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初期研修で習得してほしいもの
〜指導医の立場から期待すること〜

上江洲徹

南部徳洲会病院研修管理委員長(心臓血管外科)
上江洲 徹

新初期臨床研修制度がはじまり5 年目を迎 えた。

来る3 月には4 期生が初期研修を修了するこ とになり、徐々に研修制度が根付いてきてい る。その反面、医師不足や偏在が大きな話題に なり新制度がその原因との声も上がっている。 しかしながらこの臨床研修制度は長所、短所は あるにしろ、一番の目的は幅広い知識を持った 医師を育てるということであり、その柱を築く ための2 年間であると思う。

当院は群星沖縄の一管理型病院として初期臨 床研修を行っているが、私はこの研修制度が始 まる年に入職し、3 年前に研修管理委員長に任 命された。

転勤してきた頃の研修医(第1 期生)を見て 印象に残っていることは、かなり高いモチベー ションをもって意欲的に臨床研修に取り組んで いる姿であった。新臨床研修制度の第1 期生で あり、自ら大学以外での研修を選んだというこ ともあるのだろうが、いろいろなことに積極的 であったと記憶している。その研修医も今年度 は第5 期生となり、そのシステムもある程度確 立され始めているためか、将来選択しない科の 研修ではやる気のない態度をしめすようなこと がインターネットなどで散見される。

幸い当院の研修医はそんなことはなく頑張っ ているようなので安心しているが、要はポリク リの延長のような気分になっている人にそのよ うな態度が現れるのではないだろうか。

患者さんはいろいろな合併症をもっているこ とが多く、専門科の知識以外も必要なことが 多々あり、将来は選択しない科の研修こそしっ かり勉強しなくてはいけないし、いつかその経 験がいかせる時が来ると思う。

今の研修制度は、カンファレンスや教育回 診、教育講演など周りから知識を得られる機会 が増えており、それを多く提供できることも研 修病院を決めるひとつの要素となっている。

しかし、臨床研修は与えられたものだけこな していればいいというものではなく、何か変わ ったことはないか、何か特別な処置をしていな いかなど自分のアンテナをのばして情報を得る ということが以前に比べて不足しがちではない かと感じている。

古い研修制度の中では最初から希望する科に 入局してその技術や知識を学んでいたが、早く 一人前になりたくて時間が空いていれば担当で ない患者さんの処置や検査、手術などを見に行 き、上級医が担当している患者さんの抜糸や創 処置、内服切れの処方など、ある意味雑用的な 仕事もすすんで行ったものだ。いわゆる“Give & take”であるが、提供されることに慣れてし まうのではなく、自分からすすんで苦労するこ とも忘れないでほしいと思う。

先日、一国の首相の医師に対する発言が話題 となったが、発言した本人も問題であると同時 に、どんな世界にも常識から外れたことを平気 で要求する人がいるのも事実だ。

医療は患者さんの病気を治すことが使命であ るが、そのためには患者さんやその家族からの 信頼を得るとともに、治療を行う上で看護師さ んを始めとするパラメディカルや事務職員との コミュニケーションも重要だ。

患者さんのためということを盾にして、周りの状況を顧みず処置を急いだり、思うようにい かないと文句を言ったりするといった話を耳に する。緊急の時はある程度しょうがない状況も あるだろうが、周囲の状況を感じ取ってお互い のコミュニケーションを良くしていくことも習 得すべき必要な要素だと思う。

巷では“KY”という言葉が流行している。 みなさんもご存じのとおり“空気読めない”と いう意味であるが、これは社会生活の中で非常 に重要なポイントであると思う。どんな時も周 囲の状況をしっかり把握し、さらに相手(患者 さんやその家族、スタッフも含めて)が何を要 求しているか、どんな事に困っているのかを的 確にとらえるということにつながっていくと思 う。自らの主張ばかり繰り返すのではなく、相 手を思いやる気持ちを養い、一人の医師である 前に一人の社会人として成長していってほしい と願っている。

いろいろと述べてきたが、疾患に対する診断 や治療は、初期研修修了後も勉強して行かなく てはならないことで、医師ならば誰でも行って いることであり、後期研修から専門医に進んで 行くためには当然のことである。

初期研修は診断、治療の進め方をしっかり学 んでもらいたいと思うが、個人的には、初期研 修で一番習得して欲しいことは、患者さんやそ の家族、まわりのスタッフとのコミュニケーシ ョン能力である。

患者さんとのコミュニケーションは顔を合わ せたその瞬間から始まっており、病歴聴取、検 査や治療方針の説明などしっかり理解してもら わないといけない。

家族に対しては、患者本人以上にしっかり説 明して理解させることがコミュニケーションで あり、周りのスタッフには治療方針を的確に伝 えるとともに、スタッフから得られる患者情報 の収集が大きな役割を果たす。また上級医や同 僚に対しても自分の考え方を伝え、アドバイス には真摯な態度で対応することを期待してい る。医療は自分だけで行うものではなく、同僚 や看護師さん、パラメディカル、事務職員など まわりのスタッフがいるからできるものである ということを肝に銘じていただきたいと思う。 これは私が新研修医の入職時オリエンテーショ ンで、最初に話していることでもある。

研修医諸君、今が医師としての柱を築く一番 大切な時期ということを忘れずに、より良い医 療を行うために何が必要かを考えてみてほしい。