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抱負は毎年同じです

清水隆裕

特定医療法人敬愛会ちばなクリニック
健康管理センター医長 清水 隆裕

「(また)何か怒られるようなことやったっ け?」とドキドキしながら医師会からの封筒を 開けて驚いた。干支随筆の依頼だ。そう言われ れば私は丑年生まれの年男で今年36 歳になる。 どのような経緯で私に白羽の矢が立ったのか謎 ではあるが、せっかく頂いた紙面だ。推薦者の メンツをつぶさぬよう(期待ハズレかもしれな いが)慎重に筆を進めさせていただきたい。

私は医師としてきわめて中途半端で医師会区 分によると診療科目は「その他」である。所属 学会で言えば放射線科医だが個人的な事情によ り専門医受験を見送って以来“幽霊学会員”と なっている。日本人間ドック学会認定医ではあ るが、学会が日本医学会に加盟していないなど 諸事情もあり専門医の定義を満たさない。“今 さら”という気持ちもあり内科学会などにも入 っていない。だから履歴書を書くにしても認定 証をかき集める必要もないのですぐ終わる。こ う書くと、我ながらよくもそれでメシが喰える ものだと不思議に思う。

ところが昨年9 月、そんな私が講師に担ぎあ げられた。徳島で開催された第49 回日本人間 ドック学会総会ランチョンセミナーでのこと だ。そこで私は「特定健診・特定保健指導にお ける禁煙支援の実際」の演題で大阪府立健康科 学センターの中村正和先生と並んで講演を行っ た。国内屈指の有識者と学位すらもたない若造 を並べて講師に選ぶという前代未聞の挑戦を冒 したのはノバルティスファーマのニコチネル TTS 担当MR たち。彼らが私を演者に選んだ のは「タバコを止める気はない」と答える(一 般には無関心期と評されるであろう)喫煙者を 禁煙外来に誘導する技術を評価してのことのよ うだ。思えば昨年は・・・否、振り返ると昨年 ばかりかここ数年は禁煙指導ばかり行ってい る。今年度上半期(*)に当センターを受診し た7,864 人を見渡してみると現喫煙者1,372 人 を上回る1,671 人が「タバコを止めた」とい う。なお、このうち181 人はこの1 年以内にや めている。

いまさら書くまでもないが、喫煙は各種悪性 疾患のみならず糖尿病・高血圧・脂質異常症な どの生活習慣病、更には腰椎間板ヘルニアのよ うな思いもよらないものまで有意に増やすと言 われている。常時ニコチン切れのストレスに曝 されている喫煙者は自殺率が非喫煙者の4 倍に 及ぶという報告もある。喫煙者の減少は受動喫 煙機会の減少にも直結し、特に小児疾患の減少 に大きく寄与できる。また国内各地で救急医療 の崩壊が叫ばれているが、公共施設を全面禁煙 にすれば心筋梗塞や脳卒中を防ぎ救急搬送を減 らすことができるであろうことは諸外国の経験 から十分に予想される。つまり禁煙推進は喫煙 者の健康維持にとどまらず、自殺予防策の一環 でもあり小児科医療の一部でもあり救急医療再 生への切札でもある。そう考えると(非喫煙者 はもちろんだが)タバコをやめた方々はご自身 のためにも周囲の方々のためにも実に良い選択をされたと思う。

さて、かくのごとく禁煙支援しかできない私 の目標は還暦を迎えるまでに“必要とされない 医者”になり引退することである。つまりは、 残り2 廻でタバコのない世界を実現する…非現 実的との批判もあろうがそれが私の理想であ り、それに向けて一歩でも進むことが私の毎年 の抱負である。昨年5 月には待望の経口禁煙補 助薬チャンピックスが国内に初登場した。内服 薬である点も重要だがタバコを吸いながら始め られるという点からも非常に画期的な禁煙補助 薬で、今年の人間ドック受診者には禁煙したと 答えてくれる人がさらに増えるのではないかと 大いに期待している。

(*)2008 年4 月1 日から9 月末日