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丑年に生まれて

新垣均

アラカキ眼科 新垣 均

7 年前、那覇市真嘉比にアラカキ眼科を開院 した。市街地から少し離れた静かな住宅街だ。 環境はいいが、地理的にわかりにくいのが難点 である。

開院後しばらくは、場所の問い合わせが多く「わかりにくい、交通の便が悪い」などの苦情 を幾度となく受けた。

そんな中で「一回来たら、覚えられるさ」と 励ましてくれたかたがいた。今でも心に残る有 り難い言葉である。

最近やっと地域になじんできた。少しずつ場 所の問い合わせは減ってきている。

開院してから、患者さんとの距離が近いと感じ ることが多い。ふとした言動に感動させられる。

ある患者さんとスタッフの会話である。

70 歳代のその女性は、ショッピングカート を歩行器代りに利用していた。診察を終え帰り 際、突然雨が降ってきた。

スタッフが、傘を差し出した。「何も今降ら なくていいのにね」と話しかけている。

次の瞬間、耳に入ってきた返事に驚いた。

「恵みの雨さー。感謝しなければ」とさらり と言った。うそのない心からの言葉である。

数ヶ月ごとに通院する別のかたは、自宅で寝 たきりのご主人を介護している。

「毎日、大変ですね」と声をかける。

「ほんと手がかかるよ。でもそれが楽しいと 思うこともあるから不思議さー」と満面の笑顔 を見せた。

同じ立場のとき、自分は先輩がたのような前 向きな気持ちになれるだろうか・・・。

私は、出産予定日より早く生まれたため、寅 年になれなかった。自分の生まれ年が好きでは なく、星占いなど、生年月日をもとにする占い のたぐいを信用しなかった。

開院前、クリニックの名称を決めるとき、初 めて占いを頼った。姓名判断の本によると「あ らかき」が画数的によいとある。

迷いが生じた。勤務医時代、サインに使用して きた「アラカキ」が気に入っていたからである。

親しみやすい「ひらがな」にするか「カタカ ナ」か、ずいぶん悩んだが答えは出そうもない。

偶然目にした、国際通りの占い師に鑑定を受 けると「カタカナが画数的に吉」と背中を押された。「アラカキ」との付き合いは幸いにも続 いている。

日常の何気ない出会いが、人の考え方を変 える。

今まで関心がなかったのに、テレビや旅先で 牛たちを目にすると、思わず見入ってしまう。 暖かい雰囲気やゆったりと大地を踏みしめる様 が好きになったのかも知れない。不思議と前向 きな気持ちになれる。

苦労をものともせず、プラスの力に換える先 輩がたの笑顔を見てきた。診察し、ケアしてい るつもりの自分が、いつの間にか癒されている。

学びの多い環境に感謝しながら、一歩ずつ着 実に進んでいきたい。生まれ年のように。