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さよならノア号

野村謙

国立療養所沖縄愛楽園
野村 謙

今から10 年前のことになるが、体調を崩し て1 ヵ月ほど自分の勤務する外科病棟に入院し た。前日まで向こう側の人間(医療者側)で回 診していたのに、気がついたらこちら側の人間 (患者側)で回診されていた。ショックだった。 約1 ヶ月間こちら側から病棟をみていた。当た り前のことだが、病棟の風景は自分が向こう側 にいようがこちら側にいようが、変わらなかっ た。退院後少し肩の力を抜いてみることにし た。しばらくして車を買い換えた。

親父の形見の12 年落ちのボロボロ『トヨ タ・クレスタ』にかわって、ファミリーカー 『トヨタ・ノア』が我が家にやってきた。夫婦 と子供4 人で休日は食料を詰め込んで各地に出 かけた。車高が高いため横揺れが気になるもの のその代わり運転席からの眺めはとてもいい。 この車が大変気に入った。

車好きの親父が、毎週日曜日に愛車をピカピ カにしてる姿をみながら、その脇で自分の自転 車に一生懸命ワックスがけをしていた子供時代 がよみがえってきた。『ノア号』にはまった。

『ノア号』にはまった大きな理由は別にある。

1999 年当時、新車で購入した『ノア号』(仲 間うちでは通称、3 型1))には、外観上にある特 徴があった。リアのコンビネーションランプの テールランプが縦に3 灯あるように設計されて いるが、実際に点灯するのは最下段の1 灯のみ であった。そのころライバル車であるホンダ・ ステップワゴンが大型のテールランプが縦に3 灯点灯するのをみていたので夜間における『ノ ア号』の後ろ姿のショボさが気になっていた。

ある晩、仕事からの帰り道、はじめてテールラ ンプが3 灯点灯したノアを見かけた。「おっ、い いじゃん!」、早速ネット上で情報を収集した。

『トヨタ・ノア』に関する情報交換をおこな っている、メーリングリスト『Noah Noah2)』 (http://yokohama.cool.ne.jp/noahnoah/)に 行き着いた。(写真1)すぐに、情報は入手でき た。テールランプ3 灯点灯は、『シャインテー ル』という定番のカスタマイズであった。おそ るおそるメールを投稿してみた。作業方法など について、丁寧なアドバイスが返ってきた。ま た、メンバー間で共有する、カスタマイズに必 要な工具『ホールソー』が、八戸の方から送ら れてきた。ちょっとびっくりした。使用後は次 の利用者(大阪の方)へ送った3)

(写真1)

(写真1)一度は参加したかった全国オフミ

喘息がちな子供たちのためにフロアにフロー リング敷設をおこなった。このときは、奈良の メンバーから敷設用の型紙が送られてきた。そ の後も調子にのって、ボンネットをフードバル ジ付きに載せ替えたり、大小さまざまなカスタ マイズをしてゆき、いつの間にかホームページ を立ち上げ、ノウハウを紹介するに至り、質問 を受ける立場になっていた4)

そんなある日、ネット活動で新たなステージ へと進んだ。

「沖縄に家族旅行に行くのですけど、オフミ5) しませんか?」とのメールが来た。

「えっ?何?ネットの向こうから誰か来るっ て?」

「ん〜っ、これってちょっとヤバクない?」 ためらった末に会ってみることにした。

「真っ白なスーツに胸に真っ赤なバラを付け たのが私です。」―なんて馬鹿なメールをやり 取りした後、リゾートホテルのロビーで全くの 初対面のメンバーと会った。自分と同年代の方 だった。4 人家族の沖縄旅行中だった。共通の 話題があるのはいい、あっという間にうちとけ て時間を忘れて話し込んだ。その後数年その方 とは毎年夏に家族同士で会う間柄になった。

もともと、30 代を中心とする若い家族層をタ ーゲットに作られた車である、当然の事ながら 『Noah Noah』のメンバーの職種はさまざまで あるが、年齢・家族構成・趣味などの関心事項 に多くの共通点がある。意気投合するはずだ。

調子に乗って学会出張で東京に出かけたつい でに、関東地区の忘年会に参加して大歓迎を受 けた。楽しかった。名古屋で学会があった。7 名のメンバーが集まってくれ、『名物みそ煮込 みうどんオフミ』をしてもらった。これは愉 快。沖縄にも累計7 名のメンバーが観光や仕事 でやってきては、沖縄オフミを開催した。911 の同時多発テロの風評被害のあった頃には沖縄 県挙げての観光キャンペーン『だいじょうぶさ ぁ〜沖縄』の真っ最中にあわせて『だいじょう ぶさぁ〜沖縄オフミ』をおこなった。「俺って 結構沖縄観光に貢献しているかも」、なんて思 った次第である。

1999 年当初から、メーリングリストが行う毎 年のアンケートでいつも沖縄県のメンバーは私1 人が続いていたが、2002 年から1 人2 人と徐々 にメンバーが増え、ついに本来のオフミである 車で参加のオフミを開催するに至った。(写真2)

フローリングノア・のむら号6)で小学生の息子と幼稚園の娘を連れ車中泊をしながらドライ ブした。フローリングがとても寝やすい。オー トキャンプもした。アウトドアクッキングもし た。潮干狩りにも行った。鯉のぼり祭りにも行 った。比地の大滝にもいった。・・・とにかく ノアライフを満喫した。

毎日往復140km の道のりを通勤し、月まで の距離を走破する目標であったが、最近のガソ リンの値段高騰には耐えられなかった。たくさ んの思い出のつまった愛車ノアと別れを告げ た。さよならノア号、総走行距離264,065km で現役を終えた。

(写真2)

(写真2)社員旅行で来沖したメンバーを交えての第7回沖縄オフミ

1)98 〜 01 年製造の旧型、現行機種は8 型

2)現在の登録者数1,272 名

3)この工具は、10 年近くたった現在も日本全国各地を行き交っている。

4)遠くはシンガポールからの問い合わせもきた。

5)オフラインミーティングのことネット上ではなく直接集まること。

6)それぞれの愛車は「名前」+号と呼ばれていた。