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平成20 年度全国医師会勤務医部会連絡協議会

沖縄県医師会勤務医部会会長 城間 寛

平成20 年度全国医師会勤務医部会連絡協議 会(日医主催、千葉県医師会担当)が、「考え よう新しい日本の医療と勤務医の未来−今こそ 求められる医師の団結−」をメインテーマとし て、去る11 月22 日(土)千葉県浦安市で開催 され、全国から351 名の参加者があった。

唐澤人会長の代理で祝辞を述べた三上裕司 常任理事は、「昨年度、沖縄県で開催された協 議会では、勤務医の過酷な労働環境の改善、医 療費抑制政策の見直し等を求める「沖縄宣言」 が採択され、協議会からの強いメッセージとし て本会より関係各方面に同宣言を配布した。こ の協議会が長年にわたり勤務医を取り巻く諸課 題に取り組み、日本全国に向けてメッセージを 発信し続けていることは非常に意義深い」とあ いさつした。

つづいて、藤森宗徳千葉県医師会長が、「本 協議会は勤務医の過酷な労働環境をどう改善し 明るい「未来・光」をどう作り出していくか、 また、医師が大同団結してこそ諸問題の解決に 繋げていけると考え企画した。本協議会が勤務 医の未来を示唆する有益な協議会になることを 期待している」とあいさつした。

続いて、来賓祝辞として堂本暁子千葉県知 事と松崎秀樹浦安市長より歓迎のあいさつが あった。

特別講演1

日本医師会木下勝之常任理事が、「医師法第 21 条の改正と医療安全調査委員会設置法」と 題して講演。そのなかで、1)我が国は、医療 事故に対する刑事司法の関与が突出しているこ と、2)福島県立大野病院事件のように、医療 の専門家が判断すれば、日常の診療行為に起因 する死亡事例であるにもかかわらず、警察官の 判断によって、担当医は業務上過失致死罪容疑で逮捕・勾留されるという極めて不当な事件が 起こり始めたこと。このような医療事故に対し て、刑事司法による責任追及のみである刑事訴 追の誤った方向性を正すためには、刑事介入の 端緒となっている「医師法21 条」を改正しな ければならない。また、医療の質を高め、医療 安全に資する死因究明制度の創設のため、警察 へ代わる届出機関として、原因究明と再発防止 を目的とした「医療安全調査委員会」を新たに 設置しなければならない。

従って、医師法21 条の改正と医療安全調査委 員会設置法の制定は、医療事故の管理を刑事司 法から職業的専門家集団である医療界へ取り戻 す千載一隅のチャンスである。この機会を逃せ ば医療事故死に対する刑事訴追の誤った流れは 医師法21 条が続く限り永遠に続くことになる。

今回、法制化を目指している医療安全調査委 員会設置法は、国の捜査機関が、医師を中心と した医療安全調査委員会の判断を、尊重する事 を公式に認めたものであり、世界に類を見ない 新しい死因究明制度の法制化は、安心して診療 できる法的環境整備の基本であり、これを守り 抜くことこそ、総ての医師の責務であると考え ているのでご理解とご支援を賜りたいと呼びか けた。

日本医師会勤務医委員会報告

池田俊彦日医勤務医委員会委員長より「平成 21、22 年度の唐澤会長からの諮問は「医師不 足、偏在の是正を図るための方策−勤務医の労 働環境(過重労働)を改善するために−」とな っており、これから2 年かけ真摯に協議して答 申を纏めていきたい。今期の委員数は15 名で、 うち10 名が新しい委員となっている。本委員 会の主な役割は、1)会長諮問事項についての討 議と答申の作成、2)日医ニュース「勤務医のペ ージ」の企画編集、3)全国勤務医部会連絡協議 会への意見答申、4)都道府県医師会勤務医部会 連絡協議の企画・立案、勤務医座談会の実施等 である。

平成20 年8 月1 日現在における勤務医会員 数・勤務医部会設立状況調査では「全医師数は 27 万7,927 人、日医会員16 万5,072 人、うち 勤務医が7 万7,501 人(46.9 %)と前年と同じ 割合。都道府県医師会勤務医部会の設立状況 は、29 県で設立済、設置予定なしが18 県で、 今年度設立予定県はなし。」

また、今後の医療の展望を開くためには、 「違いのある事を互いに意識しながら、同じ道 を歩いていこう。違いが対立を生み、分裂を生 む。同じ医師同士違いを認めながら、対立を越 えて、固く団結しよう。今こそ危機意識を共有 し、共通の敵を叩き我々の未来を切り開こう。」 と呼びかけた。

千葉県医師会勤務医アンケート調査報告

原徹千葉県医師会理事より、千葉県内の病院 に勤務している勤務医の勤務状況、医療環境な どについて調査結果の報告があった。

各都道府県医師会および 関東ブロック地 区医師会会費徴収方法アンケート調査報告

守正英千葉県医師会監事より、勤務医に対す る取り組みを会費の面からとらえ、会費金額、 徴収方法、勤務医数の割合などについて調査結 果の報告があった。

次期担当県挨拶

次期担当県である島根県医師会田代收会長よ り、平成21 年11 月28 日(土)松江市の一畑 ホテルにおいて開催するので多くの先生方の参 加をお待ちしていると挨拶があった。

特別講演2

権丈善一慶應義塾大学商学部教授より、「日 本の医療のあるべき姿について」と題して講 演。そのなかで、社会保障のあり方について、 OECD 諸国30 カ国のうち、租税社会保障負担 が日本より低いのは韓国、トルコ、メキシコし かない。総人口に占める65 歳以上人口の割合 を見ると、高齢化が進んでいる日本で、現状の ままの低負担では再分配政策としての社会保障の給付はあり得ない。医療がまだ保っているこ と自体すごい。この国の今の状況で、負担増の ビジョンを示さない政府には拒否権を発動すべ し。社会主義政党が市場原理主義者と同じ主張 をしている事がこの国を不幸にしている。与野 党含めて負担増を言えない社会となっている。 日本の医療が今のような危機に瀕するまでにな ってしまった原因の多くは、実は医療界が揃い も揃って、非現実的な財政政策を信じ切ってき た、もしくは医療団体のトップが確信犯的に人 びとに広く非現実的な財政政策を信じ込ませ、 その信念が、この国の風土として深く定着して きたことにある。増税や社会保険料の引き上げ をしても政治家がかわいそうな目に遭わない日 本を政治家に準備することが必要である。

また、再分配政策としての社会保障政策につ いて、図1 の概念図に沿って説明があった。家 計は、生産要素を市場に供給し、その見返りと して所得(Y)を得る。市場の分配原則は、生産 要素が生産にどの程度貢献したかに応じて分配 するという<貢献原則>である。この1 次分配 から、政府は、租税・社会保障負担(T)を強制 的に徴収する。社会保障の基本的な役割は、市 場の分配原則である<貢献原則>にもとづいた 所得分配のあり方を、家計の必要に応じた<必 要原則>の方向に修正することなのである。

この社会保障制度を利用し、医療や介護、教 育、保育などの社会保障政策を現物給付で還元 し、国民に安心感が生まれ、消費を促すととも に、内需主導の経済の方向に向かうことができ る大きなきっかけになると述べた。

図1

図1 再分配政策としての社会保障

シンポジウム1

シンポジウム1 では、「勤務医が日本の医療 に果たす役割」と題して(1) 地域拠点病院の 現状と将来、(2)医師会との協力で作り上げた 小児科二次救急医療体制(3)女医が活躍出来 る環境の整備と各分野から発表が行われた。

安川朋久千葉労災病院呼吸器外科部長は、地 域医療崩壊という厳しい状況のなかで、千葉労 災病院が急性期病院としての役割を明確にし、 病院として得られる全ての診療報酬上のインセ ンティブの獲得に向けて、2002 年より1)医療 連携室を立ち上げ、地域の医療機関や患者に 様々な利便を図る。2)地域医療連携パスの研 究会である市原シームレス医療研究会を立ち上 げ、連携パスの運用を通じてより密な連携関係 を構築する。3)救急体制を整え、救急搬入患 者の積極的な受け入れを行った。これらの努力 の結果により、地域医療支援病院、がん診療連 携拠点病院、DPC 対象病院、管理型臨床研修 指定病院等の多くの診療報酬上のインセンティ ブを獲得し、病院の機能拡充を図っていった。 医師の仕事量は多くなったものの、高度医療を 実践しているという意識から、仕事に対する意 欲、満足度が以前よりも増している。今後の課 題については、本年度創設された新たな入院時 医学管理加算の取得をめざし、更に、勤務医の 疲弊・過重労働の最も大きな救急医療体制を構 築し、救急部を創設したいと述べた。

西牟田敏之国立病院機構下志津病院名誉院 長は、小児科人口10 万単位で小児科医数が全 国ワースト3 位である千葉県で、医師会、小児 科医会、行政が一体となって危なかった小児救 急体制を立て直した事例について1)医師会主 導で小児初期救急病診療所を開設し基幹病院勤 務医の支援と広域な小児救急体制を構築した印 旛市郡の例、2)医師会の初期急病診療所にお ける小児救急の充実強化を図ることにより、地 区基幹病院小児科の崩壊を防ぎ体制維持が可能 となった船橋市の例、3)医師会の努力により地域に欠如していたセンター病院を誘致し、そ れを核に地域医師が連携してセンター病院内に 初期急病診療体制を設置し、センター病院にお いて1、2、3 次救急が完結出来る体制を構築し た八千代市の例をそれぞれ紹介した。まとめと して、医師不足は小児科のみならず、全ての診 療科に共通する問題であり、医師会と関係機関 とが共同して解決を図ってきた今回の取り組み が、今後診療科を越えて、医療資源の有効活 用、病院診療所の機能分化と連携等、地域医療 のあり方を考える手掛かりになることを期待し ていると述べた。

内田啓子東京女子医科大学腎臓内科准教授 は、「女性医師問題=子育て支援問題」ではな い。女性医師としてではなく医師として認めら れたいとの想いからこれまで続けてきた。子育 て等の問題は個人的な問題に過ぎず、自分で何 とかするのが当たり前だと考える育ち方年代で ある。たまたま勤務医不足の一つとして女性医 師問題が社会的に大きく取り上げられるように なったことを強調しておきたい。女性医師が近 い将来40 %を占めることが予測され、30 代を 中心に妊娠出産子育てを理由に仕事を離れると 考えると、中堅医師の不足が現時点よりも深刻 化されることが懸念される。そのようなことか ら、我々女子医大が女性医師が働き続けられる 環境をどのように整備したら良いかをふまえ、 1)女性医学研究者支援室の設置、2)院内保 育施設および病児保育施設の充実、3)短時間 労働枠の設置、4)女性医師再教育センター設 置等の取り組み、5)相談窓口の設置、6)学 童保育(来年度導入予定)の設置を積極的に取 り組んだ。女性医師が活躍できる勤務環境を整 えることは、男性医師も働きやすい職場が実現 できるものと考えていると述べた。

シンポジウム2

シンポジウム2 では、「勤務医の将来展望」 と題して(1)勤務医の生きがいについて、(2) 臨床研究、高度医療を行う喜び、(3)医療提供 体制の構造変化と勤務医の処遇改善と各分野か ら発表が行われた。

岩崎秀昭千葉県医師会勤務医部会常任幹事 は、厚労省が本年4 月に発表した勤務医の負担 軽減策1,500 億円について検証を試みたが、増 収が病院にあったとしても勤務医個人に恩恵が ないことを懸念し、勤務医のモチベーションの 向上につながらないとして、勤務医の生きがい について検討を行った。公立病院の一勤務医と して本人の経験をもとに勤務医のメリットにつ いて、1)組織の中で守られている、2)会議等 があるが自分の仕事に専念できる、3)DPC、 電子カルテ、新病院の立ち上げ等、貴重な体験 が出来る、4)他科の協力が得られる、5)一人 の患者さんの経過を最後まで追うことが出来 る、6)労働条件が厳しいと行っても何とか交 代で休めることを挙げた。また、勤務医の生き がいは、1)病院でしかできない医療ができる、 2)若い医師が派遣され刺激を受け、また学会 などに参加でき、時代に乗り遅れないなどの理 由を述べた。

江川直人都立駒込病院消化器内科部長は、勤 務医を続けている最大の理由について、1)臨 床が好きである、2)最新、先端の医療に関わ れる、3)多くの仲間と助け合いながら医療を 行える点をあげた。また、勤務医として働くや りがいを診療、臨床研究、教育の3 つの観点か ら、診療では、一人の患者に対し診療各科が有 機的に連携し治療方針を決め、集学的治療を実 施するキャンサーボードを活用して、がん患者 の最後の砦であるという自負と最良の医療を行 うことに誇りを持っている。臨床研究は、どん な小さなことでも新しい事実を発見する興奮と 達成感、病院の規模から症例の豊富さと多彩さ をもっており、好奇心や知的探究心をあおって いる。加えて、各科とも世界へ発信する成果を 出そうとする気概にあふれ、研究意欲を高めて いる。教育では、研修医教育を通じて、次世代 の医師を育てているという誇りと、彼らの成長する姿をみる喜びが、指導医の強いモチベーシ ョンにつながっている。時として、なぜ勤務医 を続けているのか自問自答するが、「臨床研究、 高度医療」を行うことが気持ちの中で満たされ ている点が大きいと思う。従って、「疲労やス トレス」はかなりあるものの、ほどよい「刺激 と快感」が若干でも上回っているということが 喜びだと述べた。

松山幸弘千葉商科大学大学院政策研究科客 員教授は、医療経済学者の立場から、1)医療 費を増やすことについて財務省を説得する和合 の研究、2)勤務医の先生方の個人の犠牲によ らずにセーフティーネット機能の医療事業体の 構築について触れ、医療政策は、地域医療圏毎 にグローバルスタンダード医療を提供できる体 制づくりが必要であるが、日本は医療資源共有 の仕組みを欠いている。具体的には、県立病 院、市町村立病院、国立病院、国立附属病院、 労災病院、社会保険病院など税金で支えられた 病院郡が同じ医療圏で競合、重複投資を行って おり、公立病院がセーフティーネットを阻害し ている。地域における医療資源の共有は世界の 潮流である。また、アメリカでは民間非営利病 院と公立病院がIHN(Integrated Healthcare Network)と略される医療事業体が存在し、広 域医療圏単位で経営資源を共有し重複投資の防 止に努めている。IHN とは、広域医療圏におい て、急性期病院、亜急性期病院、外来手術セン ター、プライマリケア、検査・画像診断センタ ー、リハビリ施設、介護施設、在宅ケア事業 所、医療保険会社など、地域住民に医療サービ スを提供する為に必要な機能を可能な限り網羅 的に有する医療事業体のことである。
病院単独経緯の発想では医療経営が成り立たな い時代になってきている。

従って、我が国も地域医療圏でセーフティー ネット機能を担う医療事業体は各種医療施設を 包含するIHN である必要があると述べた。ま た、現在、旭市の旭中央病院で当プロジェクト の実現にむけて準備計画を進めていて、上手く いけば全国にノウハウを提供したいと述べた。

協議会の最後に、全国医師会勤務医部会連絡 協議会の総意の下、勤務医の過重労働の改善を 求める「千葉宣言」が満場一致で採択された。

千葉宣言

医療費抑制政策は勤務医に過重な労働を 要求し、さらに国民の過大な期待は、はなは だしく勤務医を疲弊させています。そのため に病院を去る医師はあとを絶たず、医療崩壊 はますます深刻な状況です。

この状況を一刻も早く改善し我々にとって 魅力ある職場を取り戻し、明るい明日の医療 を築くため次の宣言をする。

  • 一、勤務医の劣悪な環境を改善するため政府 は直ちに医療費抑制政策をやめ、診療報酬 制度の早急な見直しを求める。
  • 一、国民の求める高い医療水準を保つため、 医師の計画的増員を求める。
  • 一、医師が安心して診療に専念できる法的整 備を求める。
  • 一、女性医師が働き続けられる職場環境の整 備を求める。
  • 一、そして、我々勤務医は医師会活動を通 し、住民と共に地域のより良い医療体制を 築いていく努力を続ける。

平成20年11月22日
     全国医師会勤務医部会連絡協議会・千葉

印象記

城間寛

沖縄県医師会勤務医部会長
城間 寛

昨年、沖縄県で開催された全国医師会勤務医部会連絡協議会が、今年度は去る11 月22 日千葉 県浦安市で開かれ参加してきました。低医療費政策が原因で起こる医療崩壊が現実のものとなり つつある現在、特に勤務医に降りかかる過剰な負担に非常に熱い議論が行われました。

特別講演で「医師法第21 条の改正と医療安全調査委員会設置法(仮称)」という題で、日本医 師会常任理事の木下勝之先生(順天堂大学産婦人科主任教授。退任後医療法人九折会成城木下病 院理事長)が、これまでの医師法21 条に関して、現実的に起こった事案に対して警察・検察のと ってきた対応、その後の関係する諸学会がとってきた対応やマスコミの反応、特に福島県立大野 病院事件の経過など通して説明がありました。その後、この医師法21 条についての日本医師会の スタンスを示し、説明がありました。

これについては、多くの医師が大変注目している事なので私がコメントする必要もない事だと 思うのですが、簡単に説明すると、平成16 年に医師法第21 条に関する最高裁判決の結果、診療 関連死は異常死に含まれるようになった事を受け、外科学会や内科学会など関連学会が中心にな って、全国10 地域で中立的専門機関に届け出を行う制度のモデル事業を開始した。日本医師会と しては、平成18 年2 月に発生した福島県立大野病院事件を受けて『医療事故責任問題検討委員 会』を立ち上げた。その委員会の考え方としては1)医療事故に対する責任問題は、刑事司法に関 係した問題であり、医療界だけの独りよがりな勝手な議論や要望だけでは、法律の改正や制定は できない。2)医師は、刑事司法の専門家である元検事長、刑法学者、弁護士等と医療事故死に対 する刑事司法のあり方を検討し、現実的解決法を見出さねばならないと言うものである。そして、 委員会の共通認識として「医療に関連した死亡例のみを特別視は出来ない。従って、医療事故に よる死亡事例のすべてを免責にすることは出来ない。限定的であっても、業務上過失致死罪の対 象は存在する。」という説明であった。

その後、この委員会の提言を受け、厚労省は、平成19 年4 月から『診療行為に関連した死亡の 死因究明等のあり方に関する検討委員会』を立ち上げ、第1 〜 3 次試案に引き続き医療安全調査 会設置法大網を発表してきた。その後の内容の変遷については、医師会員であれば注目の所です が、委員会の構成員や法的な問題でまだ結論が出ていませんが、全ての医師が注目して成り行き を確認していただきたいと思います。

講演が終わり質疑に入ったところ、フロアから多くの挙手があり、「この調査委員会のあり方で は、勤務医は安心して医療が出来ない」と強く反論され、収集も着かない状態で終了となった。 この件に関しては、私が単に、勤務医部会の印象記で説明するだけでは不十分であり、県医師会 執行部は、早い時期にこの問題に対して、県医師会員に説明する機会を作って頂きたいと思いま した。

その他にもいくつか興味あるプログラムがありましたが、その中で特に印象に残ったのは、権 丈善一(けんじょうよしかず)先生による講演であった。権丈先生は慶應義塾大学の商学部の教 授で、社会保障制度を主な研究分野としている。医療制度や年金制度について詳しく、多くの著書があり、「社会保障制度の新たな制度設計」、「再分配政策の政治経済学」「医療政策は選挙で変 える」など医療従事者である我々の立場から見ても、現状をよく理解・把握している学者だと感 じた。その中で特に印象に残った事は「医療・介護、保育、教育サービスを、所得・地域・年 齢・性別に関わらず皆が自由に使える『共有地』のようにしよう」と言う呼びかけであった。こ れまで小泉政権以来、自由市場経済に委ね、小さな政府を理想とし、医療や教育にも市場原理を 導入しようとしてきた。その過程で医療費の抑制が行われ、今日の医療崩壊が起こってきたと多 くの医療従事者は考えている事だと思う。権丈先生は、それ以前から、小さすぎる政府の危険性 を「再分配政策の政治経済学」などで指摘・主張をしてしてきている。現在の状況は、まさしく その指摘が現実になった状態とも考えられる。また、医療崩壊を回避するための問題点も指摘さ れた。その主旨は、「現在の医療崩壊や社会保障制度の改革に財源が必要なことは明らかなことだ が、現在の日本の与党も野党も賛成しないし、政治家も財源確保のために税金の値上げを言うと 当選しないので、誰もその事を主張しない。結局、今の状況を作っているのは国民の姿勢そのも のでしかない。」と言う事である。その中で私が感じたのは、権丈先生みたいな研究者を顧問にで も据えて、政府や国民に対して、医療や社会保障制度のグランドデザインを、理論的根拠を基に 形成し、主張、啓蒙することが今医師会としてやるべき事ではないだろうか。その事を意識して、 日本医師会のホームページをアクセスしてみて見ると、「グランドデザイン2007」−国民が安心 できる最善の医療を目指して−と言うタイトルで医師会の考え方が打ち出されている。しかし、 内容は国が出す色々な政策に対する医師会の立場と言う形でコメントされているが、決して国民 が読んで理解・納得するようなものとは思えない。長期にわたる医療のあるべき姿が示されてい なくて、具体性が感じられない。権丈先生の主張は、特に医師会を擁護するというわけではない が、我々、医療従事者がこれまで主張してきた低医療費政策がもたらす社会の混乱を、研究者の 立場で論拠・主張しているので、医師会は是非協力して、国民・マスコミにこれらの内容を紹介 する役割を演じて欲しいところです。