常任理事 安里 哲好
本年度第2 回全国メディカルコントロール協 議会(MC)が平成21 年1 月30 日、グランメ ッセ熊本コンベンションホールで行われた。主 催は総務省消防庁、共催は厚生労働省と日本医 師会であった。小林國男会長は、救急搬送時の 受入れ困難例がある現状を改善して行かなけれ ばならないことや医療機関の集約化の必要性に ついても言及し、国民の安心できる救急搬送と 医療機関との連携プレイの充実が望まれると述 べていた。各地域におけるMC は活動の内容や 仕組みに大きな格差があり、その質の向上のた め、アンケートを取り、それに基づき、今回の テーマは取組みの現状と工夫そして連携を提案 したと挨拶していた。
テーマ1 の「メディカルコントロール体制充 実のための取組み」について、三地域から報告 があった。1)「中部地方メディカルコントロー ル協議会連絡会の取組み」について、野口宏氏 より報告があった。中部地方8 県にて、MC 体 制の現状と課題について、相互の情報を交換 し、MC に関わる近隣地域との各種格差が多く 存在することを確認し、今後いかに改善して行 くかが、懸案事項として共有されたと述べた。 2)「栃木県のメディカルコントロール体制充実 のための取組み−小山・芳賀地区の新たな取組 み−」について菅原康一氏より報告があった。 栃木県MC の下に、県内5 つの各救急救命セン ターを中心とした地域MC がおかれている。内 容的にはほとんどが国からのものをそのまま使 用し、積極的な県MC 体制とは言い難く、蘇生 率も全国平均の半分しかない。一方、地域MC も、保健所、医師会、消防本部、病院等の各機 関のトップで構成された御仕着せもので、現場 の救急救命士の声を生かすことが難しい状況に あり、地域MC に一体感は感じられないのが実 情と感じ、地域MC において、救急救命士を中 心にドクタカーWG,プロトWG に取り組んだ。 会議は最小にしてメーリングリストで、地方消 防は保守的なので組織をきちっと見据え、単に 全国の先進的な大都市のモデル的MC 体制を真 似すれば良いのではなく、地方消防の特性、地 域の実情に合わせた、きめ細かい対応が必要で あると述べていた。地域消防の救急隊はほとん ど消防隊との兼務体制である現状も述べてい た。3)「長崎県版検証用返信票を用いた救急医 療実態調査及び病院前救護レベルの向上を目指 した取組みについて」の発表が高山隼人氏より 行われた。
テーマ2 の「円滑な搬送を確保するための消 防と医療の連携」について、4 報告があった。 1)「熊本県メディカルコントロール体制の現状 と課題」について、木下順弘氏より報告があっ た。1)県MC が積極的に活動し、MC 基幹病院 は救急救命士の実習や地域MC への参画にも大 きな役割を果している。2)搬送記録を医療機関 から消防への返信を義務づけ、受入れる医療機 関からの搬送中活動への助言を得る機会とし た。3)救急隊員の自己研鑽と再教育のため、県 内各地を輪番する教育セミナーを発案し、地域 MC 協議会と共催で救急現場に即したテーマで 年4 回のペースで行い、救急隊のみならず一般 の消防隊員、地域の医師、看護師らが多く参加 した。その他多くの活動をしている現況を報告 しており、積極的に展開していることに印象深 かった。2)「愛知県における救急搬送体制構築 の取組みについて−医療機関と連携した事前管 制システムの構築−」について、後藤玲司氏よ り報告があった。1)名古屋市の事前管理システム: 119 番通報の受信内容から傷病者がCPACPA の疑いがあると判断した場合には、通信 指令職員が予め医療機関を調整し、搬送先を決 定する仕組み。2)愛知県の新たな取組み−携帯 電話を活用した救急医療情報新システム−:平 成21 年4 月より運用予定。3)「大阪・泉州地 域における特定疾患患者の受入体制の強化−そ の経緯と成果−」について、金森佳津氏より報 告があった。平成19 年末、搬送先選定に難渋 した高齢の消化管出血の患者が搬送先の病院で 死亡した事案が発生し、大きく報道された。こ れを機に、それ以前から危惧されていた大阪府 の救急医療体制の疲弊と危機的状況が一挙に露 になった。財政厳しい中、限られた財源を振り 分けて取り組んだ。認定基準変更による二次救 急医療機関の確保と、地域の実情に応じた重症 救急患者の受入体制の強化。4)「円滑な救急搬 送を確保するための消防と医療の連携につい て」、開出英之氏より報告があった。政令市別 に医療機関の受入状況をみると、大都市であっ ても医療機関の選定困難事例がほとんど無い地 域が認められた。こうした状況から、救急搬送 における病院選定から医療機関における救急医 療の提供までの一連の行為を円滑に実施するた めには、消防機関と医療機関が連携し、地域の 搬送・受入のルールを策定し機能させること が、きわめて重要であると述べていた。
本年度は、熊本への出張は5 回目で、その内 2 回は今週で、その間に東京への日帰りが1 回 あった。今回は日帰りの予定であったが、スケ ジュールは一泊となっていた。会場は熊本市の 中心部から、バスにて40 分程度で、協議会終 了は午後5 時と成っており、福岡経由の日帰り は厳しかったかも知れない。週3 回の県外出張 で、身体が揺れていたのか、協議会場では集中 力に欠けていたが、印象記を書くにあたって、 各県ともいろいろな背景の下に自助努力や創意 工夫をしていることを如実に感じた。当県MC は救急救命士の育成(事例検討も含め)の現状 や蘇生率は全国平均レベルにあるのかと思う も、急患搬送時の収容率は99 %以上と良好に て、徐々にステップアップすれば良いと考える。一方、消防署統一の方向性の中で、全県下 コントロールタワーの構築(医療機関と連携し た管理システム)の準備が望まれる。
平成20年度 第2回 全国メディカルコントロール協議会連絡会プログラム
1 開 会
全国メディカルコントロール協議会連絡会 小林國男 会長 挨拶
2 メディカルコントロール体制充実のための取り組み
【座長】坂本哲也(帝京大学医学部救命救急センター)
(1)中部地方メディカルコントロール協議会連絡会の取り組み 野口 宏(愛知医科大学救命救急科)
(2)栃木県のメディカルコントロール体制充実のための取り組み
−小山・芳賀地区の新たな取り組み−
菅原 康一(栃木県救急医療運営協議会病院前救護体制検討部会小山・芳賀地区地域分科会事務局(小山市消防本部))(3)長崎県メディカルコントロール協議会の取り組みについて
−長崎県版検証用返信票を用いた救急医療実態調査及び病院前救護レベルの向上を目指した取り組みについて−
高山 隼人(長崎県メディカルコントロール協議会)(4)質疑
(休憩)
3 円滑な救急搬送を確保するための消防と医療の連携
【座長】有賀 徹(昭和大学医学部救急医学講座)
(1)熊本県メディカルコントロール体制の現状と課題
−脳卒中の救急医療体制とメディカルコントロール体制とのかかわり−
木下 順弘(熊本県メディカルコントロール協議会)(2)愛知県における救急搬送体制構築の取り組みにつ いて
−医療機関と連携した事前管制システムの構築−
後藤 玲司(愛知県防災局消防保安課)(3)大阪・泉州地域における特定疾患救急患者の受入体制の強化
−その経緯と成果−
金森 佳津(大阪府健康福祉部医務・福祉指導室医療対策課)(4)円滑な搬送を確保するための消防と医療の連携について
開出 英之(総務省消防庁救急企画室)(5)質疑
4 特別報告事項
秋葉原多数死傷者発生事象事後検証結果
山本 保博(東京都メディカルコントロール協議会事後検証委員会)5 関係省庁からの報告事項
6 その他
7 閉 会