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丑年に因み、抱負なども少々

天願敬

北部地区医師会病院 天願 敬

新年明けましておめでとうございます。とは 申し上げても突然の< 新春干支随筆> なるもの の原稿執筆依頼に戸惑い、筆を執ってはみたも のの、何を書いたら良いのか、思うように進み ません。何でも毎回その年の干支にあたる会員 の方がこのコーナーを担当される由で今回、ど うゆう風の吹き回しか、あらぬ方向へ早くもミ ーニシが吹き始めたのか、若輩者の私に白羽の 矢?が立てられたようです。どうかお付き合い 下さい。新年と申しましても、この原稿を執筆 している今現在は10 月の末で、ようやく秋の 足音が聞こえ始めた折、私の勤務するここ名護 の地では、過ぎ去る夏の残り陽を惜しみ、すが るようにいまだにセミの鳴き声が響いています。

さて、昨年も様々な事が沖縄、日本、世界中 で巻き起こりました。ネズミと言えばすばしっ こいイメージですが、その子年であったためか “速さ”に関する話題に事欠かない一年であっ たように思われます。一枚の水着からも多くの 話題が生まれた夏でした。何の話かお忘れの読 者の方もいらっしゃるかもしれませんが、そう です、まさにSPEEDO 社製の水着の話題で す。遠い昔の話のように感じますが、ついこの 前の北京五輪での事です。本大会前の世界各地 の予選から注目でした。4 年間の猛特訓の末、 突如革命的なデバイスの出現により飛躍的な新 記録更新のラッシュ!凄い事です。昨日までの 記録をいとも簡単に塗り替えてしまうのですか ら。でも、ふと画面の中の熱狂冷めやらぬ水面 に、小さくも冷静な疑問の波紋を見たのは私一 人だけではなかったはずです。

スピードと言えば食品の中では冷凍食品や即 席食品がありますが、そこに潜む安全性の問題 もマスコミを騒がせました。食に対する安全の 神話とも言えるほど日頃から信頼しきっていた 我々日本人にとって、まさに青天の霹靂であっ たはずです。ですが、霹靂が連日轟く大荒れの 空模様に、すっかり慣れてしまった感すらあり ます。

政治経済の世界もめまぐるしい動きを見せま した。エネルギー問題の福音とも目論見られて いたバイオエタノール、その産出のために大豆 やとうもろこしの供給不足、飼料の高騰から畜 産業を直撃。世界的食糧難を招き、巡り巡って 小麦粉の値上げ、名護の名物そば屋も100 円 (約14%)値上がりしてしまいました。さらに 巡り巡ってガソリンの高騰はまさにモーレツな 速さで200 円/l を目前に迫る勢いでした。満タ ン5,000 円だったのは、はるか昔の事のようで す。アメリカのサブプライムローンに端を発し た世界的な株価の乱高下、急速に進む円高の影 響は日本企業全体に大打撃を与えました。

さて、今年は丑年です。牛歩と言えば歩みの 遅い例えから、しばしば会議や投票の戦術とし て用いられます。しかし力強く、一歩一歩確実 に地に足をつけて進む印象は、頼もしくもあり ます。私は幼少の頃より大食いでよく寝る子で したから、親にはよく“あんたは本当に牛にな るよ!”とたしなめられたものです。しかしな がら、牛は農作業、酪農、畜産業と非常に有益で、長く人類の生活に密に関わってきた家畜で ある事は周知の通りで、ときに信仰の対象とさ えなっています。大切なものだからこそ、尊敬 の念を込めて、ある時代ここ沖縄では、流行最 先端の名前に取り入れられたのだという事は想 像に難くないでしょう。

スピードが求められる時代である事はもちろ ん事実です。その利便性を享受できるのは本当 にすばらしい事です。ただ、一歩一歩確実にあ ゆみを進め、その揺らぎのない道程を築き得た 者だけが、その先の頂きに到達できるのだろう と自分に言い聞かせ、この一年を実り多きもの とできるよう、新たな気持ちで確実な一歩を踏 み出して行きたい。丑の己に鞭打つ気持ちです。