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アレルギー性結膜疾患とその治療について
〜アレルギー週間(2/17 〜 2/23)に因んで〜

外間英之

外間眼科医院崇元寺 外間 英之

はじめに

「沖縄はスギ花粉がなくて眼科は大変でしょ う。」と本土の眼科医によく言われます。大変= 患者さんが少なくてという意味で、もちろん患 者さんにとってはいいことです。しかし、日常 診療していますとけっしてアレルギーが少ない わけではありません。高温多湿という気候から ハウスダストのダニや砂埃による通年性のアレ ルギー性結膜炎は多くみられます。また治療に 大変苦慮した重症の春季カタルも経験しまし た。全国的にも全人口の15 〜 20 %がアレルギ ー性結膜疾患を有するといわれており、症状の 重症化や低年齢化が問題になっています。今回 はあらためてアレルギー性結膜疾患と治療につ いてまとめてみます。

1.アレルギー性結膜疾患の病型

アレルギー性結膜疾患はT型アレルギー反応 による結膜炎症性疾患の総称であり、その病型 は、1)アレルギー性結膜炎(季節性・通年性)、 2)アトピー性角結膜炎、3)春季カタル、4)巨大 乳頭結膜炎の4 型に分類される。アレルギー性 結膜炎は結膜に増殖性変化(眼瞼結膜に乳頭増 殖という苺状にぶつぶつと隆起する変化や角膜 周辺の結膜が堤防上に隆起する変化)のない疾 患であり、巨大乳頭結膜炎はコンタクトレン ズ、義眼、手術用縫合糸などの機械的刺激によ り結膜に増殖変化を伴う疾患である。これらは 自覚的に痒感、異物感などあるが、角膜病 変(角膜の傷や混濁など)は伴わない軽症型と なる。一方、アトピー性角結膜炎は顔面にアト ピー性皮膚炎を伴う慢性型アレルギー疾患で、 結膜の増殖性変化や角膜病変を認めることがあ る。また、春季カタルは増殖性病変を有し高率 に角膜病変を伴う。これらの疾患は角膜病変に より異物感、眼痛などをきたし視力障害もおこ す重症型になる。

2.アレルギー性結膜疾患の診断

日本眼科学会のアレルギー性結膜疾患の診断 基準では、以下のように定められる。

臨床診断:アレルギー性結膜疾患に特有な臨床 症状がある。

準確定診断:臨床診断に加えて、血清総IgE 抗 体増加や血清抗原特異的IgE 抗体陽性、また は推定される抗原と一致する皮膚反応陽性。

確定診断:臨床診断または準確定診断に加え て、結膜擦過物中の好酸球が陽性。

本来このように診断を確定するべきだが、実 際の外来ではほぼ臨床所見で診断することが多 い。まず、自覚症状は痒みと異物感、眼脂であ る。眼脂は細菌性の膿性、ウィルス性の粘つく 漿液性と異なり、リンパ球や好酸球を主成分と した白色の粘り気の少ない漿液性眼脂がみられ る。他覚所見として一般的には結膜の充血・腫 脹、結膜濾胞、結膜乳頭を認める。結膜濾胞と は眼瞼結膜のリンパ濾胞で、乳頭とは眼瞼結膜 の繊維性増殖であり苺状に粒々とした所見がみ られる。結膜乳頭は1mm 以上になると巨大乳 頭となり、巨大乳頭結膜炎や春季カタルに特徴 的所見である。次に特異性の高い所見として結 膜浮腫、トランタス斑がある。結膜浮腫はアレ ルギーによる血管拡張から結膜下に血漿成分が 漏出して起こる。(「痒くてこすっていたらドロ ッと目が溶けてきたー」と慌てて病院にくる方 もいます。)トランタス斑は結膜上皮の増殖・変性した小隆起病変で、角膜の周辺にぼつぼつ と堤防状にみられる。他に角膜病変は主に角膜 上皮の傷であるが、擦れてとれた上皮細胞やム チンが傷の周囲にこびりつき、春季カタルなど で遷延化すると沈着し角膜プラークという混濁 をみとめることがある。これら自覚症状と他覚 所見がある程度揃っていれば、アレルギー性結 膜炎と診断する。

写真1

写真1:春季カタルの巨大乳頭

3.アレルギー性結膜疾患の治療

治療の中心は原因抗原の除去と薬物治療であ る。一般的には抗アレルギー点眼とステロイド 点眼でほぼコントロール可能だが、難治例に対 し様々な治療が行われる。

1)原因抗原の除去・回避

通年性アレルギーの抗原としてヒョウヒダニ や真菌、季節性として花粉などがあげられる。 除去としてはこまめな掃除や換気、除湿などが 有効で、掃除機や空気清浄機でも十分に対応で きる。また花粉の時期には時間帯や気候によっ て外出を控えたり、防御メガネやマスクで回避 することも大切である。帰宅時や症状の強いと きは人工涙液点眼(水道水でも可)で眼を洗浄 し、抗原を洗い流すことも効果が期待できる。

2)抗アレルギー点眼薬

メディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1 拮抗薬があり、メディエーター遊離抑制薬は即 時相反応と遅発相反応を軽減し、ヒスタミン H1 拮抗薬は即時相反応の代表であるヒスタミ ンの作用を強く抑制する。筆者は、慢性疾患に は予防効果も期待しメディエーター遊離抑制薬 を使用し、季節性アレルギーや掻痒感の強い症 例では即効性を期待しヒスタミンH1 拮抗薬を 使用している。また、疾患のピークが10 代で あることから、学童期の患者には点眼回数が少 なく刺激の少ないものを使うなどコンプライア ンスを意識することも重要と思われる。

抗アレルギー薬の内服については有効性が定 かではなく、結膜炎に対する保険適応もないた め他のアレルギー性疾患を合併する時にのみ使 用される。

3)ステロイド点眼薬

抗アレルギー薬で効果の弱い時に使用する。 まず低力価(0.02 %、0.1 %フルオロメトロン) から開始し、必要に応じて高力価(0.1 %ベタ メタゾン)に変更していく。副作用として眼圧 上昇、白内障、易感染性に注意を要し、特に小 児では眼圧上昇に注意が必要である。副作用を 認めたら直ちに投与を中止する。

ステロイド眼軟膏は点眼ができない場合や就 寝中の効果を期待して使用することがある。

4)ステロイド薬の局所注射

ステロイド点眼薬で改善がない場合、眼瞼型 にはトリアムシノロンアセトニドやベタメタゾ ン懸濁液を上眼瞼の瞼結膜下に投与する。眼球 型(角膜輪部に増殖変化がある)では、デキサ メタゾンやベタメタゾンの球結膜下注射を行 う。それぞれ効果に応じて追加投与を行うが、 懸濁液では1 か月程間隔をあけることが望まし い。また、懸濁液の球結膜下への投与は眼圧上 昇がほぼ必発のため禁忌である。

5)ステロイド内服薬

ステロイド点眼薬で効果が不十分であり、局 所注射が困難または角膜上皮欠損のある症例に 用いる。一般的にプレドニゾロン0.5mg/Kg/day から開始し1 〜 2 週間で漸減する。他のアレル ギー疾患を合併している場合は、投与中止時の 増悪があるため他科との連携が必要である。

6)免疫抑制点眼液

2006 年より春季カタル治療薬としてシクロスポリン点眼薬( パピロックミニ点眼液 0.1 %(R) )が認可されている。シクロスポリン はT 細胞の遺伝子転写を阻害し、IL-4 やIL-5 などのサイトカイン産生を抑制することにより 乳頭での炎症を抑える。ステロイドと異なりよ り選択的にT 細胞に作用することと眼圧上昇な ど副作用が少ないことから効果が期待されてい る薬剤である。

また、現在アトピー性皮膚炎の治療薬として 認可されているタクロリムス(FK506)も、春 季カタルに有効との報告があり、製品化の期待 される薬剤である。

7)外科的治療

薬物治療で症状が改善しない症例に対し、結 膜乳頭切除を行う。乳頭増殖による角膜障害に より眼痛と視力低下から日常生活に支障をきた す場合、術後速やかに症状の改善が得られる。再発を認める症例では繰り返し切除可能である が、0.05 %マイトマイシンC の併用や術後早 期にシクロスポリン点眼を開始し有効であった との報告もある。

角膜プラークにより視力障害となる場合、角 膜プラークの外科的掻爬を行う。

写真2

写真2:角膜プラークの外科的掻爬

まとめ

一般的には点眼でコントロール可能な軽症例 の多いアレルギー性結膜疾患ですが、全体の 1.6 %、小児では約10 %が春季カタルのような 重症例といわれています。これまでは重症例に 対し、抗アレルギー点眼薬にステロイド薬の併 用一辺倒でしたが、シクロスポリン点眼薬の登 場により、ステロイド副作用時の代用として、 もしくはステロイドとの併用でさらに強い効果 を求める、さらには抗アレルギー点眼薬の次に 早期より使用し重症化を防ぐなど治療の幅が広 がりました。今後とも更なる有効な薬剤の開発 が望まれます。また、これらの治療でも再発を 繰り返し、角膜障害により眼痛・視力障害を起 こして通学困難になる小児もいます。このよう な場合も治療を工夫し対症療法に努め、疾患の ピークが10 代半ばにあることやその後は軽快 する場合が多いことを本人や家族に理解させる ことも大切に思います。ながながと書きました が、何かの一助になれば幸いです。