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耳鼻咽喉科医の考える めまい診断

大田重人

琉球大学医学部附属病院
耳鼻咽喉科
大田 重人

1.はじめに〜めまい・ふらつきとはなにか?〜

私たちはほとんど無意識に空間を認識し、2 足直立の不安定な体で安定したバランスを保ち ながら日常生活を行っています。これは私たち の体に平衡機能が備わっているからです。平衡 機能は視覚系、前庭系、自己受容感覚(深部知 覚)系からの情報を運動反射や姿勢反射により 眼球運動、骨格筋運動として引き起こすことで 行われ、それぞれの中枢を介して制御されてい ます。このシステムのどこかに異常をきたせ ば、めまい、ふらつきが出現するわけです。め まいとは“身体の位置や運動に関する異常感 覚”と表現され、異常感覚からくる不快感や不 安感も含んだ、いわば心理的な現象といえま す。一方、ふらつきは姿勢反射の障害からくる 体の動揺や運動異常といった自他覚的な身体現 象です。

2.めまいの診断

T.問診

どんな疾患でも大抵はそうだと思いますが、 めまいを診断する上でもっとも大切なのは問診 です。診断の60 〜 70 %は問診によって決まる といわれます。めまいの表現はさまざまで抽象 的で曖昧なことも多く、ある程度疾患を想定し た誘導も必要となってきます。いろいろな本に めまい診療のフローチャートを見かけます。ど れか一つ頭にいれておくと、考えをまとめる助 けになり、自分の経験によって枝葉が増えてく るものと思います。耳鼻咽喉科めまい外来での 統計では原因不明のいわゆるめまい症が全体の 20 〜 30 %をしめると報告されています。(宇 野ら;日耳鼻104.1119-1125,2001)そのた め診断に苦慮することが多々ありますが、大切 なのはめまい患者の不安な心理状況を理解し、 その原因を見つけようとする姿勢だと考えま す。以下に耳鼻咽喉科医の考える問診のポイン トを示します。

<問診のポイント>

性状:めまい−1)回転性(vertigo)、
          2)浮動性(dizziness)、
          3)眼前暗黒感(black out)、立ちくらみ(light-headedness)
    ふらつき−4)バランスがとれない、平衡失調(ataxia)

発症:突発性or 持続性、持続時間 (一瞬、数分、数時間、数日)

経過:単発性(初発)or 反復性

誘因:なしor あり(頭位、頭位変換、頚部捻 転、起立、歩行、運動、入浴、外傷、潜 水、乗り物、ストレス、過労など)

随伴症状:蝸牛症状(難聴、耳閉感、耳鳴)、 自律神経症状(悪心・嘔吐、冷汗)中 枢神経症状(しびれ、運動麻痺、知覚 障害、言語障害、意識障害、視力・眼 球運動障害、頭痛、小脳性失調)

既往:高血圧、糖尿病、高脂血症、心疾患、 不整脈、中耳炎など

薬剤:アミノ配糖体系抗生剤(ストレプトマ イシン、ゲンタマイシンなど)、抗けい れん剤、抗ガン剤、利尿薬など

U.めまいの検査

問診で得られた情報を基にある程度の疾患を 想定し、鑑別に必要な検査を施行していきま す。実際にはルーチンでする検査はある程度決 まっていて、検査を行いながら問診を追加した り、次に必要な検査を考えていきます。ルーチ ンで行える簡易検査と2 次的に施行していく精 密検査とに分けて耳鼻咽喉科的めまい検査を示 します。

<簡易(スクリーニング)検査>

  • 1)一般診察:バイタルチェック、貧血の有無、 神経学的所見(小脳・脳幹機能異常など)
  • 2)耳鼻咽喉視診(中耳炎の有無など)
  • 3)純音聴力検査 (あるいは音叉によるWeber、Rinne 検査)
  • 4)眼振(注視・自発・頭位・頭位変換)検査 (フレンツェル眼鏡、CCD カメラ)
  • 5)耳単純X線(Schuller、Stenvers、経眼窩法)
  • 6)体平衡検査:両脚直立検査(ロンベルグ)、 マン検査、単脚直立検査 足踏み検査、重心動揺検査

以上の検査により中枢性か末梢性(内耳・前 庭性)かを判断し、精密検査へと進めます。

<精密検査>

  • 1)平衡機能検査:温度眼振(カロリック)検 査、回転検査、視運動性眼振検査、視標追 跡検査、急速眼球運動検査
  • 2)聴覚検査:蝸電図、耳音響放射、ABLB、 Bekesy、ABR
  • 3)画像検査: CT、MRI、MRA

V.主なめまい疾患とその特徴

問診、検査とすすめていくうえで、疾患が浮 かんでこなければ診断はできません。耳鼻咽喉 医の考える主なめまい疾患を列挙します。な お、日本めまい平衡医学会のホームページには “めまいの診断基準化のための資料”として16 のめまい疾患の解説が公開されているので参考 にするといいでしょう。

  • 1)メニエール病:蝸牛症状(難聴、耳鳴)を 伴い、めまい発作を反復する内耳性めま い。蝸牛症状はめまいに関連して消長す る。病態は内リンパ水腫と考えられてい る。低音部の聴力低下が特徴的である。初 回発作時には突発性難聴との鑑別が難しい ことがある。
  • 2)遅発性内リンパ水腫:高度難聴となった数 年〜 10 年後に同側あるいは対側に内リン パ水腫を生じ、メニエール病様のめまい発 作を繰り返す。
  • 3)突発性難聴:突然起こる原因不明の感音難 聴でときにめまいを伴う(約40 %)ことが ある。めまい発作をくり返すことはない。
  • 4)外リンパ瘻:ダイビング、重いものを持 つ、強く鼻をかむなど髄液圧あるいは鼓室 圧が急激に変化したあとに外リンパが内耳 窓から漏出し、難聴、耳鳴、耳閉感、めま いを生じる。
  • 5)前庭神経炎:突発的に発症し、激しい回転 性めまいが数時間続く。その後浮動感が持 続する。蝸牛症状は伴わない。通常、大発 作は1 回だけで、反復しない。上気道感染 が先行する場合がある。
  • 6)良性発作性頭位めまい症(BPPV):起床 時や臥床時に自覚することが多く、特定の 頭位にて回転性めまいを生じるが、じっと していると消失する。めまいをくり返して いるうちに減弱し、消失する。蝸牛症状を 認めない。めまい疾患の中でもっとも頻度 が高い。
  • 7)聴神経腫瘍:内耳道内に発生する神経鞘腫 で進行する一側性の難聴、耳鳴を主訴と し、めまいは軽度の浮動感で回転性めまい はまれである。
  • 8)椎骨脳底動脈循環不全:頚部の捻転、過伸 展で誘発され、回転性めまいが多く、浮動 感、眼前暗黒感のこともある。蝸牛症状は 通常伴わない。視覚障害、意識障害、しび れなどを訴えることがある。
  • 9)起立性調節障害:起立時の眼前暗黒感、立 ちくらみ。蝸牛症状を伴わない。