沖縄協同病院院長 西銘 圭蔵
5 回目の干支の寄稿をせよとのこと。同工異 曲をおそれ、この間、当院の院内誌に書いた 「院長の頭の中」と称したコラムからいくつか を紹介したい。
< ワーキング・プアII>
一般に「働く貧困層」と訳されている。しか し、実態は「働いても貧困層」と訳したほうが よさそうである。貧富の二極分化はいよいよア メリカ社会に近づいている。
私が明らかに一般の生活レベルが変わってき たと感じたのは5 年前である。月に1 〜 2 回の 東京出張時にアルミ缶を集める人が出現した。 今ではアルミ缶集めは、沖縄でも普通にみられ る風景になった。手提げで持っていく人、リヤ カーで集める人、自動車で集める人と移り変わ ってきた。一体、この現象を生み出したものは 何か。
5 年前というと小泉政権が誕生した年であ る。郵政民営化に象徴される「民間活力」路線 が、次々と実施されてきた。政府が医療福祉、 介護や年金などに最終的な責任を持たなくなっ た。さらに、生活保護申請への対処も厳しく、 餓死者や自殺者まででている。
「苛政は虎よりも猛し」。虎は人間を一人し か食べないが、政治がひどいと沢山の人間が死 んでいく。二千年前の諺を死語にするには、政 治を変える以外にない。(2007 年1 月21 日)
< 真実の限界>
ある時の日本腎臓学会の表紙は示唆に富ん でいた。
巨大な象を小さい人々がどう理解しているか?
という漫画である。
耳で煽られた人は扇風機だという。
しっぽをつかんだ人は鞭だという。
牙の先端に触れた人は槍だという。
足を抱きかかえた人は柱だという。
躯体をなでた人は壁だという。
いずれの判断もその人が「体験した範囲」に おいては真実である。
しかし、全体を観察すれば、巨大な象だと判 明できる。
そして、おのおのが判断したことは、部分に おいてのみ真実であることが理解できる。医療 従事者は象より、はるかに複雑な組織に生き、 深遠な人間および病気を対象とする。
部分の真実から全体の真実に近づくため、謙 虚に他人の意見に耳を傾けたい。
(2007 年3 月25 日)
< 困ったときの憲法>
いやはや、とんでもない国会である。 来年から後期高齢者医療制度ができる。75 歳以 上の国民だけを対象とした医療制度である。
別立て制度にして医療費を抑制するのであ ろう。
教育三法を改訂した。十年ごとの教員免許の更 新制をきめた。
君が代を歌わない教員をなくすのであろう。 国民投票法が成立した。
自衛隊が海外で武力行使できるようにするの であろう。
社会保険庁を非公務員型法人にするという。
行方不明5,000 万件の年金もろともであろう。 さて、国民はどうすればいいか、思案している。 誰でも従わなければならない日本国憲法と相談 してみる。あるある。
第59 条2 衆議院で可決し、参議院でこれと 異なった議決をした法律案は、衆議院で出席議 員の3 分の2 以上の多数で再び可決したとき は、法律となる。
つまり、参議院で政権政党が過半数を割れ ば、法案を成立させるのは難しくなる(予算と 外交法案は別)。
それを初めて実現するのが、7 月の参議院選 挙かもしれない。なにせ、国民はすべて怒って いるから。(2007 年6 月26 日)
< 一年を振り返る>
毎日の連続ということから考えると、年末だ からどうこういうことではないが、年の瀬は、 やはり、心は一年をふりかえる。
院長室には、書家から寄贈された額が置いて ある。今回は皆様にもゆっくり味わっていただ きたい。
きのうは今日のいにしえ
今日はあしたのむかし
(2007年12月23日)
なぜか、昨年のものは適当なものがなかった。 ご寛容を願いたい。