理事 金城 忠雄
平成21 年2 月13 日(金)日本医師会に於い て、標記連絡協議会が開催された。協議会で は、看護職員等を巡る最近の動向について報告 が行われ、厚労省事務官を交えて看護職員に関 する諸問題について協議を行ったので、以下に 会議の模様を報告する。
はじめに、唐澤人会長から「医師不足の要 因の一つとして、地域医療の崩壊はもはや国民 的課題となっている。厚労省においては、舛添 大臣の強い意向を受け、看護の質の向上と確保 に関する検討会が設置された。国民により良い 医療を提供するためには看護職員の存在は必要 不可欠である。また、医師との業務分担におい ても様々な重要な役割を担っている。
従って、本日は看護行政の第一任者である厚 生労働省医政局看護課長と意見交換ができるこ とは大変貴重な機会である」とあいさつした。
議 事
(1)看護職員を巡る最近の動向について
日本医師会羽生田俊常任理事より、看護職員 を巡る最近の動向と題し、昨年、看護職員確保 対策の一環として実施した「潜在看護職員再就 業支援モデル事業」の調査結果について報告が あった。
本調査は、昨年、都道府県(郡市区医師会含 む)が自ら運営する看護職員学校養成所を対象 に、潜在看護職員再就業のための支援事業を行 うことを目的に、各都道府県医師会を対象に参 加を募ったところ、15 の医師会(沖縄県含む) がモデル事業参加を表明し、医師会立看護師等 養成所の卒業生を対象に、アンケート調査を行 い1,367 人から有効回答を得た。回答率は 49.6 %。
調査結果から、潜在看護職員の70 %が復職 を希望していることが分かった。潜在看護職員といわれる看護職員資格を保有する人は育児に 係わっている女性が77.5 %を占め、そのうち 12 歳以下の児童・乳幼児が「いる」と回答し た人は73.5 %おり、看護職員として再就業の 希望・意欲、仕事と育児および家庭の両立を希 望していることが窺えた。
また、再就業するに際し、勤務先に望むこと は、休暇が取りやすいこと(70.9 %)、院内保育 所(41.7 %)、学童保育(41.1 %)あるいは育 児に対するその他の配慮などがあることを重視 しており、勤務時間についてもそれらを前提に した勤務形態を望んでいることが分かった。さ らに、医療現場に戻るにあたっては、看護職を 離職してからのブランクを埋めるための研修を 望んでいる人(80.7 %)が多いことが分かった。
これらのことを踏まえ、日本医師会では、看 護職員への再就業支援対策として、1)情報交 換や情報収集の場(窓口)の設置、2)多様な 勤務形態とコーディネート部門の設置、3)現 場復帰のための研修の実施−が必要だと提案し た。また、再就業した後の勤務を安定的にする ためには「短時間正職員」の考え方やシステム の導入も一考すべきであると強調した。
その他−看護職員養成の現状
○看護師・准看護師学校養成所入学定員の推移
大学の増加に伴い、3 年課程の定員が増加し ている。准看講師養成は平成14 年の改正カリ キュラム施行により、多くの学校が閉校を余儀 なくされたが、現在でも1 万人以上が養成され ている。
○看護師3 年課程の入学定員(H20.4)
大学が増加しているものの、現在でも看護師 養成の6 割は養成所において行われている。
○地区医師会による看護職員の養成状況
本来、国民の生活・健康を守るために必要な 看護職員の確保は国が責任を持って行うべきで あるが、その取り組みが不十分であることか ら、各地区医師会が地域医療を守るため、看護 職員の養成を続けている。
<平成20 年4 月>
○看護教育年限について
「看護の質の向上と確保に関する検討会」に おいて、看護基礎教育を現行の3 年課程から4 年課程へ「大学化」することをめぐっては、1) 看護業務は多様性があること、2)現行養成所 からの移行は困難で養成数の減少を招く、3)4 年教育のエビデンスがないことを指摘した。
加えて、看護基礎教育は現状で十分であると の認識を示し、逆に専任教員のレベルアップを 図ることの必要性を訴えた。
○医師と看護職等との役割分担の見直し議論に ついて
規制改革会議を中心に役割分担の見直しが出 ている。医師不足解消の名のもとに、看護職員 に新たな職種を作る議論があるが、日医として は反対である。現行の医師法・保健師助産師看 護師法の下で、十分対応できるものと考えてい る。役割分担について整理する必要はあるが、 その際には医療安全の確保の観点から検討すべ きである。
○医療関係者の養成所に対する非課税措置の創 設について
看護師等の医療関係者を確実に養成するため、医療関係者の養成所に対する非課税措置が 継続となったので、公益法人制度改革とは関係 なく非課税となる。
以上報告のあと、厚生労働省医政局看護課の 野村陽子課長から「看護職員を巡る最近の動向 について」説明があった。
○看護行政の方向性について
看護課では、1)量的確保(少子化、高齢化、 在宅医療)、2)資質の向上(高度化、専門分化、 医療事故)の2 本立てを目指し取り組んでいる。
○看護職員確保対策について
需要増の要因(医療高度化、高齢化、7 対1 看護etc.)と需要減の要因(病床数の減少、人 口減etc.)の推移を見ながら、看護職員の増加 策(1)養成力の確保、2)再就業の支援)と減少 の阻止策(3)資質向上、4)離職防止)を講じて いる。
○平成21 年度看護職員確保対策予算について
上記確保対策を推進するための予算として、 平成21 年度は看護職員確保対策費93 億8200 万円(対前年度比111.1 %)を設けた。
予算では、1)看護職員確保対策の総合的推 進、2)資質の向上、3)離職の防止・再就業 の支援、4)養成力の確保、5)医療提供体制 推進事業補助金(統合補助金)、6)医療提供 体制施設整備交付金(交付金)の6 項目に分か れており、今回、新たに予算化した事業は、 「看護職員需給見通しに関する検討会(第7次)」 「協働推進研修事業」「訪問看護管理者研修事 業」「高度在宅看護技術実務研修事業」となっ ている。
予算項目の中には、県が実施しなければ補助 が出せない項目もあるので、県当局と相談の 上、是非活用頂きたい。
○看護の質の向上と確保に関する検討会について
舛添要一厚生労働大臣直属の検討会として、 昨年11 月27 日からこれまで4 回にわたり検討 会を開催した。検討課題としては1)看護職員 の確保、2)チーム医療の推進、3)新人看護師 の質の向上、4)看護教育のあり方について議 論を重ね、現在、まとめの段階に入りつつあ る。基本的な方向性を示し、具体的な推進に努 めていきたい。
○行政処分を受けた保健師・助産師・看護師の再 教育研修について
平成18 年保健師助産師看護師法が改正され、 平成20 年4 月1 日から行政処分を受けた保健 師・助産師・看護師に対し再教育研修が義務付け られた。再教育が必要になった方々には、助言 指導者が必要であるので依頼がある場合にはご 協力をお願いしたい。
以上報告のあと、厚生労働省医政局看護課職 員を交え、都道府県医師会から寄せられた質 問・意見等について活発な意見交換が行われた。
多くの議論が尽きないまま、時間の都合上、 最後の挨拶となり、竹嶋康弘日本医師会副会長 から「看護職員の不足は、医師不足と重なった 面があり実態をしっかり認識しなければならな い。生きた地域医療をめざし、日医と厚労省が 一体となり、医師・看護職員確保対策が講じら れるよう、国に働きかけることを約束したい」 と総括した。
印象記
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理事 金城 忠雄
地域医療の崩壊は、医師不足と看護職員の不足もあいまって深刻な問題になっている。
今回の協議会では看護師確保対策にしぼり、医師会側と厚生労働省看護課側から「看護職員を 巡る最近の動向について」報告された。
内容は、「即戦力を求める短期的な問題」と「看護教育のあり方としての長期的問題」の印象である。
看護職員の即戦力を求めるのに、55 万人もいる潜在看護師をいかに活用するかの対策である。 潜在看護師の再就業するに際し、休暇が取りやすいこと、院内保育所、学童保育等育児対策が必 要である。当然ではあるが、看護職と育児・家庭の両立する勤務形態の考慮が必要だ。
厚生労働省側からは、院内保育所事業等予算処置してあるので十分活用をとの返答である。常 識的に女性の年齢を考慮すると、大学や看護学校を卒業して10 年前後になると結婚、子育て、育 児と家庭が基本になり、とても病人を看護する厳しい仕事の余裕などはないのが実情であろう。 看護学校卒後10 年前後が就業期限である。看護師供給としての教育も、卒後10 年しか就業でき ないとの視点に立って「看護職の数」を教育すべきである。とてもとても現在の看護師教育数で は足りない。卒後の就職率100 %は、他の教育機関にはない。厚生労働省は、看護教育に全力を 注ぐべきである。どうしてこの高就職率の実態を活用しないのか理解に苦しむ。
看護職は、やりがいのある職種ではあるが、患者の介護や患者との感情的なもつれ、葛藤もあ り、クリアカットに解決できない苦労が多い。看護職の専門を活かすには、本人の覚悟と同時に、 看護職就業の環境整備が絶対に必要である。
次に、「看護教育のあり方としての長期的問題」看護師の質の向上に関して、看護基礎教育の充 実のため現行の3 年過程から4 年過程へ「大学化」することが文科省・厚労省で検討されている。 看護学校等の看護師養成所では定員割れがある。大学にしたら希望者が多く、定員割れは生じな いとの言い分である。
医師会側は、これまでうまくいっているのに、制度の変更の必要はないと、それぞれに意見が あって看護教育の年限制度の変更については平行線のままである。定員割れに関して、那覇市医 師会の准看学校入学状況を、同席した那覇市医師会山城千秋担当理事にお聞きしたら、希望者が 殺到して選抜するのに苦労したとのことである。工夫次第で活性化できるとの意見である。
各都道府県医師会との協議では、医師会立看護学校について問題点が提起された。補助金の事、 専任教員・講師の確保が困難、病院の統廃合で実習病院確保に非常に苦労している事。
厚労省が把握している看護師不足、看護師の需要供給は、実態に即していない。地方の実情は、 看護師不足が非常に深刻である。専任教員・講師など教育環境等が充実しておれば、文章化はで きないが、定員オーバーしても黙認するとの印象であった。その他議論百出、時間切れになった。
各地の嘆きを聞けば聞くほど、気分が憂鬱になる。嘆くだけでなくこの時代を生き抜く知恵を!
なお、本文にもあるように、平成21 年度日本医師会が初めての試みとして実施した「潜在看護 師再就業支援モデル事業」については、本県では那覇市医師会那覇看護専門学校が参加し、同校 の既卒者を対象に再就業についての意識調査を行った。有効回答数は212 人。調査の結果から、 潜在看護職員151 名中75 名(49.6 %)が復職を希望していることが分かり、積極的に再就業支援 を行う必要があると感じた。
各地のさまざまな悩みも聞け、実りある協議会であった。