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丑年に因んで

砂川一哉

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
砂川 一哉

あけましておめでとうございます。吾輩はウ シ(年)であります。さて、新年の挨拶に年賀 状があります。近年はゆっくり年賀状などを書 いている時間などないヒトが多く、めっきり出 番が少なくなりましたが、ヒトがわれわれウシ を含む十二支を最も思い出すのはこの時期では ないでしょうか。

ヒトの世界は、便利なもので、時計を見れば 何時かわかり、方位磁石を見ればどこが北かな んてことは簡単にわかります。最近では、GPS 装置などを利用したカーナビなどで、方位など 意識しなくても目的の場所につくことができま す。カレンダーも地図も然りです。

もしも、ヒトが時計もカレンダーも方位磁石 もさらには地図もない世界に迷い込んだとした らどうでしょう。今日はいつかわからず、目的 地にはなかなかたどり着けないでしょう。大昔 のヒトは、十二支を使ってその目的を果たすこ とを考えたようです。十二支の起源は中国殷の 時代といいますから、紀元前1046 年ごろの話 のようです。ウシ年でいきますと、時刻は午前 1 時から3 時ごろ。この2 時間を4 つにわけて、 「草木も眠る丑三つ時」というのは午前2 時〜 2 時半ということになります。

さて、われわれウシ年ですが、ウシは昔から 草や穀物を食べて生きている草食動物です。い つの頃からか、飼料に他のウシの骨が混入され たりして、困ったことになっています。ウシも 困っていますが、ヒトも困っています。これが 後にBSE と呼ばれるプリオンの病気を引き起 こしました。ヒトの食料においても、賞味期限 切れの食品の販売、産地偽装などが新聞などで 報道されています。某国からの食品において は、蛋白量偽装のため、メラミンという毒性の あるものまで故意に混入される事件があり、こ のような食品に関連した報道が後を絶ちませ ん。ヒトの世界も大変です。国産のものを食べ れば良いというヒトもいるようですが、食料自 給率が、昭和40 年カロリーベースで73 %であ ったものが、40 %に落ちているという現実で は外国の食糧に依存せざるをえません。今後も 大きな問題となりそうです。

また、ウシの話に戻りますが、牧場で草を食 むわれわれウシの姿は、実にのんびりとした光 景です。特にウシは4 つの胃袋を持っており、 反芻しながらゆっくりと食べます。この文章の 筆者もウシ年だけあって、のんびり屋のようで す。しかし、とかく最近は物事の速さが徐々に(もしかしたら指数関数的に)速くなっていま す。江戸時代ですら、手紙はヒトが走ってまた はウマに乗って運んでいたのですから(さすが にウシではいけません)。今や、飛行機に乗っ て海外へヒトが動くことは当たり前。情報に至 っては、携帯電話の発達や特にインターネット の発達によって、瞬時に全世界へ運んでしまい ます。十数年前には想像もできなかったことが 現実となっています。

ところで、筆者は昨年10 月ごろ、離島代診 で阿嘉島に出張する機会がありました。阿嘉・ 慶留間をあわせて380 人程度の農業と漁業の島 です。本島から高速艇でわずか50 分という距 離にありながらまるで別世界です。毎朝、窓か ら穏やかな海と島の大半が緑に覆われた慶留間 島を眺め、夜は灯火も少なく、天の川が見える ほどの満天の星。残念ながら、ウシはいません でしたが、慶留間島には野生のシカ(十二支に は選ばれませんでしたが)が生息しているそう です。おそらく、穏やかな時を過ごしていると 想像します。

牛歩の歩みというと、国会のときの牛歩戦術 が思い出されますが、便利になったり・忙しく なったりしている昨今、今年の十二支のウシの ように、のんびり・ゆっくりとした時間の大切 さを感じています。こんなウシ年の筆者です が、今年もよろしくお願い申し上げます。