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「凡事徹底」こそ

多鹿昌幸

沖縄県立中部病院地域救命救急診療科
多鹿 昌幸

今年の干支は己丑であります。このたび年男 である私に今年の抱負について書く機会を与え ていただきました。知人の話では十二支「丑」 にはじっくり、ゆっくりだが時間をかけて着実 に物事を進めていくという特徴があるそうで す。果たして自分がそうであるかは別として、 この意味にふさわしい言葉を書物の中で見つけ ました。それは「凡事徹底」という言葉です。

この言葉は鍵山秀三郎氏が著書の中で使用し ておられる言葉です。その言葉どおり「誰でも できる、当たり前のことを例外なく行う」とい う意味です。筆者はイエローハットの創業者 で、40 年以上にわたり毎日掃除を欠かさず行 ってこられた実践者です。創業時代、荒んだ社 員の心を少しでも癒すことができればという気 持ちから会社の掃除を始められたそうです。社 員や経営コンサルタントから馬鹿にされようが 何を言われようが、自分にできるのはこれだけ だと信じで毎日掃除をされてきたそうです。そ の実践の結果や広がりについては著書を読んで いただくとして、私自身についての「凡事徹 底」について考えてみました。

私をはじめ、医師の基本は患者さんを「診 る」ことです。自分の診察を振り返ってみて、 全ての患者さんを「診る」際に自分の心は例外 なく相手を見てるだろうか。患者さんを診てい るようで、頭の中では鑑別疾患、そして次にや るべき仕事は何かと先ばかりを見て、今目の前 にいる患者さんを実はきちんと診ていないので はないか。どの医師もそうですが、時間に追わ れながら診療をしており、しかも何かひとつの ことをしている際に必ず別の用件、相談、など が入ってきます。「ひとつのことに集中できな い状況だから仕方ない。」といつも自分に言い 訳をしていたように思います。

今、私は県立中部病院救急室での職をいただ いております。これが他の科に変われば、他の 病院に変われば、他の職に変われば、目の前の 人に集中できるようになるかというとそんなこ とは全くない。そう気付かせてくれる体験を最 近いたしました。

今年の10 月29 日に長男を授かりました。長 女の保育園送迎などもあって今回は妻の実家で はなく、今のアパートで産直後を過ごすことに なりました。夏休み・年休を利用して家事見習 いを行いましたが(家事の合間にこの文章を書 いています。)これほど大変とは思いませんで した。(世の女性は本当にエライと思いました。) 妻に代わって炊事・洗濯・掃除・長女の送迎な どを行いました。三度の食事の献立を考え、買 い物、炊事と途中でしなければならいことを思 い出したりします。食事中に長男のオムツ替え や授乳で中断することもよくあります。日々の 営みである家事・子育てがこうなのですからど の仕事も同時に複数のことをこなしたり、何か をしている途中で中断が入るというのは日常な のだと思います。

話を元に戻します。私にとっての凡事は心を こめて患者さんを診ることです。また、一緒に診療している研修医を見ることです。何気ない ことかもしれませんが、医者が心をこめること ができるかどうかで患者さんに与える影響が変 わる気がします。最近では「祈り」に治癒効果 があるのではないかという研究がされていると も聞きます。先輩医師からも「相手の目を見て 診療に当たる」「愛の心を持って診療にあたる」 ことの重要さを最近よく教えていただきます。 「凡事徹底」言い訳せず、心を込めて患者を見 る。医療を取り巻く状況は穏やかではありませ んが、これを今年の抱負として日々すごしてい きたいと思います。

最後にこの機会を与えてくださった當銘先 生、県医師会の方々、お休みをいただいた職場 の皆様に感謝申し上げます。