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世界一の「長樹」緑のトンネル、沖縄の名物

池田祐之

榕原医院 池田 祐之

動機

暑い沖縄でも木陰を吹き渡る風は驚くほど涼 しい。元来、各地の集落の広場には大木が木陰 を作っていた。生活の激変で木は伐られ、日陰 のない、暑苦しい町に変わった。木陰を取り戻 したい。紹介するのは、ここ20 年ほど温めて いるアイデアである。新春の夢を語るには格好 の話題と考え、披露する。

見聞

有名な日光の杉並木は全長約37km で世界一 長い並木道とされている。道の長さと併せて、 そこに植えられた木も立派であることが重要で ある。その土地に適した木が力一杯伸びてい る姿に見る人は感動する。現在の街中で見か けるチャチな並木を見るのとは別の視点が必 要である。

オーストラリアのシドニーに植物園がある。 30 年前、ここで大きな木を見た。建物の間の テニスコート3 面分程の広場の中央に大きなイ ンドゴムノキがあって、広場全体を傘のように 覆っていた。

TV 番組「宇宙船地球号」(2004 年10 月17 日(日)放送)でインドゴムノキの活きている 橋を放映していた。それはヒマラヤの麓の村に あった。インドゴムノキの気根を束ねて水平に 引き伸ばして谷を渡すのである。歳月を重ねる と気根は太く成長し、対岸に根を張り枝も生え て、人や家畜が渡ることが出来る立派な橋にな っていた。

ガジュマルと言えば名護の「ヒンプンガジュ マル」である。何度か見に行った。それだけで 一つの世界、生態圏を維持している様な風格を 感じた。しかし、あれは孤立樹である。あれが 並木ならどうなるであろうかと考えた。

提案

那覇から名護まで木陰を伝って歩くことがで きる長さ70km の世界一の緑のトンネルを作る ことを提案する。木の種類は、沖縄ではフク ギ、ガジュマル、琉球松、アカギ、チャーギ、 ホルトノキ、イジュ、楠木、ゴムノキ等がある。 ガジュマルを推薦する。ここまでは普通の発 想、平凡な提案である。私の提案の独創性はガ ジュマルの特別な性質を活用することにある。

1 本のガジュマルの木から分かれた枝は絡み 合うと溶け合う。そこで、一本の親木から挿し 木で3 万本の苗を育て、沿道の両側に暫定的に 5m 間隔で植える。元は同じ枝である。20 〜 30 年もすれば梢は絡み合い溶け合って、並木どこ ろか、長さ70km の一本の木、世界一の巨木に なる。幹の間隔は成長を待って適切に調節す る。普通、木の大きさは、樹齢、樹高、幹回り 等で表現する。長さで表現するところがユニー クである。

この提案の利点は、規模が大きく、一見、実 現困難と受け止められるが、技術的には至極単 純な原理で成立することである。成立に20 〜 30 年、出来上がった姿を見て、模倣しても育 つのに20 〜 30 年を要する。短くとも半世紀 間、長ければ数世紀間、独創性を主張できる。

緑のトンネルを眺め、その下を歩くために沢 山の人が沖縄を訪れる。健康と観光の資源とし て有効であろう。

沖縄と言えば台風である。毎年の台風に耐え て折角大きくなった木がある年の台風で根こそ ぎ倒されたり、太い枝が折れたりしたのを見て きた。アカギもガジュマルも被害を受ける。多 くは根が貧弱な時、災難に会う。一本の木にし てしまえば隣同士の幹が支え合うので被害は少 ないであろう。

実証試験

原理的に可能でも、実例がなければ信用しな いのが世の中である。実現可能証明と苗木生産 を目的に、実証試験を行うべきである。

先ず、由緒正しい親木を選定する。生物学的 にはどうでもよいことであるが、故実に詳しく、一家言ある人物が必ずいるもので、こうし た物々しさも世間的には必要である。いわば、 お祭騒ぎととらえれば理解されよう。この木か ら挿し穂を4 〜 50 本採取し、苗木に育てる。 適当な公園に苗木を2 列に植え、梢の融合を実 証する。実証が終り、「長樹」育成が決定すれ ば、これらの実験樹から苗木を大量生産する。

夢想

百年後、沖縄は再び長寿の国である。長樹は 健康保持のシンボルとして全島に伸長し、年間 1 千万人の観光客がこの木の下を歩き、走るた めに世界中から訪れる。6 割は中国人である。 涼風が吹き渡るので夏にもマラソン大会が実施 される。見倣って2 〜 3 の国で長樹の育成を試 みたが、病虫害があり、成功していない。