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無症候性虚血性心疾患をCT で評価する
― 冠動脈石灰化指数を中心に―

豊見城中央病院内科 玉城 正弘

【要 旨】

2000 年の沖縄の26 位ショック、2008 年の特定健診の開始、メタボリック症候群 の社会的認知より動脈硬化性疾患の早期発見、予防、治療介入が注目されている。 しかし、効率よく早期治療介入が必要な高危険因子保有者を特定するための検査に ついてのガイドラインがなく、臨床現場では困惑しているのが実情である。欧米で は単純心臓CT 撮影により算出される冠動脈石灰化指数(Coronary Artery Calfication Scoring, 以下CACS)を用いた心疾患患者の診断、イベントの予後推 定に関するデータ蓄積が多くあり、その有用性について認知され臨床に応用されて いる。本稿では無症候性心筋虚血患者の発見には有用であることを自験例と近年発 表されたScientific Statement、Expert Consensus を中心に紹介する。メタボリック 症候群先進県である本県でこの検査が普及し、メタボリック症候群克服先進県とし て再生されることを切に願う。

はじめに

2000 年の26 位ショックを機に沖縄は生活習 慣病に由来する動脈硬化性疾患の先進県として 注目されてきている。その上、メタボリック症 候群に介入し動脈硬化性疾患をより早期に治療 する目的で2008 年4 月より実施が義務づけら れた特定健診も開始された。我々医療従事者 は、無症候性高リスク群をいかにして効率よく 検査し治療を行うか、をより真剣に考えなけれ ばならなくなった。心血管事故の危険性を簡便 に推定する方法として、Framingham Risk Score、PROCAM Score がよく知られている が、それらは心血管事故が日本よりはるかに多 い欧米人を対象としたデータを用いていること から、本邦ではそのまま用いることはできな い。しかし、日本独自のデータベースがないと いう実情から、メタボリック症候群の中から如 何にして高リスク群を見つけるかは試行錯誤し ながらの診療にならざるをえないと思われる。 そこで、多くの患者を効率よく、非侵襲的に実 施できる検査法の登場が望まれるのである。

著者は平成8 年より電子線C T ( 以下、 E B C T)を臨床に用いる機会を得て、4 列 Multi-detector CT(以下、MDCT)、8 列 MDCT、64 列MDCT と用いてきた。また、最 近では沖縄県内でもMDCT が普及し、心臓の 画像診断法も一変してきた。そこで、本稿では 胸部単純CT で偶然みつかった冠動脈石灰化か ら重症無症候性虚血性心疾患を特定できた症例 を紹介し、自験例をまじえて2006 年発表の American Heart Association(以下、AHA) のScientific Statement であるAssessment of Coronary Artery Disease by Cardiac Computed Tomography1)と2007 年発表の ACCF/AHA Expert Consensus Document on Coronary Artery Calcium Scoring2)を中心に解説し、非侵襲的に冠動脈硬化を評価でき る単純CT で算出される冠動脈石灰化指数の有 用性を紹介する。

症例: 68 歳、男性

現病歴:来院数日前よりの血痰を主訴に来院し た。これまで胸部症状なし。

既往歴: 55 歳まで、消防士として激務をこなしていた。60 歳より近医で高血圧治療中。

喫煙歴: 18 歳より56 歳まで15 本/日

経過:胸部X 線では特記する異常所見なく、胸 部CT でも肺野には特記所見なかったが、図1 に示すように高度の冠動脈石灰化を認めた。 CACS(算出法は後述)1,113 点であった。運 動負荷心筋シンチを実施したところ、心電図に は有意な心電図変化がみられないにもかかわら ず、心筋イメージでは前壁後壁に虚血を認めた。 心臓カテーテル検査を実施したところ、図2 に 示すように左主幹部病変を伴う重症冠動脈疾患 と判明し、冠動脈バイパス術を実施した。無症 候性の虚血性心疾患をスクリーニングできる CACS の威力を初めて認識した一例であった。

図1

図1 症例:胸部CT

図2

図2 症例:冠動脈造影

1.冠動脈石灰化の病的意義

冠動脈石灰化は粥状動脈硬化のプロセスで生 じ、正常血管壁には生じないといわれる。従っ て、冠動脈石灰化を評価する意義は冠動脈硬化 の存在とその重症度を評価することにある。冠 動脈石灰化量は冠動脈硬化重症度と相関すると いわれる。その冠動脈石灰化を定量化したの が、単純C T で算出されるC A C S であり、 EBCT を用いたCACS の評価は欧米を中心に 10 年以上のデータの蓄積がある。最近では、 M D C T の管球回転速度が格段に速くなり、 EBCT とほぼ同等の冠動脈評価できるように なったことからCACS 測定ができるようにな った。CACS に関する多数の研究の積み重ねに より、表1 に示すようにAHA/ACC のコンセ ンサスも示されている。

表1 冠動脈石灰化のAHA/ACC のコンセンサス

表1
2.MDCT によるCACS の算出法

CACS の算出には2 つの方法がある。1 つは EBCT の撮影方法に準じて心電図同期下にコ ンベンショナルにスキャンする(prospective ECG gating 法)方法と、もう一方はヘリカル スキャンする方法(retrospective ECG gating 法)である。いずれの方法も良好な相関が あり、prospective ECG gating 法は被爆量低 減があり、これまでのEBCT の豊富なデータ を生かすこともできることから、prospectiveECG gating 法が勧められている。撮影は EBCT と同様に心基部から心尖部に向かって 20 スライスの連続スキャンをスライス厚3mm, スライス間隔3mm のコンベンショナルスキャ ンを行う。撮影時間は12 〜 13 秒間である。

得られた画像からCACS を算出するのに、 Agastson らが発表したスコアリングが最も一 般的に用いられる3)。石灰化部分にスライス毎 に関心領域をおいて、CT 値が130HU 以上で かつ2 ピクセル以上の面積があれば有意な石灰 化とし算定していく。その部分の最高のCT 値 によって重み付けを行い、石灰化の面積に重み 付けの数字を乗じて石灰化スコアとし、これを スライス毎に算出し、その総和をCACS とす るのである。CACS の算出はワークステーショ ンで半自動的に行い、1 症例あたり10 分以内 で解析可能である。

3.CACS の臨床的意義

表2 にみられるように冠動脈石灰化がみられ る群は冠動脈石灰化がみられない群に比し、虚 血性心疾患死もしくは心筋梗塞発症の危険度が 4.3 倍あり、予後因子として重要な情報を与え ることがわかる2)。また、中等度の危険因子を 要する無症候性の冠疾患患者群において、一次 予防が必要な患者群を精度よくスクリーニング できるという多くの研究成果がある。すなわ ち、CACS が400 点以上あると年2.4 %の心イ ベントを発症し、それは前述したFramingham Risk Score より算出される高度リスク群とほ ぼ同等のイベント発症率なのである。 Framingham Risk Score で中等度リスク群に もかかわらずCACS を用いることにより高度 リスク群を特定することができることから、現 時点では中等度リスク群においてCACS の活 用をすることが最も望ましい使用法と言われて いる。そのような研究成果を元に心臓病検診の 一環として用いられる程の普及が欧米ではみら れる。しかし、我が国ではCACS を測定する ことが普及していないためにデータベースが構築されていないのが現状であるので、無症状の 欧米人のデータを表3 に示す4)。当院では無症 候性であれば、25 パーセンタイルは低リスク 群、75 パーセンタイル以上を高リスク群とし て扱っているが、前述したように欧米人のデー タであるのでその結果の妥当性を検討する必要 がある。

表2 CACS の予後因子としての有用性をみたメタ分析

表2

表3 症状のない30 歳以上の成人35,246 人の年齢男女毎のCACS の分析

表3
図3

図3 病枝数と冠動脈石灰化指数(自験例)

図4

図4 CACS 重症度カテゴリー毎の虚血有無の割合

当院でのデータを示す。図3 は心臓カ テーテル検査を実施し、有意狭窄枝数と CACS の関係をみている。これまでの報 告と同様、重症冠疾患である程、CACS は高値であることがわかる。図4 は当院 整形外科術前患者のうち、80 歳以上の 超高齢者81 名を対象とした虚血の有無 とC A C S の関連をみたものである。 CACS10 点以下では虚血患者はみられ ず、1,000 点以上では71 %もの患者が 虚血患者である。ADL が低下し日常生 活で虚血発作が誘発されにくく、無症候 性虚血も多数存在する超高齢者患者群では、非 侵襲的に簡便に低リスク患者群と高リスク患者 群を同定できるCACS は非常に有用で、当院 の整形外科術前検査としてほぼルーチン検査と して定着している。

4.CACS の問題点

一つ目の問題は、CACS が年齢、性別によ り絶対値が変化することである。従って、 CACS により高リスク群のスクリーニングを行 う際には個々の症例に応じて判断する必要があ る。前述した表3 を現時点では用いるのが実用 的であると考える。

二つ目の問題は、日本でCACS が認知され ていず、保険収載されていないことである。日 本でも臨床データが蓄積され、有用性を確認で きれば早めに保険収載されることを願う。

三つ目の問題は、CT 検査であるので放射線 被曝することである。しかし、その被曝量は 0.5 〜 1.8mSv で現在隆盛を極めている冠動脈 造影CT 検査の8 〜 18mSv より圧倒的に少な い2)。被爆のリスクとベネフイットを十分に認 識しながら、患者教育と治療方針の決定に用い るのなら大きな情報を付加するのは間違いない と考える。

5.最後に

CACS の有用性を、自験例と共に欧米より 発表されているstatement を紹介した。造影C T により描出できる冠動脈C T に比し、 CACS は日本でいまだ十分認知されているとは いいがたい。造影剤を用いず単純CT で短時間 に算出でき、被曝も造影CT 検査にくらべ格段 に少ないCACS による評価を、ここメタボリ ック症候群先進県である沖縄でもっと活用し、 メタボリック症候群克服先進県として再生でき る日を願うのである。

引用文献
1)AHA Scientific Statement Assessment of Coronary Artery Disease by Cardiac Computed Tomography . Circulation 2006;114;1761-1791
2)ACCF/AHA Expert Clinical Expert Consensus Document on Coronary Artery Calcium Scoring By Computed Tomography in Global Cardiovascular Risk Assesment and in Evaluation of Patients With Chest Pain. JACC Vol.49, No.3, 2007 January 23, 2007:378-402
3)Agatston AS, et al: Quantification of coronary artery calcium using ultrafast computed tomography. J Am Coll Cardiol, 15;827-832, 1990
4)Hoff JA, et al: Age and gender distributions of coronary artery calcium detected by electron beam tomography in 35,246 adults. Am J Cardiol, 37;451- 457, 2001



Q U E S T I O N !

問題:冠動脈石灰化について誤っているのはど れか。

  • 正常冠動脈にはみられない。
  • 高度の石灰化病変がある程、有意狭窄病変 がある可能性が高い。
  • 男女差はみられない。
  • 石灰化部位と狭窄部位は必ずしも一致する わけではない。

CORRECT ANSWER! 11月号(vol.44)の正解

急性胆管炎診断・治療 〜ガイドラインを中心に〜

問題:急性胆管炎の診断、治療について正しい のを選べ。

  • 1)Charcot3 徴やReynolds5 徴を呈さない、急 性胆管炎もある。
  • 2)急性胆管炎の診断に採血検査は必須で、高 Amy 血症には注意を要する。
  • 3)急性腎不全、DIC、意識障害を呈す急性胆 管炎は重症である。
  • 4)急性胆管炎治療の原則はドレナージである。

a(1,3,4),b(1,2),c(2,3),d(4 のみ),e(1 〜 4 のすべて)(3)色覚の障害

正解 e