理事 宮里 善次
去る11 月19 日(水)日本医師会館に於いて 標記連絡協議会が開催されたのでその概要を報 告する。
始めに、今村常任理事より開会が宣言され、 次いで唐澤会長より概ね次のとおり挨拶があ った。
女性医師が就業継続、又は再就業をするには 実際に幅広い支援が必要である。とりわけ公的 支援が重要である。院内保育所の設置を勧めら れるが、多くの医療設備へ設置するには時間が かかり、地域によっては利用困難な場合もあ る。ついては、多様技術が求められる現状にお いて、現在利用可能な地域の保育施設やその他 の保育サービスを効率的に利用する事が現実的 な対応だと考える。また、政府、自治体の保育 システムの全般的な子育てに関わる、また幼少 期に関わる基本的なサービスの一環である。
昨年の男女共同参画フォーラムにおいて、男 女共同参画委員会の保育システム相談員制度の 提案があった。その提案を受け、今回の保育を 必要とする医師に対して適切な情報提供ができ る方を各都道府県医師会へお願いしたい。その 報告として、本日保育システム相談員講習会を 開催する事になった。
次に、座長の羽生田常任理事より挨拶があ った。
保育システム相談員の提案を男女共同参画委 員会から頂き、国会に対してもこういう制度を つくって頂きたいという要請をしている所であ る。それに向けて、今日は第一回の保育システ ム相談員講習会という事になった。また、現在 の保育所が院内にどの程度あるのかという調査 を行った。この病院アンケート調査は「院内の保育所を含 む医師就労支援の現況に関する調査」というタ イトルで昨年度、日本医師会男女共同参画委員 会が女性医師就労の今後の支援策を検討するた めに提案し、実施したものである。
女性医師の就労継続支援は、医師確保のうえ で医師全体に関わる重要な課題であり、本調査 においても産婦人科の女性医師の11 年目〜 15 年目においては15 %しか分娩の取り扱いを行っ ていないとの結果がでている。厚生労働省は 2006 年以降、就労支援の大きな柱として院内保 育所をあげ、そのための支援拡充を行っている。
しかし、医師の就労支援という観点での院内 保育所の課題や現状は全国的に明らかにされて いなかった。また、院内保育所は看護職員の利 用目的に作られていた経緯があり、医師の利用 そのものも限られている現状がある。また、院 内保育所だけではなく、実際には医師就労支援 というものは保育システムを含めた広い意味で の就労支援が必要である。
全国の病院、8,000 施設余りにアンケートを 送付し、回収率は47.8 %と高い結果となって いる。
院内保育所の設置状況は31 %で、3 分の1 の 病院が設置している。残りの6 割が設置してい ない理由というのは、施設にスペースが足りな い、経済的に難しいというのが半数をしめてい た。院内保育所の設置状況というのは地域別に も差がある。その背景には交通機関の状況、近 所・地域の保育園の状況等の要因がからんでい るといえる。
院内保育所の定員は20 人程度であり、必ず しも入所待ちの児童がいるとは限らない状況で ある。また、保育時間は19 時以降運営してい る保育所が4 割程度、土日、祝日も運営してい るところが4 割程度ある。保育時間について は、医師、看護師においては制約が大きい状況 である。病児保育がどの位行われているかにつ いては関心が高いと思うが、全体の1 割しか行 われていない。いくら病院の中とはいえ、病児 保育の為のスタッフを確保するのは難しい状況 である。看護職員を対象に作られていた経緯が あるため、実際に医師が利用しているのは少な く、現状は女性医師が使えない院内保育所が残 っている。また、男性の常勤、非常勤において も高い割合で利用できる状態ではないことが分 かった。このように医師の利用が少ないという 背景には物理的に難しい状況もあるが、それ以 外に医師のニーズにあっていない、保育時間が 合わない等がある。定員枠が少ないので入れな いとの理由が必ずしも多いとはいえない。
院内保育所を設置している施設には女性医師 の勤務割合が高く、設置していない施設は低い という結果になっている。
院内保育所設置が効果的であった、産休後、 育休後の復帰が増えたとの結果がでているが、 解らないとの回答も多く、実際には把握しづら い状況である。院内保育所についての課題とい うのが把握できていなかったが、今回の調査で 7 割以上の施設で運営費用の負担の大きさとい う事がわかった。
院内保育所については、政府から「病院内保 育所運営費事業」という補助金の交付が行われ ている。補助金を受給している施設は全体の 38.5 %、院内保育所を設置している施設の半数 が補助金を受けているが、地方自治体の財政事 情、条件等の厳しさもあり、なかなか人件費を カバーできるまでになっていない現状である。
院内保育所については、医師が利用できれば ある程度の医師確保につながっているという事 が判明している。
女性医師がいる病院は宿直・日直の免除、時 間短縮の対応が多く行われているが、全体とし て高い割合ではない。
就業支援策の実施も必ずしも十分に活きてい るわけではない。さらに、女性医師が離職した 後に復職するという事も重要であるが、復職支 援をしている施設は全体の4.1 %にすぎないと いう結果になっている。
就業支援については、常勤女性医師と非常勤 女性医師の間では有効な就労支援策に違いがみ られた。常勤の女性医師と非常勤の女性医師は それぞれ求めるもの、環境が変わってくるの で、違うプログラムを必要としている。就労形 態のニーズに即した対応策の推進が必要となっ てくる。
今回の調査で、院内保育所を設置している施 設には女性医師が多く就業していると判明して おり、その為効果をあげているとの結論がで た。また、女性医師が利用できない実態もある 事から、今後は条件の緩和や環境整備も必要と なってくる。就労支援という意味では宿直・当 直の免除の整備が不十分であるとわかり、医師 の就労形態に即したニーズに対応していく事が 必要である。保育所はあくまでも一つのオプシ ョンであり、さらに広い支援策が必要である。 経済的にも財政支援が重要となってくるので、 行政からの支援強化も必要だと考える。
保育システム相談員の概要について、男女共 同参画委員会副委員長の小笠原真澄先生より提 案があった。
@)保育システム相談員の提案:小笠原真澄 (男女共同参画委員会副委員長)
小笠原真澄先生より、保育システム相談員 の提案について資料に基づき説明があった。
女性医師が働きやすい環境を求め、就業を 継続していくことは、医師全体の労働環境の 改善につながり、医師の確保に対する対応策 の一つと考えられる。女性医師に求められる 保育システムとは労働形態の多様性、保育シ ステムの多様性であり、院内保育の充実、学 童保育の充実、制度利用の柔軟性があげら れる。
保育システム相談員の提案理由として、全 ての医療施設に院内保育所を設置する事は不 可能であり、地域によっては院内保育所の利 用が困難・非現実的である為、今ある保育資 源や制度を効率的に利用するのが現実的であ り、医師の保育に関する相談に応えられる保 育システム相談員の設置が柔軟かつ多様な支 援として有効に機能すると考えられる。
「保育システム相談員」とは、各地域で利用 できる保育サービスや制度についての情報を 収集し把握した上で、医師からの保育に関す る問い合わせ、相談に応えられる人材が求め られる。その窓口は当面は都道府県医師会に 設立する事が望ましい。具体的な役割として、
1)地域の保育施設・サービス・制度等に関 する情報を集約する事。
2)利用者の要望に応じ、情報を提供あるい は利用できるサービス・制度を組み合わせ て提供する事。
3)既にネットワークができている先行地域 では手続きを代行し、医療機関や行政など との調整を行う事があげられた。
また、新規事業となる「保育システム相談 員」の養成・普及では、保育園やベビーシッ ターの情報のほか、保育士や教員らが自宅で 乳幼児を保育する家庭福祉員(保育ママ)な ど、地域の保育システムについて調査・把握 する相談員を各都道府県医師会が養成・配置 する。子育てをしながら働く女性医師のニー ズに応え、適切な保育施設を紹介する仕組み である。
A)実際の地域における保育サービス・システム
実際に行われている保育サービス・システ ムについて、鹿児島県医師会の長柄光子先生 より「鹿児島市における保育サービス・シス テム」について、島根県医師会の春木宥子先 生より「松江市・出雲市における保育サービ ス」について、大阪府医師会の中川やよい先 生より「大阪市における保育サービス」につい て、北海道医師会の藤井美穂先生より「札幌 市の保育サービス・システム」について各地 域で行われているサービスの特徴、設置主 体、規模、保育時間や保育料、病児・病後児 保育の有無等について説明があった。
また、島根県医師会の中川先生の調査では、松江市と出雲市の現状を比較しており、 同じ県内で自治体の規模や利用者数、それぞ れのサービスの違いを比べて説明が行われた。
B)厚生労働省委託事業と保育システム相談 員(杉野剛:厚生労働省医政局医事課長)
厚生労働省が行っている「女性医師確保対 策に係る取り組みについて」資料に基づき説 明があった。
医師不足問題の背景には、医師派遣機能の 低下、病院勤務医の過重労働等があげられ る。その内の一つとして、女性医師の増加が あげられる。医師不足対策の裏には、女性医 師不足対策が重要であるとの説明があった。 厚生労働省の取り組みとして、1)医師不足 地域に対する国レベルの緊急臨時的医師派遣 システムの構築 2)病院勤務医の過重労働 を解消するための勤務環境整備等 3)女性 医師等の働きやすい職場環境整備 4)研修 医の都市への集中是正のための臨床研修病院 の定員の見直し等 5)医療リスクに対する 支援体制の整備 6)医師不足地域や診療科 で勤務する医師の養成の推進が行われてい る。医師確保対策の大きな柱として、女性医 師確保対策を厚生労働省として行っている。
また、今年の4 月に政府全体として「女性 参画加速プログラム」が決定し、活躍が期待 されながら女性の参画が進んでいない分野に ついての重点的取り組みとして、「勤務体制 の見直し」、「継続就業支援」、「復帰支援」が あげられ、意思決定の場への女性の登用促 進、医療専門職全体への支援等を含めて政府 全体の決定事項となっている。
また、平成19 年度から始めている「女性 医師支援センター事業」の予算請求額を含め た平成20 年度の予算と補正予算、平成21 年 度の概算要求の概要の説明があった。
最後に、女性医師保育支援事業の補助先が 都道府県となっている事から、各都道府県か ら進んで補助が必要との要望がない限り補助 金が出ないため、是非、医師会から補助金要 請をするよう各都道府県への連絡をお願いし たい旨依頼があった。
印象記
理事 宮里 善次
平成20 年11 月19 日、日本医師会館において、「日本医師会医師再就職支援事業保育システム 相談員講習会」が行われた。
まず唐澤会長は挨拶の中で、女性医師の就業継続や再就職をするには幅広い支援、とりわけ公 的支援、とりわけ保育支援が重要であると強調された。
日医総研から全国の院内保育所の設置率は31 %と低い現状が報告された。
院内保育所を持たない69 %の病院に対して、地域の保育施設を利用する提案がなされ、最後に 男女共同参加委員会副委員長の小笠原真澄氏から保育システム相談員の提案があった。
保育システム相談員とは
- 1.地域の保育施設、サービス、制度に関する情報を集約すること
- 2.利用者の要望に応じ、情報を提供あるいは利用できるサービス、制度を組み合わせて提供すること
- 3.既にネットワークができている先行地域では手続きを代行し、医療機関や行政などとの調整を 行う
この新規事業となる「保育システム相談員」の養成を各都道府県医師会が養成、配置する旨が説 明されたが、相談員一人で県全体の保育園の実体を把握するには無理があるような気がした。 人々のつながりが薄い大都会と異なり、地域の顔が見えやすい沖縄県では、地域の行政担当者に 問い合わせた方が手っ取り早いのではないか。
また乳幼児をかかえた女医の先生方にしても、地域の保育所情報に困っているとは思えない。
続いて鹿児島、大阪、島根、北海道医師会から各地の認可保育園、無認可保育園の現状が説明 されたが、説明の限りにおいては各地とも定員一杯の状態であった。
最後に厚労省医政局医事課長から医師不足の裏に女性医師不足の実体があり、女性医師支援を 強化する旨の発言があった。
また「女性医師保育支援事業」の補助先は都道府県であることに注意するよう指示があった。
県が要望しない限り補助金がでないため、医師会から県に補助金要請をするよう依頼があった。