沖縄県赤十字血液センター所長 屋良 勲
日本赤十字社が取り組んでいる輸血用血液の 安全対策については、献血時の問診と血清学的 検査に加え二次検査として高精度のNAT 検査 を行っていますが、肝炎ウイルスやHIV などは 感染直後のいわゆるウインドウ期にウイルスが 検出できないことによる感染の可能性が否定で きないことから、次のような安全対策を実施し ています。
(1)献血受付時の本人確認の実施
検査目的の献血を防止するため、平成18 年4 月から身分証明書等の提示による本人確 認を行っています。あくまで安全で責任ある 献血をお願いするためです。その後自己申告 用の問診票に、正直に正確に記入して頂きま す。健康状態、3 日間内の服薬、歯科治療、 既往歴、感染症の有無、輸血・臓器移植(胎 盤抽出製剤の使用を含む)の有無、海外渡航 歴、同性愛・不特定多数との性交渉等の有無 などです。献血者本人と輸血を受ける患者の 健康を確保するためです。ご理解をお願いし ます。
(2)新鮮凍結血漿(FFP)の貯留保管
平成17 年7 月供給分から6 ヶ月間貯留保 管された新鮮凍結血漿(FFP)を供給して います。これにより、貯留保管中に得られた 献血後情報や遡及調査などで判明した感染リ スクのある血液を除外します。
(3)遡及調査自主ガイドラインの策定
献血血液の検査においてウイルス感染が確 認された時に行う遡及調査について、平成 17 年4 月から、厚生労働省が作成した「血液 製剤等に係わる遡及調査ガイドライン」を施 行しています。これにより輸血後の感染症が 輸血血液製剤に拠るものか、他の原因に拠る ものか判然とします。
(4)保存前白血球除去
輸血用血液製剤中の白血球に起因する副作 用・感染症等を減少させるため、保存前の輸 血用血液製剤から白血球を除去します。成分 採血由来の血小板(PC)については、平成 16 年10 月採血分から実施しています。また、 平成18 年3 月から成分採血由来の新鮮凍結 血漿(FFP − 5)についても白血球除去を開 始し、6 ヶ月間の貯留保管を行い供給してい ます。
(5)NAT の精度向上
平成18 年8 月から検査を行う検体数の単 位を50 プールから20 プールへ縮小し、核酸 増幅検査(NAT)の精度を向上させました。 さらに検査精度を向上させるため、次世代試 薬について評価・検討を行っています。 NAT 用検体は、その日のうちに北海道、東 京都、京都府、平成21 年4 月から九州血液 センター等のNAT 施設へ送られます。NAT 検査は、抗原や抗体ではなくウイルスを構成 する核酸(DNA またはRNA)の一部を約1 億倍に増幅しウイルスの有無を検出するた め、非常に感度と特異性が高く、ウインドウ 期の短縮を可能にします。しかしながら、現 行の技術では100 %の安全性を確保出来ませ ん。例えばエイズウイルスの場合、抗体検査 では感染から約22 日間は、検査で見つける ことは出来ませんが、NAT 検査ではこのウ インドウ期を約半分に短縮しますが、ゼロに することは出来ません。検査目的の献血を辞 退し、献血前の問診に正しく申告して頂きますようお願いします。
(6)医療機関での輸血後感染症に関する全数調査
平成16 年1 月から調査協力医療機関で輸血 を受けた患者さんの輸血前後の検体保管を行 い、患者さんの輸血後の検体がN A T 検査 (HBV、HCV 及びHIV)で陽性の場合は輸血 前の検体を検査し、輸血後の感染症と輸血用血 液製剤の因果関係について検証します。
(7)E 型肝炎ウィルス(HEV)の疫学調査
HEV 感染症の高い北海道地区において、喫 食歴に関わる事前の問診の有効性等について検 討すると共に、HEV の核酸増幅検査(NAT) による感染率の調査を行っており、陽性となっ た血液は排除しています。また、全国における HEV 感染の実態を調査するために、地域ごと に検体を集め、抗体検査を実施しています。
(8)感染因子の不活化技術にかかる評価及び 検証の実施
血液中に存在する可能性のあるウイルスや 細菌の感染力を失わせる不活化技術について は、輸血用血液製剤別に複数の方法がありま す。それぞれの不活化技術の安全性、有効 性、製剤の品質への影響、製造行程への影響 等を勘案しながら、現在検討を行っています。
(9)その他
放射線照射輸血用血液製剤;
輸血によるGVHD(Graft Versus Host Disease 移植片対宿主病)を予防するため、 輸血用血液に放射線を照射して、混在するリ ンパ球の機能を不活化させた放射線照射製剤 (血漿製剤を除く)を、2000 年より製造供給 しています。
初流血除去;
細菌の混入している可能性(特に穿刺部の 皮膚表在菌)のある刺した直後に流出する 「初流血」の25ml は輸血用に使用せず、輸血 のための検査用血液や保管用血液として活用 しています。輸血後感染症等の輸血副作用に おける原因の調査や感染拡大を防止する対策 としての遡及調査が出来るように11 年間冷 凍保管しています。未知の病原体への備えで もあります。
さて、今年も「はたちの献血キャンペーン」 が始まります。成人式を迎えた「はたちの若 者」を中心に若年層の献血意識を高めるためで す。少子高齢化社会の影響もありますが、統計 的に次世代を担う十代、二十代の献血者の減少 が気になります。若年者層の意識の改革が大切 です。小中高校生への献血教室、高校生の卒業 記念献血、血液センターでの高校生の職場研修 等は好評で、ユイマール献血の思想の拡大を期 待しています。血液事業は国の重要な事業の一 つで、「血液法」では、国、県、市町村が献血 思想の啓蒙普及を行い、血液センターが採血、 検査、製造、供給を行うことになっています。 医療機関の責務としては血液製剤の適正使用が 定められています。さらに献血者の減少に伴 い、自己血輸血が推奨されます。血液センター では、医療機関の血液の需要に答えるよう献血 車の増車等で対応していますが、今後血液の不 足が懸念されます。輸血を施行する主治医には インフォームドコンセントを得る際には血液事 情を説明し、家族知人への献血の呼びかけをお 願いします。