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『アレルギー週間(2/17 〜 2/23)』に寄せて

奥間稔

豊見城中央病院小児科 奥間 稔

皆さんは、『アトピー』という言葉の起源を 知っていますか。『アトピー』という言葉は、 古代ギリシャ語に由来していることが判明して おり、古代ギリシャ時代には、『奇妙な』とい う意味があったそうです。つまり、アレルギー 疾患は、古代ギリシャ時代にはすでにその存在 が確認されており、古代中国でもそれに類似し た文献の存在が証明されています。

しかし、少なくとも数十年前までは、気管支 喘息を含めたアレルギー疾患は、それほど身近 な疾患ではなかったはずです。ところが現在で は、杉やブタクサなど沖縄県には存在しない花 粉症の急激な増加なども相まって、全国的には 日本人の約1/3 が何らかのアレルギー疾患を有 するといわれる程、アレルギー疾患は日常診療 上、きわめてよく遭遇する疾患となっていま す。特に、杉花粉症に関しては、国の方針で積 極的な植林事業が実施され、それが国民病とい われるほど、杉花粉症を増加させた重要な一因 であるといわれています。

そのため、1 月中旬から下旬になると、他都 道府県の耳鼻科や眼科を含めて、大忙しの状態 を招いているわけです。

また、アレルギー症状は、鼻や眼だけに限ら ず『頭から足の先まで』あらゆる部位に出現す るため、『かゆみ』を代表的な症状として患者 の日常生活に著しい障害を及ぼしますが、それ に対する薬剤によって、逆に眠気などが出現 し、一層患者の日常生活に支障をきたすなど、 非常にデリケートな一面もあります。そのた め、アレルギー疾患の診断・治療に、難渋する こともあると思われます。しかし、その反面あ まりにありふれているがゆえなのか、患者やそ の家族の訴えが軽くあしらわれてしまう傾向も あり、Doctor shopping を招いたり、ひいては 医師・医療不信を招くこともあります。特に、 民間テレビ局で、『ステロイド軟膏はとても怖 い薬ですね』という無責任極まりない一言か ら、一時アトピー性皮膚炎に対するステロイド 外用が極端に制限された時期もありました。そ の結果、いわゆる民間療法やそれに準じた特 殊?医療にのめり込み、不幸な転帰をとる食物 アレルギー児が各地で報告されたり、アトピー 性皮膚炎に対する無理解から、患児が学校生活 を含めた日常生活において、いじめや差別を受 けたりなどの問題も起こりました。

このような、種々の問題の解決策の一環とし て、各アレルギー疾患に関するガイドラインが出 版されるようになり、成人・小児における気管 支喘息を初めとして、アレルギー性鼻炎やアレ ルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎そして食物 アレルギーさらに蕁麻疹に至るまで、すべてのア レルギー疾患を網羅するまでになっています。

しかし、残念ながらその普及は順調に進んで いるとはいえず、したがって、個々の医師によ り診断・治療法が大きく異なることも稀ではな く、それがさらなる患者側の混乱およびそれに つけ込むアトピービジネスの横行を招いている という側面も依然として存在しています。特に 小児においては、その傾向が強く、耳鼻科・皮 膚科・小児科と3 つの診療科を掛け持ちで受診 しており、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬を 2 ヵ所から処方されていたりする例にも、時々 遭遇します。さらに困ったことに、そのような 例では往々にして基本的な生活指導が不十分で あり、3 時間待ちの3 分(以下)診療を受けている例が多いことも事実です。最近、患者の権 利や医療のコンビニ化などが盛んに取り上げら れますが、あるテレビ番組ではありませんが、 行列のできる○○医院において、ベターあるい は少なくともベストの医療を提供できるとは思 われませんが、患者心理というのは不思議なも ので、そういう診療所や病院が繁盛?している のも事実です。確かに、患者には医師あるいは 医療施設を選ぶ権利があるわけですが……。

忙しい日常診療において、生活指導を実践し ても何ら診療報酬には反映されないのが現状で はありますが、アレルギー疾患のみならずあら ゆる慢性疾患において、適切な生活指導なしで 薬物療法がうまくいくはずがないことは自明の 理です。

毎年、日本人である石坂夫妻がIgE 抗体を発 見した日を記念して設けられている『アレルギ ー週間』ですが、アレルギー疾患診療に携わっ ている個々の医師が、少し時間を割いて、患者 や家族と一緒に、せめて悩みを共有し、一緒に 治療していく姿勢を培うよい機会になれば幸い です。

なお、手前味噌で申し訳ありませんが、アレ ルギー週間にあわせて2 月21 日土曜日午前10 時30 分から、勉強会を実施いたしますので、 参加希望の患児およびその家族がいらっしゃい ましたら、当院までご連絡頂ければありがたく 思います。気管支喘息やアトピー性皮膚炎およ び食物アレルギーなどについて、患者の皆様か らの質問をお受けしたいと思います。