会計 を連携させたシステムを構築することが可能と なると報告があり、当システムは小規模医療機 関にとって大きな利点が期待できるとして、シ ステム内容の解説が行われた。
○島根県医師会情報委員 小竹原良雄
ORCA と広島県医師会の山下先生が開発し たRSBASE の連携について説明があり、画像 診断や検体検査、心電図等のデータを経時的に 保存蓄積し供覧できることは、治療計画や実施 に有用であるとして、具体的な使用例等につい て報告された。
また、O R C A のO S について、現状の Debian による短期間のバージョンアップは、 ベンダーや医師会員が疲弊すると意見があり、 Ubunts の可能性に期待したい旨が述べられた。
特別講演
○名古屋大学医学部附属病院総合診療部教授 伴信太郎
始めに、「診療所における外来診療は入院診 療に比べ、医療問題は不明確で領域限定性もな く、患者の自立性・主導も強く、1 回の診療時 間も短い等の特徴があり、入院診療とは異なる 種々の臨床能力が求められている。」と説明が あり、このような特徴がある外来診療につい て、臨床能力マトリックスである「知識」「情 報収集能力」「総合的判断力」「技能」「態度」 の分野に分けてそれぞれ説明があった。
各分野は、「知識」は想起レベル、解釈レベ ル、問題解決レベルに、「情報収集能力」は検 査、身体診察、医療面接に、総合的判断力は倫 理、心理、論理に、技能はテクニカルスキル、 コミュニケーションスキル、その他のスキル に、態度は研究、教育、診療に、それぞれ細分 化することができる説明があり、一般外来診療 においては、問題解決できるレベルの知識を整 理して持っていること、緊急対応手技を身につ けていること、Up to Date な情報にアクセス できること等が必要であると示された。また、 外来診療にコンピューターを導入することで、 患者の健康情報を時系列に示すことによる患者 教育や、自分自身の生涯教育、学生や医師の教 育等を行うことが可能になると説明があった。
日医総研からの報告
○日医総研主任研究員 吉田澄人
平成20 年4 月から施行されている特定健 診・特定保健指導においては、健診データや保 健指導データと費用請求に係るデータの電磁的 記録媒体による提出が求められていることか ら、日本医師会では、昨年7 月に各都道府県医 師会及び郡市区医師会を対象とした電子化の対 応状況等に関する調査を行っており、その結果 の概要について報告が行われた。
調査によると、特定健診の電子化の対応とし て、代行入力業務を行う都道府県医師会は47 医師会のうち23 医師会(48.9 %)となってお り、郡市区医師会においては4 0 8 医師会 (60.1 %)となっていること等が報告された。
特定保健指導については、実施機関が提出す るべき電子化の仕様が整っていない等、課題も 多いことから、日医としては早急な検証と見直 しに向けて取り組んでいるところであると説明 された。
○日医総研主任研究員 上野智明
平成23 年4 月から完全義務化とされている レセプトオンライン請求について、日本医師会 では、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤 師会の三師会による完全義務化撤廃の共同声明 を去る平成20 年10 月22 日に出している他、 21 年1 月29 日には、平成20 ・21 年度医療IT 委員会の中間答申を取りまとめ、21 年1 月30 日に自民党社会保障制度調査会・医療委員会 に対し「レセプトオンライン請求完全義務化の 撤廃と手上げ参加方式への変更」を正式に申し 入れていること等が報告された。
○日医総研主任研究員 矢野一博
日医認証局は、2003 年度から本格的な取り 組みを始め、5 年目となる2008 年度で電子証 明書の発行に必要な全ての準備を終えていると 説明があり、日医認証局が保健医療福祉分野の 認証局として中核を担うための本格的な認証基 盤の稼働が始まろうとしていると報告された。
今後の展開としては、平成21 年3 月末まで に電子証明書の発行環境の整備を完了させ、そ の後、厚生労働省認証局との接続確認を行う予 定であると説明があり、将来的には、レセプト オンライン請求や特定健診、主治医意見書等の 電子署名での活用を視野に入れていることが示 された。
シンポジウムV
「外来診療のIT 化− IT 化で何がよくなるのか、 必要不可欠か−」
○滋賀医科大学附属病院医療情報部教授 永田啓
外来診療において、専門書や論文を患者さん の前で読み耽る訳にはいかないが、的確に他分 野の知識を素早く得る必要はあるとして、その 為の簡便なシステム並びにインターネットの活 用方法について説明が行われた。
例として、診療の前に「今日の診療」という ソフトやインターネットブラウザー、テキスト エディター、手書きで説明したメモを記録する ためのスキャナー用ソフトを立ちあげ、それら のソフトを効率よく活用することで、大がかり なシステムを使用しなくても臨床現場の手助け となるシステムを作り上げることは可能である 旨説明があった。
○揖斐郡北西部地域医療センター長 吉村学
へき地ではインフラ整備の制約はあるものの インターネット環境はほぼ整理されつつあると して、主に患者への説明等にインターネットを 使用した際の診療支援方法について説明が行わ れた。
その結果として、種々の制約はあるにせよ、 診断プロセスや治療方針の決定といった医師の 診療の支援やその質の向上、患者への説明、研 修医指導等にある程度役立っていると報告があ り、また、孤立しがちな医療機関どうしのコミ ュニケーションや疫学等のローカルな相互情報 交換にも役立っていると報告された。
○井原医師会広報・情報担当理事 鳥越恵治郎
確定診断に丁寧な問診は欠かせないが、日常 診療の実際の場では大きな時間的制約があり、 その問診の補助として、コンピューターの演算 能力を用いて考案された「問診表自動解析」と 「病名思い出しツール」を活用した診療形態等 について、実際のツールを使用した画面等を用 い説明が行われた。
また、各ツールについては、WEB 上に展開 されており、興味のある方はご使用いただきた い旨情報提供された。
○問診表自動解析ツール
http://mith.akira.ne.jp/testDaba/monshin/monshin.jsp
○病名思い出しツール
http://mith.akira.ne.jp/irom/diagnosis/syoujou1.jsp
○富山市医師会理事 吉山泉
富山市医師会では、診療支援ソフト「診療工 房」を開発し、平成15 年11 月から会員向けに 配布しており、平成20 年末現在で富山県内 130 医療機関において利用されていると報告が あり、当ソフトを使用した検査データ等の一元 管理方法等について説明が行われた。また、今 後は、紹介状作成時にORCA から患者属性や 処方内容を取り込んだり、地域の基幹病院での CT、MRI 等の画像送信等にも利用できるよう 準備を行っていると説明があった。
○広報委員会担当理事 天野一夫
時代の流れは電子カルテであるが、手書きカ ルテの方が使い勝手が良く、書くことにより頭 の中で診療を組み立てることができると意見が あり、紙カルテとコンピューターの「二刀流」 を選択肢の一つとして捉え、数字や文字データ はデータベースで取り扱い、画像データはフォ ルダで整理して表示する等、紙とコンピュータ ーを切り分けた診療支援の方法等について説明 が行われた。
○兵庫県医師会常任理事 足立光平
兵庫県医師会では、医療のIT 化は現場にと って役立つものであれば、これまでも積極的に 推進してきているとして、ORCA プロジェクト についても当初から協力しその普及に努めてい ると説明があり、例年県医師会主催でORCA フェアを開催し、平成20 年12 月末現在で約 270 機関に日レセが導入されていると報告があ った。また昨年12 月には、日医IT フェアの中 で、モデル診療所を設置し、患者のORCA で の受付から会計処理までのデモンストレーショ ンを行い、会員に理解しやすい説明会等を行っ ている旨説明された。
印象記
常任理事 幸地 賢治
今回の協議会は「患者さんに優しい、より質の高い医療を〜より良い医療をめざしてコンピュー ターを上手に使おう〜」と題して行われました。医療界を含む色々な分野でIT 化への流れが進ん でいる現状に鑑み、各地区医師会で行われている創意工夫の紹介がありました。そこで紹介された ホームページやペーパーレス化は沖縄県医師会でも実施されており、必要な情報源としてご利用頂 ける体制が出来ています。理事会の協議もPDF 化した文書で行われており、近々完全なペーパー レス化となる予定です。現在先生方の自由な発言、情報交換の場としてメーリングリストも立ち上 げてありますがあまり活発とは言えないので今後とも利用法の検討が必要と考えております。
ORCA の導入も増加しており、近々一万件に達するようです。現在も年間百件以上の改良を行 っており、更なる進化を続けているとの事です。先生方のご利用をお願い致します。